100人に尋ねて正解を得る方法?

(ペイレスイメージズ/アフロ)

ミレニアム前後からNature Publishing Group(Nature出版グループ)は次々と新しい雑誌を創刊し、Natureの名前がついた雑誌だけですでに16誌に達しているが、今年も新しく「Nature Human Behaviour」をスタートさせた。メールマガジンで送られてきた第1号の論文リストから面白そうな4編に目を通してみたが、これまでの雑誌が扱っていた論文と比べて、より一般の興味を引く論文が掲載されている印象を持った。雑誌発行の目的と展望を読んで見ると、人間の行動に関することならなんでもありという挑戦的な目的を掲げており、「人間科学」専門誌として重要な雑誌へと発展するように思える。しかし、Nature, Cell,Scienceが伝統ある専門誌を駆逐し、寡占体制が着々と形成されているようだ。

この新しい雑誌発刊を記念してではと勘ぐっているが、1月26日号のNatureにも人間の行動を考えさせる不思議な論文が掲載されていた。マサチューセッツ工科大学からの論文で、タイトルは「A solution to the single-question crowd wisdom problem(問題解決のための集合知が抱える問題に対する一つの対策)」だ。

著者らが解きたいと考えている問題をまとめると次のようになる。例えばアメリカを旅行したとき周りのアメリカ人に「ペンシルバニア州の首府はフィラデルフィア?」、あるいは「サウスカロライナ州の首府はコロンビア?」とそれぞれ最も有名な都市をあげて尋ねて、正しい答えを導き出そうとしたと考えてみよう。もし最初の問いも、次の問いもYesが60%,Noが40%だとすると、多数決で答えはフィラデルフィア、コロンビアになる。これが単純な統計原理だ。ところが正解はハリスバーグとコロンビアで、ペンシルバニア州の首府については間違った情報を得てしまう。すなわち、単純な多数決原理では、一般的に有名な都市が首府だと思い込んだり、知識の程度がまちまちな人達に尋ねても正解が得られないことが多い。

より正解に近づくには、それぞれの答えの信頼度についてのデータを集め補正する必要がある。例えば、Yes/Noを聞くと同時に、自分の答えにどのぐらい自信があるかを尋ねて、答えを補正することができる。しかし人間の自信ほど信頼おけないものはない。実際データを集めてみると、フィラデルフィアに関する問題の場合、Yes/Noどちらの答えを出した人も、自分の答えは信頼おけると答えている。一方、多くの人が自分の知識に自信がないと感じているサウスカロライナ州の場合はどちらの答えを出した人も、信頼度はばらつく。すなわち、答えに対する自信度で補正しても、結局正しい答えが導けない。従って、この方法は科学的現象などに適用できても、人間の知識のように多くの要素が関わる場合、あまり役立たない。

そこで著者らは、自分の答えの信頼性を聞くかわりに、自分の答えが他人の答えとどのぐらい一致しているかを予想してもらうと、正解に近づけるのではと提案する。

例えばペンシルバニア州の首府の場合、誰もが一番有名なフィラデルフィアだと思い込んでおり、フィラデルフィアと答えた人も他の人が同じように考えていると予想する。しかし、ハリスバーグという正解を知っている人は、この答えはそう簡単ではないと思っており、他の人はまず間違うだろうと予測する。すなわちYesの答えを出した人は他の人と100%意見が一致すると言い、Noと答えた人はまず他人とは一致しないと予想する。理論的に、この条件で補正すると実際の正解に大きく近づく可能性が出てくる。一方、サウスカロライナ州の首府のように、ほとんどの人に知られていない場合、答える側も難しい問題だということを認識しており、結果他人との一致率についての予測度はばらつくため、コロンビアという答えが大きく補正されることはない。

理屈っぽくなったが、考えてみるとグッドアイデアだ。このアイデアを使えるかどうか、アメリカ各州の首府についての問題、一般的な物知りクイズ、皮膚科医の診断能力を調べる問題、現代絵画の価格を推定する問題に、一般の人や専門家に答えてもらい、実際のデータに基づいて上に述べた3種類の方法で答えを導き、どの方法が実際の正解に最も近いか調べている。

結果は全ての場合で、著者らの提案する他人と自分の意見の一致についての予測値を加味した時が一番正解に近い数値が得られるという結果を得ている。

一種の論理学の論文と言えるが、ちょっとしたアイデアが立派な論文になっているのに驚くとともに、人間の行動を科学的に理解する重要な提案が行われていることもわかる。

問題は、政治や経済のような、嘘がまかり通る世界でこの手法が使えるかだが、直感的に簡単でないだろうという印象を持つ。嘘が補正できて、私たちに正しい道を指し示せるアルゴリズムを発見できれば、フィールズ賞とノーベル平和賞を合わせて受賞できるだろう。生きているうちに、そんな論文を読んでみたい。