血圧に不思議な効果

(ペイレスイメージズ/アフロ)

肥満、高血圧、高血糖、高コレステロールは様々な成人病の4大原因で、全部持っているという人も多いだろう。

それぞれは一種の症状だが、この症状が続くと動脈硬化をはじめとする様々な病変が気づかないうちに蓄積し、最後は卒中、狭心症、心筋梗塞、腎不全、失明など取り返しのつかない結果を招く。これを防ぐため、原因が生活習慣にあるならそれを改め、必要なら薬剤治療を通して、進行を食い止める必要がある。

これまで行われた多くの追跡調査では、血圧は低ければ低いほど心臓病や卒中の危険性は低くなることがわかっており、現在では多くの医師が収縮期圧が130mmHgを超えないことを目標に指導を行っている。

もちろん私も「血圧が高いと体に悪い」という原則に異議を唱えるわけではなく、自分自身でも適正な血圧が保たれるように努力しているが、最近血圧にも意外な効果があることを示す2編の論文を目にして「アレ!」と驚いたので、紹介することにした。

最初の論文は、カナダトロントにあるマウントサイナイ病院のグループが中国瀏陽市で続けている調査研究から明らかになった「妊娠前に血圧の高い女性からは男児が生まれやすい」という驚くべき結果についての論文で、American Journal of Hypertensionオンライン版に掲載された。

タイトルは「Maternal blood pressure before pregnancy and sex of baby: a prospective preconception cohort study(妊娠前の血圧と生まれた子供の性別:妊娠前からの前向きコホート研究)」。

この研究は、結婚したばかりの女性をリクルートし、妊娠、出産、育児と続く期間、女性とその子供の健康を追跡する調査で、おそらく現在も続けられているはずだ。

この論文では2009年に結婚し、その後妊娠、出産を経験した約1500人の女性について、生まれた子供の性別と、妊娠前の血中脂肪、血糖、血圧、肥満、喫煙歴との相関を調べている。直感的には、どれも関係がなさそうだが、驚くことに血圧が高いほど男児の生まれる確率が高い事が観察された。出産年齢など様々な要因を補正して計算し直した男児が生まれる比率をオッズであらわすと、妊娠前の収縮期圧が100mmHgの母親ではオッズ1で子供の男女比に差はない。これが120mmHgになるとオッズ1.5、160mmHgで2.3へと上昇する。

面白いのはこの相関が妊娠前の収縮期圧のみで見られることで、妊娠中の血圧には相関が見られない。

なぜこんなことが起こるのか、問われても答えはない。ただ、例えば天災、テロ、恐慌に遭遇した女性からは男児が生まれる確率が高いことがこれまでも報告されており、これらの報告もストレスにより血圧が上昇したと結果と考えると、この研究と同じ現象を見ているのかもしれない。

まあ理屈を考えるのはやめて、こんなこともあるのかとひとつ物知りになった気分になってもらえばいいだろう。

もう一編の論文はカリフォルニア大学アーバイン校からの論文で、90歳以上の高齢者の血圧と痴呆症の発症率の関係について調べた研究でAlzheimer’s & Dementiaにオンライン出版された。

タイトルは「Age of onset of hypertension and risk of dementia in the oldest-old: The 90+ study(超高齢者での高血圧の発症年齢と痴呆のリスク:90+調査)」だ。

この研究では1981年に退職者の健康状態を追跡する調査に参加した約13000人の中から、90歳に達した人たちをリクルートしなおし(「90+調査研究」と呼んでいる)、リクルート時点で痴呆を認めなかった559人について痴呆の発症を追跡し、高血圧の関係について調べている。

さて結果だが、90歳を超えると年に約14%の人が痴呆を発症する。90歳を超えると確かに発症率は高い。

一方高血圧だが、退職時に30%の人が発症しており、リクルートし直した90歳時点ではこの比率が58%に上昇していた。

これまで、高血圧は痴呆のリスク要因であることが示されているが、この研究でも、退職時に高血圧だった人は確かに痴呆になる率が1.25倍と上がっている。

しかし、高齢になってから高血圧を発症した人は、例えば80代で発症した人で0.58、90歳以降に発症した人ではなんと0.37と痴呆になるリスクが低下している。また、この傾向は治療の有無にかかわらず変化しないという結果だ。中高年の高血圧と、超高齢になってからの高血圧は全く違う意味があるようだ。

この現象の解釈も難しい。痴呆の発症と逆相関するとはいえ、高血圧は超高齢者でも心血管系には悪影響があるはずで、この結果をどう健康管理に活かしていけばいいのか、はっきりした答えはない。

このように、私たちは超高齢者の生理学をまだまだ理解していない。90歳以上の人口が200万人に近づいている今こそ、超高齢者の生理学研究を進めなければならない。