研修医ローテーションの境に潜む危険性(米国での研究)

(ペイレスイメージズ/アフロ)

他の制度と違い、医療に関わる制度はその性質上たえず改善される必要がある。例えば現在問題になっている薬価もそうだし、医療と医療スタッフの関係など、多岐にわたる。ただ、制度の変更に起因する成果や問題を客観的に評価することは重要だ。おそらく我が国でも評価が行われていると思うが、発表された評価を目にする機会は滅多にない。できればその結果が審査をへた論文として発表されることが望ましい。

そんな例とも言える論文がコロラド大学を中心とする研究グループから12月6日発行の米国医師会雑誌に掲載された(JAMA vol 316, p2204)。タイトルは「Association between end-of-rotation resident transition in care and mortality among hospitalized patients (ローテーション終了によるレジデントの交代と入院患者さんのケアや死亡率との相関)」だ。

最近の米国の医療や公衆衛生学の論文を見ていると、インターンやレジデントの燃え尽き症候群や自殺が大きな問題になっているのがわかる。大学を終えて間もない医師にとっては、精神的にも肉体的にも過酷な労働であることは、自分の経験からもよくわかる。実際、1日16時間を超える労働が当たり前だったようだ。ようやく2011年に1年目のレジデントやインターンの労働時間が16時間を超えてはならないという卒後教育評議会からの勧告が行われ、勤務シフトが行われるようになった。おそらく一般の方から見たら16時間とはなんとブラック労働かと驚かれると思うが、私には納得できる。

ただ、重症患者さんを抱えて16時間目に強制的に仕事を中断しなければならないとき、次の医師に引き継ぎがうまくいくかどうかは患者さんにとって死活問題になる。これについては、労働時間制限導入前後で入院患者さんの死亡率が調べられ、特に問題ないことが確認され、論文として発表されている。

この研究の目的は、インターンやレジデントのローテーションが終わり、次のグループに引き継がれるとき、労働時間制限による患者さんへの影響が出ていないかを調べることだ。

私も経験があるが、我が国では医師免許が交付されるとすぐに研修医が始まる。これを起点として研修プログラムは設計されており、多くの場合患者さんの都合に合わせて設計されていない。結果、研修が始まると前のプログラムの医師から患者さんを引き継ぐことになる。この交代時期に引き継ぎがうまくいっているかどうかを調べたのが今回の研究だ。

舞台はニューヨークにある退役軍人を対象にする医療ケアシステム(Veterans Affaur NY Harbor Healthcare System)傘下の病院で、大学の研修機関になっている。この研究では、直接医師が出会って行う引き継ぎではなく、文書による引き継ぎが対象になっている。実際この方式が普通で、90%の研修プログラムが文書による引き継ぎだ(少なくとも私の時代も同じだった)。もちろん、ことの重要性から、引き継ぎの方法については教育が行われている。当然レジデントの上には指導医がいるので、十分カバーできることが前提になっているのだろう。

さて、引き継ぎ期間と、それ以外の時期での患者さんの死亡率を比べると、1)インターンだけ交代、2)レジデントだけ交代、そして、3)インターンとレジデントが同時に交代した場合の死亡率の増加は、オッズ比でそれぞれ1)12%、2)7%、3)18%上昇している。また、引き継ぎ機関に退院した患者さんの、退院後30日目、60日目の死亡率や再入院率で見ても、それ以外の時期と比べて確実に高い。おそらくこのことは、指導医がいたとしても、インターンやレジデントが患者さんのケアの中心になっており、その引き継ぎが極めて重要であることがわかる。

さらに重要なのは、この引き継ぎリスクが、16時間労働制限が守られるようになってから大きく上昇している点だ。例えばレジデントだけが交代した場合でみると、労働時間制限前はオッズ比1.01だったのが、労働制限導入後は1.13に上昇している。他のグループはさらに悪い結果になっている。すなわち、労働を削ると引き継ぎがうまくいっていないという実態が明らかになった。

患者さんにとって重大な結果で、さらに改善が必要だ。16時間労働制限をもう一度撤廃するというオプションがない以上、新しい方法を考える必要がある。もちろんこの結果が正しいのか、他の機関でも検討が行われ、その上で引き継ぎがスムースに進むプログラムが考えられるだろう。

この論文を読んで、私が一番驚くのは結果ではない。結果については十分ありえることだと思う。それ以上に、このような調査に医療施設が積極的に協力し、あまり好ましくない結果をトップジャーナルに掲載している点だ。さらに、このような調査が、病院のコンピューターにある記録を抽出することのみで可能になるのも驚きだ。この公開性こそが、患者の立場に立った医療制度改善には最も重要なことがよくわかる。

我が国の医師も、自分の働いている病院で、同じ研究が可能か考えてみると、患者さんへの公開度が測れるのではないだろうか。