今日は11月25日にScienceに掲載されたミーティングレポートを元に、ドマニシ人について紹介する。Scienceの編集者Ann Gibbonsさんが書いた記事で、タイトルは「The Wanderers(さすらい人)」と、私の好きな曲の一つシューベルトのピアノ曲と同じロマンチックなタイトルがついている。

この記事は、今年の9月グルジア共和国トビリシで開催されたドマニシ人についての研究会についてのレポートだ。

ドマニシ人と言われても一般には馴染みがないだろう。私も人類進化の本を読み始めて初めて知った名前で、1991年グルジア共和国ドマニシで発見された人類の化石を指している。この記事がレポートしている研究会も、ドマニシ人発見25周年を記念して開催されている。

私の頭の中に残るドマニシ人のイメージは、歯痛に苦しむ姿だ。メモを残していないのでどの本で読んだのか忘れてしまったが、その本では頭蓋に残る歯の状態から、初期の人類が齲歯、歯周病に苦しんでいたことを示す例としてあげていた。

ドマニシ人が注目されるのは、アフリカから移動した最初の人類である点だ。諸説あるが人類がサルから分離するのが7百万年前、2足歩行のオーストラリアピテクスが現れるのが450万年前、そして最初のホモ族が現れるのが約300万年前と考えられている。現在化石に残る最も古い人類は、ホモ・ハビリスで約260万年前のエチオピアに生息していたことが確認できている。多くの人に馴染みの北京原人やジャワ原人はホモ・エレクトスと総称され、170万年前頃に中国内陸部へ進出した共通先祖に由来すると考えられる。

ドマニシ人が注目されるのは、骨格がホモ・ハビリスとホモ・エレクトスを結びつける中間の形態を持つため、ホモ・エレクトスの共通祖先ではないかと考えられるからだ。Gibbonsさんの記事では、「ドマニシ人は私にとってはジャワ原人の先祖だ」という、我が国国立自然博物館の海部さんのコメントを引用してこの可能性を示唆している。ただ、100万年を超えるとDNAが残存する確率はほとんどないので、今後もドマニシ人と、他のホモ族との関係は謎のまま残るように思う。

素人が誤解を恐れず、この記事から見えてくるドマニシ人の姿をまとめると以下のようになる。

1) 身長は150cm前後で、エレクトスより20cm低い。骨格から、おそらく完全な2足歩行より、チンパンジーに近い歩き方をしていた。

2) オルドワン石器と呼ばれる最も原始的な石器を使っている。オルドワン型の石器はアフリカからドマニシまでの経路で発見されており、この軌跡が、ドマニシ人がホモ・ハビリスから別れ、アフリカから脱出した軌跡と一致していると考えられる。

3) オルドワン石器では、肉を骨からそいだりすることは難しく、おそらく自分の歯でナマ肉をかじり、骨を割っていたと考えられる。これがドマニシ人の頭蓋骨に痛々しい歯周病の跡が残る原因と考えられる。これらの結果は、ドマニシ人生活が植物を主食とする生活から、肉食中心に変わっていたことを示している。

4) おそらく肉食に移行したことが、寒い北への移動のきっかけになったと考える研究者もいる。すなわち、人間に対する恐れのない動物が多い場所では、原始的石器しかない場合でも狩りがしやすく、それに惹かれて寒い北への移動が行われたというもっともらしい話だ。

5) ドマニシ人の下顎は間違いなくエレクトスと言えるが、頭蓋の大きさは個体ごとに大きく異なる、全体的にはハビリスに近いため、ドマニシ人をエレクトスに分類できるか難しい。特に下顎の発達は、肉食に歯を使うことで後天的に発達したとも考えられる。実際、日本人の歴史を見ても10cm身長が伸びることは証明されている。だからこそ、ハビリスとエレクトスをつなぐ中間としてドマニシ人の価値は大きいと思う。

私自身にとってこの記事は、歯痛に苦しむドマニシ人のイメージが間違っていなかったこと、またその原因が、歯を道具と同じように使っていたからと納得させてくれた重要な記事だった。

このように古代DNA解読研究は言うに及ばず、人類起源を探す様々な研究の最近の発展には目をみはる。

特にドマニシ人が誕生した200万年前後は、他人への思いやりのような人間的性質が現れる鍵となる時期ではないかと多くの研究者が考え始めている。我々人間が地球を支配するようになったのは、他の種を殺す力に長けたからではなく、自分以外に人間や動物を思いやる心を獲得したことが、人類進化を牽引し、言葉の獲得まで進んだと考える研究者は多い。だからこそ180万年前のドマニシ人の研究から目が離せない。

一方今の世界に目をやると、ブレクジット、トランプ現象と、ヘイトクライム、人種差別と人間の間に線を引く動きが急速に広がり始めているように思える。もし思いやりの心に対する自然選択が人類進化の原動力だったのなら、現代社会の状況は人類が間違いなく滅びへの歩みを始めたことを意味している。