自閉症的性質が人類進化を牽引した

(写真:ロイター/アフロ)

最近Penny Spikinsの「How compassion made us human(思いやりの心が私たちを人間にしたか)」を買った。彼女の「考古学は感情の歴史を解明できるか」という疑問に興味を持って読み始めたところ、タイムリーに彼女を筆頭著者とする総説が発表された。

人類進化にとって自閉症傾向を持つ人の存在の重要性を考察した総説で、考古学に関する雑誌Time & Mindの11月15日号に掲載されている。論文はOpen Accessなので専門家だけでなく、グーグル翻訳などを使って、ぜひ一般の方も一読されることをお勧めする。タイトルは「Are there alternative adaptive strategies to human pro-sociality? The role of collaborative morality in the emergence of personality variation and autistic traits (人間の社会性にとっての適応戦略に他の選択肢はあるか?変わった個性や自閉症的性質の誕生に果たす共同的道徳性の役割)」だ。

総説を読んでみて、この総説には人類進化と自閉症についての多くのアイデアが詰まっていることがわかると共に、彼女の研究が目指している方向性についてもよく理解できた。

彼女は、「なぜ社会性に問題があるとされる自閉症が、今も淘汰されず1-2%という高い頻度で存在しているのか?」という素朴な疑問をまず問いかける。そして、「協同的道徳性の誕生が人類進化の方向を決定づけたが、この新しい社会システムを維持するためには多様な人材を擁することが重要になる。従って、自閉症的傾向を持つ人材は、淘汰の対象になるどころか、協同的道徳性の社会に欠かせない存在として認められ、また尊敬されて来た。」という答えを導き出している。

総説では、この可能性を裏付ける様々な証拠を列挙して議論しており、この議論が面白い。ほんの一部だが、紹介しておこう。

まず、個人が淘汰にさらされる社会では、大多数の個体との関係に苦労する自閉症の人は淘汰される確率が高い。しかし、人類進化の条件となった共同的道徳性に基づく社会が生まれると、状況は一変する。この社会は多様な人材を必要とする社会で、いわゆる変わり者の能力を必要とした。

この総説で「自閉症」という言葉は、知的障害のないケースを指しているが、これは全自閉症の7割を超え、欧米では全人口の1-2%になる。従って、この性質は積極的に維持されたと考えられる。

自閉症は社会性が欠如しているとよく言われるが、彼女はまずこの先入観が間違っていると主張する。自閉症の人たちは、他の人も自分と同じように考えているという普通の人が持つTheory of Mindの代わりに、他人の意見に流されない、揺るがない法則を重視するTheory of Mindを持っていることを強調している。この例として、自閉症の人には数学者、物理学者、技術者、そして法律家が多いことをあげている。

また、原始社会でも、誰もが新しい石器の作り方を考案できたわけではなく、おそらく狩りは下手でも道具作りのイノベーションを起こせる人材がいる社会だけが、道具を進化させ、他の社会を淘汰したと考えられる。そしてこのイノベーションには自閉症を持つ人が大きく貢献したのではと議論している。

さらに、社会自体の維持にとっても、自閉症の人は大多数の意見に流されず、冷静に状況を判断できる点で、社会の存続に大きく寄与したと考えている。実際、トランプ現象をみると、私たちがいかに大勢に流されるかよくわかる。この状況を打ち破れるのが、「連帯を求めて孤立を恐れない」自閉症の人たちで、その人たちを尊敬する社会が最終的に持続可能な社会と言えるのだろう。

自閉症の人が、確固たる法則を重視し、大勢に流されないことについては文化人類学の論文もあるようだ。

進化により生殖優位性を持つ個体が淘汰されるが、協同的道徳性の社会では、新しい技術を生み出し、また大勢に流れようとする社会に警告を発することができる自閉症の人は、異性に相手として選ばれることも強調している。このため、決して淘汰されることはない。それどころか、高度な社会では自閉症児の数は逆に増える。

この進化過程こそ、自閉症には100を越すゲノム領域が関わるという複雑な遺伝背景が認められる理由だろう。まさに自閉症的性質の必要性が「Neurodiversity(脳の多様性)」のみならず「ゲノム多様性」の駆動力になっているのがわかる。

また最近、我々には存在しても、ネアンデルタールに存在しない自閉症と相関する幾つかの遺伝子や遺伝子多型が特定されている。これが、自閉症に関わるゲノムが生殖優位性を持っていることの証拠ではないかと議論している。

最後に、自閉症を持つ人が積極的に維持されたことについての考古学的証拠についても列挙している。例えば「複雑な技術的イノベーションが石器などの道具で起こっていること、あるいは常識に惑わされず法則を導き出すことで可能になる地図や暦の発見」などが議論されているが、これを自閉症と関連づけるためには、遺伝子解読や、現存の比較的未開部族についての文化人類学的研究が必要だろう。

以上のような様々な議論を経て、

1) 協同的道徳性の社会には自閉症的性質を人は、社会に一様ではない、もう一つの選択肢を与えて、社会を強靭にした。

2) 大勢に流されず、イノベーションを起こし、確固たる法則に基づいて社会を導く点で自閉症的性質は貢献している。

3) このように、自閉症を社会性の欠如ではなく、もう一つの社会性として積極的に評価することで、人類進化に対する新たな視点が生まれる。

と結論している。

トランプを筆頭に、世界中で多様性を排除する動きが高まっている。これは協同的道徳性を基礎に発展してきた人類進化に逆行する。 こんな時代だからこそ、一般の人にも、グーグル翻訳などを使ってぜひ読んで欲しい総説だ。

しかしこの総説を読みながら学生運動時代の「連帯を求めて孤立を恐れず」というフレーズが浮かんできた私は、もう遺物になってしまっているのを実感する。