地球の力を借りてCO2排出問題に対応する(論文紹介)

(写真:アフロ)

科学ニュースと科学論文を掲載しているアメリカ科学振興協会の週刊誌「サイエンス」は、20世紀では解決できなかった地球規模の様々な問題への挑戦を試みる論文を強く後押ししている印象がある。

例えば、このホームページでも紹介したが、1昨年(2014年)5月23日号では格差問題を特集し、「21世紀の資本論」で有名なThomas Piketty(トマ・ピケティ(1971年5月7日-):フランスの経済学者)と、昨年ノーベル経済学賞を受けたAngus Stewart Deaton(アンガス・ディートン(1945年10月19日-):アメリカ・イギリス国籍の経済学者)に貧困問題解決の総説を依頼している。消費を抑え、富を分配するといったイデオロギーを人間が共有できない限り、格差問題といった社会・経済学的問題でも、サイエンスしか頼るところがない、という強い意志の表れだろう。

この意味で、今日、紹介する英国、米国、フランス、アイスランド、オーストラリア、デンマークからの共同論文はサイエンスが後押しする論文の典型で、格差と並ぶ21世紀の課題、「炭酸ガス排出問題の解決法」に挑戦した研究だ。

タイトルは「Rapid carbon mineralization for permanent disposal of anthropogenic carbon dioxide emission (人類が排出する炭酸ガスは迅速な鉱物化により永久に処理できる)」で、6月10日号の「Science」に掲載された。

生命科学から離れたことのない私にとってこの論文は全く分野外の研究だが、理解しやすい論文だった。

研究の目的は、炭酸ガスを地中で炭酸カルシウムとして沈殿させ、大気中への排出を減らす可能性を検証することだ。

研究では、アイスランドの地下400-800mに存在する玄武岩質の溶岩地層に排出炭酸ガスを溶かした水をゆっくり注入、地下水として周りへ拡散させ、500mほど離れた検出用の井戸で注入した炭酸ガスや水をモニターして、溶かした炭酸ガスの運命を調べている。

注入した炭酸ガスには、炭素14同位元素からなる炭酸ガスを混入し、自然に存在する炭酸ガスと、注入した炭酸ガスを区別している。また、炭酸ガスを溶かした水は混入させた6フッ化硫黄でモニターしている。

詳細は省くが、結果は、期待をはるかに超えるもので、注入した水は50日ぐらいをかけて検出井戸に到達するが、最初からほとんど気体状の炭酸ガスは残っておらず、2年以内に注入した二酸化炭素(CO2)のほとんどは無機物として沈殿したことを意味する。おそらく、玄武岩質からとけ出すカルシウム、マグネシウム、鉄の作用が、アルカリ性の地下水と助け合って炭酸ガスと反応し、重炭酸イオンを経て、最終的に炭酸カルシウム結晶に転換していることを示している。

このグループが、研究を始めた時、これほど早い速度でほとんどの炭酸ガスが鉱物化するとは予想していなかったようだ。この結果から、炭酸ガスは玄武岩層に注入するだけで、比較的簡単に大気中に排出されない形へ転換できることが明らかになった。途中でサンプリングポンプが炭酸カルシウムで詰まるという問題はあったようだが、研究としては大成功だと言える。

ではこの研究の実用は簡単だろうか?我が国は火山国で、玄武岩質の地層を探すのは簡単なことだ。条件だけで見ると、この結果は我が国で炭酸ガス排出を抑える切り札になるように思える。

一見、地球温暖化に悩む地球の救世主のように見える研究結果だが、話はそう簡単でないように思える。このパイロットプラントでは全部で約250トンの炭酸ガスが処理されているが、我が国が排出する炭酸ガスは14億トンで、全部処理するとなると500万倍の規模の玄武岩層が必要になる。もちろん10%でも処理できればいいのだが、コストはどの程度になるのだろうか?

他にも大量の水の問題、地下水流への介入、炭酸ガスの回収、回収した炭酸ガスの輸送などまだまだ多くの問題が残っているように思える。

この論文では、玄武岩層と質の高い水の得られる海岸ではこの技術の応用が可能なように書いているが、コストも含めてもう少し詳しいデータが示されないと、手放しで喜ぶことはできないだろう。

しかし、この研究は、地球自身が私たちの予想を超える炭酸ガス処理能力を持つことを示してくれた。この力を活用する可能性がどこまで実現できるのか、元科学者として期待している。