認知症の発症は実は減っている?

アルツハイマー型認知症(写真:アフロ)

先進国の多くは、未曾有の超高齢社会に直面しつつある。(我が国は、既に65歳以上人口が全人口の21%を大きく超えているので「超高齢社会」である。)なかでも最も懸念されているのが、認知症の増加だ。例えば長期間同じ地域の疾病を調査している久山町コホート研究は、高齢者の半分以上がいつかは認知症にかかる可能性があることを警告している。このような統計を見ると、高齢者の増加により認知症が増えるという単純な関係だけではなく、認知症自体の発症率が上昇しているのではと心配する。

しかし、発症率を過去と現在で比べる時に注意しなければならないことがある。医学の進歩で診断技術が進むと、病気の診断率(発見率)が上昇することだ。従って、もし疾患発症率を過去と現在で正確に比べたい場合、同じ診断基準を用いる必要があるが、わざわざ古い診断法を適用することは実際には簡単ではない。

これをあえて行ったのが今日紹介するMRC(英国医学研究会議)所属の生物統計局からの論文で、4月19日号「Nature Communication」(NATURE COMMUNICATIONS | DOI: 10.1038/ncomms11398)に掲載された。タイトルは「A two decade dementia incidence comparison from cognitive function and ageing studies I and II(認知機能と高齢化研究I及びIIからわかる認知症の発症率の20年間の変化)」だ。

研究では、1990-1993年、及び2008-2011年にそれぞれ約5,000人規模で65歳以上の高齢者を同じ診断方法を用いて診察し、認知症の有無を診断、発症率調査を行っている。さらに、診断後2年間の経過観察を行い、診断の正確を期している。このように、20年後も経った後、過去の調査とほぼ同じ診断方法を採用しているところがこの研究のミソだ。

結果は、生活習慣の変化で認知症の発症率が上昇しているのではないかという予想に反し、過去20年間で認知症の発症率は65歳からのあらゆる年齢層で低下しており、全体ではほぼ20%の低下がみられるという結果だ。特に驚くのは、80歳以上の男性では40%と著しく低下している点だ。一方、女性では全年齢層で程度は5%程度だが、ほとんどの年齢層で低下している。80-85歳の女性のように発症率がすこし上昇した群も確かに存在するが、結論的には20年を経て、認知症の発症率は着実に低下していると言ってよさそうだ。

もちろん高齢者の増加により、認知症の絶対数は上昇していることは間違いなく、それに備える必要はある。しかし今日紹介した論文は、認知症の発症を劇的に抑えることが可能であることを示している。

久山町コホート研究などを見ていると、この結果を我が国に当てはめられるかどうか分からない。ただ発症率を計算する時、できるだけ診断ミスのないよう、最新の診断法を用いて統計を取りたいと思うのは医師(研究者)として当たり前のことだ。しかし、この結果、過去の研究との比較が難しくなることは心する必要がある。

認知症でも、高血圧などの生活習慣病でも、10年単位で発症率の変化を見たいと思う場合、最新の診断方法とともに、過去の診断基準も採用して研究を行う注意深さが必要だろう。

詳細は省くが、この研究にも方法上の問題が存在する。従って、同じような調査がもう一度行われるまで、この結果をそのまま鵜呑みにするわけにはいかないだろう。もし他の研究でも同じ傾向が確認されたら、この20年に起こった生活の変化が、間違いなく男性の認知症の発症率を抑えることに寄与したことになり、その要因を明らかにすることで、有効な認知症対策を発見できることになる。我が国でも同様の研究が行われることを是非期待したい。

しかし、新しい調査に当たって古い診断基準をそのまま採用する研究計画能力には脱帽だ。