急速な高齢化により労働人口の減少で成長力が鈍化し、社会保障支出の増大により活力が失われる問題に我が国は直面している。一億総活躍などの様々な政策の処方箋が提案されているが、結局バランスのとれた人口構成が維持される国に戻るまでは、根本的な解決はないだろうと思う。若い時には考えたこともなかったが、高齢者の一員となった私たち団塊の世代にとっては悲しい事実だ。

非正規雇用が増えるというのも、私たち高齢者を含む人口構成が新陳代謝するしか、社会の活力を保つ構想を持たないにもかかわらず、この新陳代謝が停滞しているからだ。その究極に、姥捨山思想がある。

大学を卒業した頃、チャールトン・ヘストン主演の「ソイレントグリーン」を見た。人口爆発に対する処方箋として公営の安楽死施設が設けられる社会を描いたSF映画だが、高齢者を効率良く積極的に除去するしか社会の健康は保てないとする怜悧な決断が行われた仮想社会の話だ。例えば一人っ子政策で、人口爆発を入り口で抑える政策が破綻しつつある中国をはじめ、世界中でよく似たことが起こらなければと懸念している。

事は社会だけのことではない。私たちの肉体も老化すると新陳代謝が落ちる。新陳代謝を人工的に高めて老化を防ぐための研究が続いている。今日紹介する米国メイヨークリニックからの論文は、同じ方法を動物の体という社会で確かめた研究だ。すなわち、老化した細胞を積極的に取り除けば個体は健康になるかを調べている。「Nature」オンライン版に掲載された論文のタイトルは「Naturally occurring p16-Ink4a-positive cells shorten healthy lifespan (自然に生まれるp16-ink4a陽性細胞は健康寿命を縮める)」だ (Baker et al, Nature, in press.doi:10.1038/nature16932)。

実験の詳細は省くが、この研究では、細胞の異常増殖を積極的に抑えるために発現する「Ink4a」分子のプロモーターが発現している細胞を蛍光標識するとともに、これらの細胞を薬剤で除去するメカニズムを導入したマウスを作成している。

「Ink4」自体は細胞増殖の見られる組織では重要な役割を果たしているが、この研究で使われた遺伝子の発現を指令するプロモーターは都合の良いことに老化した細胞にだけ発現することがわかっていた。こうして作成されたマウスでは、体の中で老化した細胞を特定できるとともに、それを除去することができる。わかりやすく言うと、体の中で老化した細胞を見つけ出し、殺して除去することが可能になったマウスができたということだ。

さて、老化細胞を積極的に取り除くとどうなるのだろう?結果は期待通りで、「老害」は除去せよという結論だ。マウスの年齢は平均2年半ぐらいだが、1年目から薬剤を投与して、積極的に老化細胞を完全に除去する操作を行うと平均寿命が3割近く伸び、個体の最長寿命も2割ぐらい伸びる。組織学的には、心筋の機能が保たれ、腎臓の機能が保たれ、体脂肪も新陳代謝が続いて若いまま維持されるという結果だ。他にも、がんの発生頻度は変わらないが、発症年齢は遅れ、健康寿命が伸びることも示されている。

予想はされていたとはいえ、実験に基づく事実として示されると驚く。今後、死にかけの老化した細胞を特定して殺し、寿命を延ばす方法の開発が進むだろう。

しかし、こんな方法が開発されると、その結果、社会としては新陳代謝が遅れる。人間の欲望が生み出す悪循環だ。今回の研究結果が、個体ではなく社会に適されてしまうことは、まさに、「ソイレントグリーン」の世界を現実としてしまうかもしれない。私としては、老化した細胞を抱えたまま寿命を伸ばす、天才的な構想が生まれ、社会においても、高齢者を含めた新たな人口構成の新陳代謝がとする抜本的な構造改革(意識改革)が実現することを強く期待している。