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新型コロナ第二波とメンタルヘルス:第一波より厳しい?

西多昌規早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医
Shutterstockより

第二波は第一波より精神的にキツい

 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染が再拡大し、第二波到来が現実のものとなっている。毎日のようにメディアで報道される感染者数は、4,5月の緊急事態宣言のときよりも明らかに多く、全国に広がっている。感染拡大を受けて、独自の緊急事態宣言を発令する自治体も増えている。

 「この先どうなるんだろう」「また自粛か・・・」と不安を感じる一方で、「少しぐらいはいいだろう」「これくらいは大丈夫」という、COVID-19への油断、不安に対する慣れや麻痺がないと言えば嘘になるだろう。また、緊急事態宣言ではあれだけ我慢したのに、また感染拡大かという怒り、やるせなさも理解できる。

 第二波が第一波と異なるのは、我慢・辛抱といった抑制が、難しくなっていることである。緊急事態宣言のときは「今だけ辛抱すればCOVID-19前に戻れる」という希望があったため、人々も努力し抑え込みになんとか成功した。

 しかし長期化が避けられないなかで、秋以降も自粛ばかりを続けていては、精神的にもたない人もいるだろう。あるいは「コロナは大したことはない」「自分だけは大丈夫」などと自身に言いきかせ、「新しい生活」に反する極端な行動に走る人が増えてしまうかもしれない。

 過度な精神的抑制は、例えば我慢できずライブやスポーツ観戦で大声で叫んでしまう、油断してキャバクラに行ってしまう、相次ぐホテル療養からの脱走など、逸脱行動のリスクが高まってしまう。酒でうさを晴らすアルコールの摂取量増加や乱用も、今後はいっそう懸念される。

 第一波には、満員電車が解消される、ゴールデンウィークに観光地がガラガラになるなど、不謹慎な「もの珍しさ」があったのも事実だが、第二波以降ではそれも経験済みのこととして目新しさはない。毎日気の滅入る情報ばかりで、COVID-19前に戻れるという希望もしぼみつつある。

第二波を迎えたオーストラリアの場合

 第二波以降では、経済的問題など多くの条件がいっそう悪化していくため、怒りや絶望といった強い感情反応も予測される。欧米では、ロックダウン期間が長く続くほど、感染への恐怖やいらだち、怒り、退屈、不適切な情報、経済的困窮、スティグマ(偏見や差別)などによって、メンタルヘルスが悪化することが報告されている(1)。

 オーストラリア・メルボルン市は、7月11日より二度目のロックダウンに入っている。第一波との人々の反応の違いも、徐々に明らかになってきている。いくつかの現地報道を読む限りでは、怒りや絶望感、未来への不安が強まっているようだ。

 メルボルンにあるスインバン大学においてCOVID-19関連メンタルヘルス研究が進行中であり、既存のうつ病の悪化、アルコール乱用の増加などが今のところ報告されている(2)。気になるのは、若年者において、精神疾患の急増がみられるという。

 今後も新たな結果が発表され、おそらく社会活動の中心である青壮年層、弱者である妊婦や子ども、高齢者においても、データが出てくると考えられる。日本はオーストラリアのような厳しいロックダウンは取っていないが他人事ではなく、似たような問題に備える必要がある。

「経済的破局」という第三波

 内閣府が7月31日に示した中長期試算では、COVID-19によって経済規模は一年の医療費に相当する約40兆円縮小するという。また失業者についても、この秋には就業者が300万人減少するという予測もある。

 今後予測される経済的不況は、強い怒りや深い絶望などネガティブな感情、自殺やアルコール乱用など制御できない衝動・逸脱行動の危険性を高くすると考えられる。2020年度には2万人を切るまでに減少した自殺者数は、再度増加に転じる危険性が十分にあるといっていい。

 長期化するCOVID-19においてメンタルヘルス問題のトピックは、うつ病や自殺、アルコール、スティグマ(偏見・差別)、バーンアウトや外傷性ストレス障害(特に医療従事者)といった深刻なものが増えてくると考える。精神障害は別の機会に譲り、一般向けのメンタルヘルスについて対策を考えてみたい。

レジリエンスを高めるセルフ・ケア

 メンタルケアの基本は、第一波のときとほとんど変わりはない。「セルフ・ケア」、つまり自分を大切にしていく生活習慣である。わたしの過去の記事「新型コロナウィルスと社会不安、メンタルヘルス」に、WHOによるCOVID-19ストレス対処法を紹介したが、内容は十分な睡眠や適度な運動、人とのつながり、COVID-19関連の情報に触れすぎないなど、いろいろな啓発記事のもととなっている指針である。

 今回は、第二波に向けた追加策を自分なりに考えてみた。これからは、新しい生活様式にのっとった、持続可能な自分なりの「楽しみ」「安らぎ」を積極的に見つけていかなければならない。いつまで続くかわからない自粛生活では、こういう癒やしがなければ精神的にもたないのではないだろうか。節度ある楽しみや癒やしを批判する差別や誹謗中傷、「自粛警察」のような行動は、メンタルヘルスの敵である。

 楽しみを見出すような、COVID-19のストレスを前向きに考えることは、重要なセルフ・ケアだ。アメリカで行われた約3万人の調査では、強度のストレスがある場合に、死亡リスクが43%も高まっていた。しかし死亡リスクが高まったのは、「ストレスは健康に悪い」とストレスをネガティブに考えていた人たちだけであったという(3)。

 難しければ、日々の散策や読書、ベランダや庭のある人は手入れでもいい。自然に触れる野外や運動にからめたものであればなお良い。楽しみを発見する能力も、レジリエンス(ストレスを跳ね返す力)に含まれる。最近の記事で読んだ、ギリシャ人の「遊園地に行くのではなく、自分の遊園地を作りなさい」という言葉は、ウィズ・コロナの時代にはより重みを増してくる。

答えのない事態につきあっていく力とユーモア

 「ネガティブ・ケイパビリティ」も役立つ概念である(4)。ネガティブ・ケイパビリティとは、「論理を離れた、どのようにも決められない、宙ぶらりんの状態を回避せず、耐え抜く能力です。」と定義されている。わたしたちは、答えがないと、答えを求めようと不安になる。不確定で答えがわからない問題に、安直にハウツーを求めようとうせず、つき合っていく能力でもある。専門家でも意見が分裂しており何が正解かわからないこの状況では、まさに必要な能力であることは間違いない。

 しかし、ネガティブ・ケイパビリティを手軽に身につけるコツは、残念ながらない。帚木は「この宙ぶらりんの状態をそのまま保持し、間に合わせの解決で帳尻を合わせず、じっと耐え続けていくしかありません。耐えるとき、これこそがネガティブ・ケイパビリティだと、自分に言いきかせます。すると、耐える力が増すのです。」と書いている。なんともタフなトレーニングだが、こういう概念があることを知ると知らないのでは、レジリエンスにも違いが出てくるだろう。

 最後に、こういう時勢だからこそ、「ユーモア」「笑い」も忘れたくない。ユーモアは、わたしたちが恐怖に直面するのを助け、レジリエンスを高めてくれる(5)。ヴィクトル. E. フランクルによるナチス強制収容所生活を描いた「夜と霧」では、

ユーモアは自己保存のための戦いでの、魂の武器の一つである

と書かれている。ユーモア、それに笑いのある生活を送ることも、セルフ・ケアの一つである。ユーモアが苦手であれば、せめて不機嫌にはならないようにしたい。不機嫌も感染性が強く、自分も含めて周囲を病ませる。

 

 ユーモアには、物事のネガティブな側面にポジティブ要素が含まれている。ユーモアどころではないという人がいるのも理解できる。しかし、メディアやSNSに見られる不愉快なニュースや誹謗中傷などネガティブに染まりやすい現代だからこそ、ユーモアの重要性を強調したい。

1. Samantha K Brooks SK et al. The psychological impact of quarantine and how to reduce it: rapid review of the evidence. The Lancet. 2020, 395(10227):912-920

2. Van Rheenen TE et al. Mental health status of individuals with a mood-disorder during the COVID-19 pandemic in Australia: Initial results from the COLLATE project. J Affect Disord. 2020 1;275:69-77.

3. Keller A t al. Does the perception that stress affects health matter? The association with health and mortality. Health Psychol. 2012;31(5):677-684.

4. 帚木蓬生. ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力. 朝日選書 2017年

5. スティーブン・M・サウスウィック, デニス・S・チャーニー (著), 西大輔, 森下博文, 森下愛 (訳). レジリエンス:人生の危機を乗り越えるための科学と10の処方箋 2015年

早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医

早稲田大学スポーツ科学学術院・教授 早稲田大学睡眠研究所・所長。東京医科歯科大学医学部卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員講師などを経て、現職。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会総合専門医など。専門は睡眠、身体運動とメンタルヘルス。著書に、「休む技術2」(だいわ文庫)、「眠っている間に人の体で何が起こっているのか」(草思社)など。

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