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新型コロナ:良い睡眠と生活リズムを維持する10のコツ

西多昌規早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医
shutterstockより

Covid-19パンデミックと睡眠、生活リズム

 新型コロナウィルス感染症(Covid-19)は、わたしたちの日常生活に計り知れない大きなダメージを与えている。経済状況は悪化し、緊急事態宣言によって多くの人が自宅に留まることを強いられている。

 Covid-19から自分の健康を守る大切な生活習慣の一つは、睡眠である。睡眠不足によって、免疫機能は低下することが知られている。睡眠不足によって他人への攻撃性が高まるなど、情緒も不安定になる。十分な睡眠は、Covid-19から自分を守るために不可欠な習慣だ。

 ところが、在宅勤務や失業・休業の増加、「人と人との接触7〜8割減」によって、健康な睡眠にとって重要な「運動」「社会的因子(仕事や学校など)」の機会が、著しく失われてしまっている。生活リズムも、乱れている人が多いと思う。睡眠と生活リズムは、切っても切り離せない。

 これまで睡眠不足の原因といえば、日本ならではの過重労働や長い通勤・通学時間であったが、現在のパンデミックでは状況が明らかに異なる。

 Covid-19の被害が著しいアメリカの国立睡眠財団(National Sleep Foundation)が「新型コロナウィルス感染症における睡眠指針(Sleep Guidelines During the COVID-19 Pandemic)を公表した。

 

 すべてを紹介したいところだが、全訳するとかなり長くなってしまう。この睡眠指針を参考にして作成した、パンデミック下における「睡眠と生活リズムのコツ」をお示ししたい。

COVID-19パンデミックによく眠るための10コツ

# 1. 不眠が生じるのは、普通な反応であると認識する

 このような経験したこともない異常な状況では、眠れなくなるのも当たり前である。1,2日眠れないからといって、「自分はマズい」と思わないことだ。

# 2. 予定とルーティンを設定する

 仕事や学校に行かなくていいなど、予定とルーティン(習慣的な作業)の消失は、睡眠にとっては百害あって一利なしである。いくつかコツを紹介する。

  • 起床時間:目覚ましをセットして、毎日をスタートさせるための時間を設定する。スヌーズ機能は目覚めを悪くさせるため、オフにしたほうがよい。
  • 寝る前の時間:興奮するゲームや推理小説など頭が冴える活動は控え、硬くなりがちな身体をほぐすストレッチなどを行う。部屋の照明は明るすぎないように調整する。
  • 実際に電気を消してベッドに入る時間を決めておく。

以下の日常生活習慣も、睡眠に関わってくる。たとえば、夕食が遅くなると、就寝時刻も遅くなってくる。

  • 外出する予定がなくても、シャワーを浴びる(ないしは洗顔をして)、部屋着ではない服を着る。
  • 毎日同じ時間に食事をする。
  • 仕事や運動をする時間帯、スケジュールを決めておく。

# 3. 睡眠のためだけにベッドを使う

 テレワークの弊害として、一部に人にはオーバーワークがあるようだ。決まった退社時間もないため、受験勉強のように延々と仕事をしてしまうらしい。そんな人ばかりではないと思うが、ベッドに仕事を持ち込むのはやめるべきだ。気晴らしの動画やゲームも、ベッドで楽しむのはすすめられない。

 このようなストレスフルな状況では、眠れない夜ももちろんあるだろう。寝つきが悪いと感じたら、20〜30分以上も苦しい寝返りを打つのはやめて、ベッドからいったん出たほうがいい。明るくない光の少ないところで、音楽を聴くなどリラックスできることをしてから、ベッドに戻って眠りにつくようにする。

# 4. 光を見る、浴びる

 光、特に太陽光を浴びることは、家に居る時間が長くなっているわたしたちにとって、通常にも増して重要な習慣だ。太陽光は、生活リズムも維持する体内時計の調節にとって欠かせない。なるべく人のいない「三密」でない場所を選んで、自然光の中で過ごしてみることをすすめる。

 太陽が明るく照っていなくても、自然光には心身両面にプラスの効果がある。自宅では、特に天気のいい日はできるだけ窓やブラインドを開けて、日中は家の中に光が入るようにしたい。

# 5. スクリーン画面を見る時間に注意する

 スマホやタブレット、パソコン、ゲームなどの電子機器から発せられるブルーライトを特に夜に浴びると、自然な睡眠に入るプロセスが妨げられる、可能な限り、寝る前の1時間はこれらのデバイス使用を避けることをすすめる。わたしもインストールしているが、ブルーライトを軽減するアプリもあるので活用したい。

# 6. 長い昼寝には気をつける

 一日中家にいると、ついうっかり寝てしまい、長く昼寝をしてしまうかもしれない。午後の早い時間に短時間の仮眠を取るのはよいが、夜の睡眠の妨げになる長時間の仮眠や昼寝は避けるべきだ。60分以上の長い昼寝は、昼夜逆転のきっかけになってしまう。

# 7. アクティブに過ごす

 定期的な運動には、心身の健康にとって多くのプラスの効果がある。他の人と安全な距離を保ちながらであれば、散歩やジョギングはこのパンデミック下では、非常に重要な運動習慣となる。外出抑制の要請はあるとはいえ許可されている限りは、梅雨が来る前に外での貴重な運動の機会を活用するべきである。

 ジムが使えずフラストレーションがたまっているアスリートや運動愛好家も多いだろうが、ジムやヨガ、ダンススタジオ、さらにはトップアスリートが、トレーニングのオンラインコンテンツを積極的に配信し始めた。スマホをテレビ画面にミラーリングすれば、自宅でも大画面で映し出せ、参考にして効率的に学ぶことができる。SNSパーソナルトレーニングも活発になってきたと聞く。自宅でのトレーニング支援は、今後急速に発展すると予測する。

# 8. 優しさと感謝を実践し、つながりを育む

 睡眠には直接関係ないと思われるかもしれないが、優しさ、感謝の念とつながりはストレスを軽減し、気分や睡眠への有害な影響を減らすことができる。悲観的になる悪いニュースを聞くこともあるだろうが、最前線の医療従事者の献身や、スーパーの店員さんや宅配業務の方含めて、わたしたちの生活を支えるの人々がいろいろな方面でいかに多いことなど、感謝をしてポジティブなテーマを見つける努力は、精神の安定につながる。

 

 ZoomやSNSなど進んだテクノロジーを使って、社会的距離を取って友人や家族と連絡を取り、つながり=社会性を維持することも心がけたい。昨今流行のZoom飲み会は、有望な試みだと思う。

# 9. リラクゼーションのテクニックを活用する

 自分なりのリラックスの方法を見つけることは、長期化するかもしれないCovid-19パンデミックにとって欠かせないスキルだ。深呼吸やストレッチ、ヨガ、好きな音楽、楽しい動画やゲームなどが挙げられる。ゲームはゲーム障害の原因だという理由で批判されるが、若年者層にとっての長い居宅時間の気晴らしのために、必要性が俄然増している。少なくとも今の状況では、若者にとって1時間に制限するのは良策とはいえない。

 もう一つの重要なリラクセーションは、不安を煽り内容も不正確で、医療従事者にとっては迷惑でしかない一部のワイドショーや報道バラエティを見ないことである。。SNSは悪質なデマも多いが、テレビではカットや意図的な編集をされがちな専門家の情報が直接得られる貴重なツールでもある。いずれにせよ、ダラダラ見続けるのは良くない。具体的には、以下のようなテクニックがある。

  • 信頼できるニュースサイトを1, 2つブックマークして、毎日限られた時間の間だけ見る。ツイッターやフェイスブックは、批判や誹謗中傷ばかりで建設的なコメントのない人は速やかにリムーブする。
  • ソーシャルメディア上でのスクロールに費やす時間を減らす。アプリで時間を計測し、自分での制限時間を決める。
  • 友人や家族との電話やSNSをスケジュールに入れる。その際には事前に相談して、コロナウイルス以外の話題を持ち出すなど工夫する。

# 10. 食べたり飲んだりするものを見る

 健康的な食生活と食事のタイミングを心がけることで、良質な睡眠を促すことができる。わたしも含めてカフェインやアルコールの量が増えている人が多いと思われるので、一日のうちに摂取するアルコールやカフェインに注意する。

 Covid-19の蔓延状況は刻々と変わり、来週にはどうなっているかわからない。睡眠の問題も、Covid-19の経過によって変わってくることが予測される。具体的には、長期化すればアルコール多用の問題が生じてくるとわたしは考えている。

 長期戦になるかもしれないCovid-19をしのぐうえで、毎日当たり前のようにとる睡眠は生活リズム維持の鍵であり、非常に重要であることを強調したい。

早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医

早稲田大学スポーツ科学学術院・教授 早稲田大学睡眠研究所・所長。東京医科歯科大学医学部卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員講師などを経て、現職。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会総合専門医など。専門は睡眠、アスリートのメンタルケア、睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。著書に、「休む技術2」(大和書房)、「眠っている間に人の体で何が起こっているのか」(草思社)など。

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精神科医の西多昌規(にしだ まさき)です。メディアなどで話題となっている、あるいは世間の関心を集めている事件や出来事を、精神医学やメンタルヘルスから読み解き、独自の視点をもとに考察していきます。医療・健康問題だけでなく、政治経済や社会文化、芸能スポーツなども、取り上げていきます。*個人的な診察希望や医療相談は、受け付けておりません。

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