軽い脱水症でも脳機能は低下する

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脱水症と意識障害

 例年より早い梅雨明けのあとに、猛烈な暑さが日本を襲っている。長時間、非常に暑い環境にいると「熱中症」になるが、熱中症の症状の一つに体内の水分量が不足した「脱水症」がある。最近では、野外に出ていなくても、自宅で高すぎる室温で過ごしているだけで、脱水症になってしまう人も少なくない。

 マラソンや駅伝の選手が、意識もうろうとしてフラフラしている姿をTVでみたことがあるかもしれない。臨床現場でも、特に高齢者においては、脱水状態でせん妄という意識障害を呈しやすい。ただわたしたちのイメージでは、真夏に太陽光に長時間当たっているか、暑い中激しい運動でもしなければ、もうろうとして意識を失うまでには至らないと思いがちである。

 ところが、ほんの「軽い」脱水症でも、意識もうろうとまではいかないが、人間の認知機能や気分、情動、すなわち脳全般に悪影響が出てしまうことがわかってきている。そしてこれが、重症な脱水症への引き金になりかねない。

軽い脱水でも、理解力は低下し気分は落ち込む

 20才代の被験者に、平素よりも多い飲水量 ( 1日2リッター以上)と、平素より少ない飲水量(1.2リッター以下)という条件で、3日間過ごしてもらい、気分や眠気、情動などを測る心理テストを行った。その結果、飲水量を増やしたときには、疲労感や眠気が軽くなった。飲水量が減ったときには逆の反応、つまり疲れやすく、集中力も低下し、気分やポジティブ傾向も下がったという(1)。

 この報告からは、マラソンでフラフラになったり救急車で運ばれたりするような重度な脱水症ではなくとも、わたしたちの気がつかない程度の軽い脱水状態で、脳には良くない影響が出るということだ。ましてこの実験では一日1.2リッター近くは飲んでおり、対象者は20才代の若者である。水分補給は、脱水予防だけではなく、わたしたちの日常生活の質の向上にもつながることを示している。特に、子どもや高齢者ほど重要性は増すことは言うまでもない。

脳への悪影響→脱水症の重症化

 脳自体への影響も研究されている。脱水状態では、高度な心理認知テストを行ったときに、前頭部・頭頂部の活動量が過剰に増加することが示されている(2)。脱水状態で機能が落ちてきている脳を、必死に補おうとする反応だ。当然この代償活動も、一定の限界がある。

 重要なことは、ほんの軽度の脱水でも、人間の脳機能は影響を受けることである。集中力が下がる、あるいは気分が落ち込む程度ならばたいしたことはないと思うかもしれないが、これは危険な脱水症への入口である。気がつかないうちに気分が下がり「水を取りにいくのも面倒」、あるいは認知機能が下がることで「まだ大丈夫」などと思っているうちに、意識もうろう→意識障害となってしまい、適切な飲水行動が取れなくなる。早め早めの水分補給と、もはや夏の「生命維持装置」とも言えるエアコンの活用を、強調しておきたい。

 

1. Pross N, et al. : Effects of changes in water intake on mood of high and low drinkers. PLoS One 2014; 9:e94754.

2. Mathis A et al. The effect of aging on the inhibitory function in middle-aged subjects: a functional MRI study coupled with a color-matched Stroop task. Int J Geriatr Psychiatry 2009; 24: 1062-1071.