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スリランカ大統領が辞任せずに国外逃亡、国民は許さない。

にしゃんた社会学者/タレント
経済危機をもたらした大統領に退任を求め抗議する若者たち(文:にしゃんた)(写真:ロイター/アフロ)

 昨日(13日)正午からスリランカは再び混乱に陥った。早朝、ゴターバヤ・ラージャパクシャ大統領は、妻と2人のボディーガードとともに軍用機で隣国のモルディブへ逃亡した。報道によると、ラージャパクシャはモルディブに着陸後、リゾートに連れて行かれたという。

 なぜ避難先がモルディブだったのかについては、ある程度明らかだ。ラージャパクシャはモルディブの前大統領で議長のモハメド・ナシードと親しく、実は2012年にナシードが政権から追放された際、スリランカに避難していた。最近までスリランカに滞在している姿が目撃されている。今回、ラージャパクシャに恩返しをしたというのが最も自然な見方だろう。しかし、ラージャパクシャ大統領による行動はスリランカの国民感情を深く逆撫でした。

 まず記憶を数日前まで戻したい。7月9日に、スリランカが直面している経済危機に我慢の限界を超えたスリランカの一般国民からなる群衆が大統領邸や大統領執務室、さらには首相官邸を襲った。その日が実は元々は、#gota go home (ゴーター出て行け)運動が始まって3ヶ月目の記念日として呼びかけられたのだ。だが群衆の勢いが予想を大幅に上回り、官邸を襲い掛かった。官邸には危害を加えていないが、当日の夜にはラニル ウィクラマシンハの私邸が放火された。

 ラニル ウィクラマシンハに群衆の怒りの矛先が向かったのは他でもない。国民運動(通称アラガラ)は、3ヶ月前から#gota go home のスローガンを掲げ、大統領とラージャパクシャ一族の辞任を求めている国民がいた。だが6人中5人までを追い出せたが大統領だけが残った。その原因を作ったのは他でもないラニル ウィクラマシンハだ。議会に一議席しか持たない彼が首相になると手を挙げたことによって、ラージャパクシャ大統領に命綱を渡す結果となった。ラニル ウリクラマシンは国会内から構造改革すると国民に対して公言して役を受け入れたにもかかわらず、一向に改善は見られず、むしろ国民を愚弄しながらラージャパクシャと仲むつまじく微笑み合っている姿ばかりが国民の目に映っていた。

 スリランカ国民の怒りが頂点に達して爆発した瞬間が7月9日に訪れた。その映像が世界中で報道されてスリランカの歴史に残る日となった。幸いにも警察や軍隊が民衆の前で早々に降伏したため、死人も出さずに済んだ。この事件を受けて国会議長を中心に招集された全党代表者会議で大統領と首相の辞任を決定。

 会議が始まる前から大統領はその会議の決定に従うと議長経由で国民に約束をしていた。そして7月9日の夜には大統領から、13日に辞任するとの約束が同じく議長経由で国民に伝えられた。その報道を聞いた国民は、いったん落ち着きを見せた。その瞬間から占領した大統領官邸で疲れを癒すデモ隊の姿や一般公開された官邸を見学にしてきている人々の和やかな姿が見受けられた。そして、13日は、いわば、いい加減に国民が求める国民の意に寄り添う政治判断が下される日のはずだった。

 しかしその期待が大きく裏切られたのだ。大統領は、民意よりあからさまに保身を優先させた。第一、13日に提出すると言っていた、辞任する意を伝えた手紙が議長に届いていない。7月9日の時点では、最初は自ら辞任を発表すると言っていたが、途中で「大統領の辞任は議長から発表する」に変わった。今から振り返ると、それは、ラージャパクシャが国外逃亡を想定してのことであったに違いない。

 辞意が発表されていない理由も明らかだ。ラージャパクシャ大統領は、逮捕を避けるために、辞表を先送りにしている。つまり、大統領職についている間は、スリランカ国内法で彼を逮捕できない。モルディブからの報道によると、彼は次にシンガポールに向かおうとしている。昨日、一般の飛行機でのモルディブからの出国を考えていたが、セキュリティ上の理由でキャンセルされて、現在プライベートジェットで出国を試みているとされている。モルディブでも、同国在住のスリランカコミュニティーが急遽、ラージャパクシャに辞任を求めるデモを実施した。

 ちなみに、最近の地元報道では、ラージャパクシャ大統領が米国のビザを申請したが、断られている。インドも逃亡に協力しないと明言している。いわば欧米諸国と歩調を合わせる国際社会は、ラージャパクシャを受け入れない。早速、英国議会でもラージャパクシャを逮捕するための国際連携を呼びかける発言があった。さらに同議会では、IMFによる「ラージャパクシャ大統領とその取り巻きに対する国際逮捕状を含む政治的パッケージ」が含まれている語の内容の言及も見られる。

 ここからは推測の域だが、そうなると逃亡に協力が得られるのは、長年蜜月関係にある中国だ。その点、次に渡ろうとしているのは中国と関係が深いシンガポールではないかと勘繰りたくもなる。だが中国にとってラージャパクシャ一族はもう用済みで、スリランカ国内からの反発もさることながら、国際社会の反発も考えると、守る価値などない、とも考えられる。もう一つ考えられるのは先日も電話対談したプーチン大統領とのパイプだ。繰り返しになるが、ここの部分はあくまでも推測の域を出ない。

 せっかく落ち着きを取り戻したスリランカだが、13日から再び非常に緊迫した状況にある。デモ隊は、首相官邸を占拠し、国営テレビ局にも侵入し、国会議長などの邸宅にも侵入も企ててる。外出禁止令が発令されているが国民によって完全に無視されている。スリランカは現在無秩序の状況にあり何が起きてもおかしくない。

 異常なまでに愛国者を演じ国政を行なってきたラージャパクシャ一族の化けの皮が剥がれた。欺かれた国民の怒りはそう収まらない。スリランカで今起きていること、これから起こる可能性のある惨状は、全てラージャパクシャ一族による人災だ。

社会学者/タレント

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「Mr.ダイバーシティ」などと言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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