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スリランカ事実上債務不履行も責任転嫁する裸の王様ラージャパクシャ兄弟

にしゃんた社会学者/タレント
大津領などの退任を求めゴールフェース広場に集まって人たち(文:にしゃんた)(写真:ロイター/アフロ)

 この数週間より経済危機が取り沙汰されているスリランカだが、12日に当国財務省が「スリランカは対外債務の支払いを一時的に停止する」と発表した。これには、世界の資本市場におけるすべての発行済み債券、すべての政府間債権、すべての外国為替融資や商業銀行との信用枠、多国間融資機関からの融資などが含まれる。これはスリランカ政府は事実上債務不履行の状態にあることを認め、債務不履行になる寸前に、さらなる混乱を抑えるための最後の手段に出た、ということになる。現在残っているわずかな外貨を国民に必要な食料品と燃料の輸入に充てることになる。

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 このような状況はスリランカ史上前代未聞ということになる。債権者への返済の再開目途などについては現時点では不明だが、今月に控えている国際通貨基金(IMF)との話し合いによって多くのことが決まることになるとみられている。

 スリランカの対外債務は約510億ドルで、このうち約70億が今年の支払期限を迎える。スリランカの外貨準備高は、ここわずか2年間で70%減少し、2022年2月時点であったわずか23.1億が、3月にはさらに16.1%減少し19.3億米ドルまで達した。7月に予定されている国債の支払いの見通しすら立たない状況である。国としては、債務返済もさることながら現在デモ活動の原因にもなっている燃料や医薬品を含めた生活必需品の確保が急がれている。数日前に新しく任命されたアリー・サブリー財務相は、向こう半年で再び国内にそれらを安定供給するためには約30億ドルの国際的な支援が必要になると分析している。

 スリランカの経済指標はすでに史上最悪な状況にあり、株価、通貨と債券のトリプル下落が起きている。主な株価指数は年初比で3割下落、スリランカルピーも2月末比で3割超下落と深刻である。今回のデフォルトの発表を受けてさらに影響を受ける可能性がある。新しく就任したナンダラール・ウィーラシンハスリランカ中央銀行総裁は、先週金曜日に、高インフレ抑制などの対策として、政策金利を7%(700bps)引き上げると発表した。現在、スリランカの預金金利は13.5%に、貸出金利は14.5%になっている。今回の対外債務の支払い停止の政府発表を受けて、さらには今後控えている国際通貨基金(IMF)とのやり取りの中で、経済指標などはもちろん今後の国民生活などにも大きな影響が出るとみられる。

 スリランカ国民の生活は依然として厳しい。食料や燃料といった必需品が入手困難な状況が何ヶ月も前から続いており、悪化の一途をたどっている。そして数日前にもガソリンを求め長蛇の列に並んでいた人が死亡した。同じ状況での死亡者がこれで8人目となるが、それでもなおガソリンを求める長蛇の列はなくなる気配はない。

 スリランカの人々は、例年4月13日と14日に正月を祝うのだが、今回の政府による対外債務の支払い停止がタイミング的には、正月前日に発表されたことになる。そして正月に突入しているにもかかわらず、スリランカを現在の危機的な状況に貶めた責任をとって大統領と首相の職を辞任するようラージャパクシャ兄弟に求める抗議活動が続いている。正月を迎える最中にもデモを続けなければならない国民が気の毒であると言わざるを得ない。高インフレ、物不足、医療崩壊などで我慢の限界に達し、痺れを切らした老若男女が街頭にでてきており、「デモに参加するのは今回が人生で初めてだ」という者がほとんどである。

 スリランカは、ほぼほぼ赤道直下に位置しており、日光が強い炎天下での活動はもちろん、雨にも負けず、寒い夜にも負けず、抗議する人々で溢れかえっている。中でも首相や大統領官邸の周辺やゴール・フェース広場でのデモ隊が目立っており、活動の長期化に伴ってデモ隊の寝泊りのために建てられたテント姿もみられる。スリランカで反政府抗議デモがこれほど長い期間にわたって行われるのは、おそらく独立以来はじめてということにある。厳しい環境下で長期にわたり民衆が大統領と首相の退任を求める活動をしている間も、この状況を生み出した責任者であるラージャパクシャ一族がのほほんと豪邸で過ごしていると考えるとやるせない気持ちにもなる。デモ隊としては、ラージャパクシャ兄弟が政権を手放すまで引き続き、抗議活動を続ける意思が強い。

 今回の対外債務の支払いの停止は、国民の怒りと国会の構成員からの抗議を受けて、やっと重い腰を上げたラージャパクシャ政権が、前任者であったもう1人のラージャパクシャ兄弟、バシルなどを財務相から下げ、スリランカ中央銀行総裁らと合わせて刷新したことによって実現した。これまでラージャパクシャ政権が借金返済のために借金するというようなその場凌ぎの悪しき習慣を繰り返し、「鉄砲玉を受けた傷に絆創膏を貼っているだけ」と比喩された。その点、今回、膿をしっかり出し切り、根本から財政状況を正していくスターティングポイントに立ったといえる。しかし、国として再建と再出発に向けて走り出すために膿を完全に出し切ったとはいえない。再出発に際して望ましい体制について、国民と国会で見解が一致しており、ラージャパクシャ一族を政権から出し切る(排除)することが大前提になる。それはデモ隊の願いであり、国会もラージャパクシャ支持が過半数を割っている点、国会の願いも同じである。

 だが、ラージャパクシャ兄弟が大統領と首相の座を去る気配はなく、図太くしがみついている。デモ活動が始まって以来、両者が国民の前に姿を現すことはなかったが、先日ついに首相ラージャパクシャの録画動画が発表された。11分程度におよぶ映像だが、中には気になる表現が混ざっている。「この危機を2日や3日で止めることはできないが、できるだけ早く解決するつもりだ。」「あなた達が街頭で抗議するたびに、私たちは国のために収入を得る機会を失っている。」「この危機的状況において、国は皆さんの忍耐を必要としていることを忘れないでください」「私たちは国会で統一政府をつくってスリランカの問題解決に取り組むよう呼び掛けたが、野党は応じなかった」などがある。

 つまり悪いのは、デモ隊や野党であると言っている。ラージャパクシャ兄弟は絵に描いたような裸の王様ではあることを改めて確認する。彼らをまま放置していくわけにはいかない。繰り返しになるがそれが現時点における国民と国会の一致した意見である。#GoHomeGota(ゴーダバヤ出て行け!)#GoHomeRajapaksha(ラージャパクシャ出て行け!)、いつの間にかそんな言葉がスリランカ人の合言葉になっている。

社会学者/タレント

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「Mr.ダイバーシティ」などと言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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