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京都紅葉を何倍も楽しむには

にしゃんた社会学者/タレント
写真 TC No.9

京都の紅葉の穴場を紹介してほしいと言われた。無茶な頼みである。

応仁の乱を「この前の戦争」とあたかもその場に立ち会ったかのような感覚でいる京都人からしたら「何故彼方が語る?」となるに違いないが、大した長さではないが、一応この土地で四半世紀を越えて住み、大した額ではないにしても一応住民税を納めている身として少し背伸びしてでも相手の要望に答えられたらとも考える。

改めて思う、京都の紅葉の穴場を教えて欲しいという友人が出してきた条件は厳しい。京都はとにかく人が多い。ホテルなどはまず取れない。それこそ大阪、奈良や滋賀に泊まって観光に来る人もいるほどである。互いに「人が無駄に多い」と思っているに違いない。私は正直、紅葉は京都以外を薦めたい。美しい紅葉はもちろん、静かに紅葉と向き合えることは何よりのご馳走である。京都以外なら直ぐにでも紹介出来るストックは少なくても片手ぐらいはある。

もう一回、整理するが「綺麗な紅葉をゆったり見たい」なら京都を候補地から外すべきである。参考までに観光客が多いシーズンは京都の人は極力出掛けないようにしている。そんなことは百も承知で、それでも「京都」の「紅葉」を望まれる方もいる。そんな人のために生意気にも京都紅葉を楽しむための鉄則をまず紹介する。至って簡単なことではあるが、

(1)「ガイドブックに載っていない場所に行く」本に載っている場所には言うまでもなく人が集中する。(2)「朝早くに出かける」人が多いのは昼間やライトアップの時間だけで、朝は現場を独り占め出来る。(3)気に入った場所が見つかったら、無駄な動きを慎みゆっくり時間かけて堪能する。

ひょっとすると京都に着いたら、わざわざ紅葉を見に行く必要もないかも知れない。実は大火が絶えなかったかつての京都でイチョウの木が水を放ち火を消したとの言われがあり、だからか京都の街中に街路樹としてイチョウ木が植わっている。そしてこれらのイチョウの木の紅葉は見事なまでに美しい。

京都御苑(撮影 にしゃんた)
京都御苑(撮影 にしゃんた)

紅葉を見たいが人ごみは苦手な方に勧めたいのは私などが紅葉を愛でるのに行く京都御苑である。京都のど真ん中にある京都市内における最も緑の豊かな空間である。人も意外と少なく、仮にいても広い敷地のため人の圧迫は感じない。ここはカエデなども良いが、一番お勧めしたのは、御苑に点在しているイチョウの木である。この巨木を見ているだけで黄金な紅葉と共に1200年のかつての都としての京都の歴史を感じることが出来る。あまりにも鮮やかな黄金色に私などは金運すら願いたくなる。

京都はブランドと化している。何かと商売も絡んでいる以上、紅葉の未開拓な場所を漁るのに命がけている商人も素人もわんさかいる。そんな中で、もはや京都には穴場などは存在しない。そこで、穴場を紹介することを潔く諦めよう。その代わり京都の紅葉に付加価値をつけて薦めて今回は難題を乗り越えたいと企む。

バブルの頃は少しは華やかだったとは言え、日本人は服装といい、自然界の色合いといいハッキリ言って地味である。派手さはなく、落ち着いている。その点、紅葉の期間は違う。鮮やかで、華やかである。

私的な解釈では日本の紅葉とは「1年間がんばった日本人を労い、これから始まる寒い冬に向けて励まし、心身を暖めてくれている」存在のように思う。だからこそ、この紅葉の時期には過ぎた1年をしっかり振り返るゆとりも必要である。そんな思いで京都紅葉と向き合う人にとって次のような提案はいかがでしょうか。

名づけて「京文化とセットで楽しむ秋」

■今日は少し歩きますので歩きやすい靴のご用意を。紅葉の前に「今京都にいる」ことを堪能してもらい、次に紅葉と順を追いたい。そこで今回の旅は吉田山(神社)からスタートしよう(スタート時点まではバスが便利。数に限りはあるが、駐車場もあり。)

京大の看板の奥に吉田神社の鳥居が見える(撮影 にしゃんた)
京大の看板の奥に吉田神社の鳥居が見える(撮影 にしゃんた)

吉田山(神社)の麓には京都大学がある。京都の人口の1割が学生。大型看板の掛かった大学文化を味わいながら進むとその突き当たり(京都言葉で、ドン突き)に吉田神社の鳥居が遠くからでも見える。鳥居をくぐり緩やかな階段を進む。吉田神社は、節分お化けの時などは賑やかだが普段は人が疎らである。ここから少し進むと吉田神社の敷地内にある斎場所大元宮はお勧めである。

斎場所大元宮の外観(撮影 にしゃんた)
斎場所大元宮の外観(撮影 にしゃんた)

このお堂は面白い。1601年に建てられており、形状は平面上八角形に六角形の後房をつけた珍しい形をしている。茅葺屋根の上には千木や宝珠なども上がっている。この形式になったのは儒教・陰陽道・道教などのいろんな宗教や思想を統合した吉田神道の理想の形を表したためと言われている。ここからが重要である。全国のあらゆる神々を祀るため、ここに参詣すると全国の神社を詣でると同じ効果があると言う。いろんなものを受け入れる日本人の大らかさは自然界の紅葉を愛でる文化にも通じるような気がしてならない。

吉田山の山頂。奥に「大」が見える(筆者撮影)
吉田山の山頂。奥に「大」が見える(筆者撮影)

ここから山頂に向かって少し歩きましょう。10分もすれば山頂にたどり着く。ここに来ると反対側には大文字山が見える。紅葉した大文字山の山肌に「大」の文字がくっきり見える。おまけにここは地元の人間が犬を連れて散歩に来たり、近くの幼稚園児が遊びに来るぐらいで静寂そのもの。紅葉をした大文字山を眺めながら、京都の文化に浸りながら静かな時間を過ごすことが出来る。この散歩する時間は、一年を振り返るのに丁度良いと考える。散歩に来ている地元の人と気さくに話が出来る嬉しい時間ももてるかも知れない。

ここからが選択が別れる。時間の都合や気分によって決めて下さい。

1つはここから折角だから大文字山を登ろうである。吉田山の天辺から大文字山の山道口まで20分、そこから大文字山の山頂まで30分。そこから、山科の方に下ると、毘沙門堂に出る、ここは紅葉で有名である。

真如堂(撮影 にしゃんた)
真如堂(撮影 にしゃんた)

2つ目はここから竹中稲荷神社経由で、吉田山を登って来たと反対側に下って真如堂に向かうルートである。真如堂の紅葉は是非薦めたい。実は真如堂は拝観料などを徴収していない。話を戻すが今回の紅葉は自分に対する1年間の労いも込められている。労いは無料が良い。真如堂も最近まで超がつくほど穴場だったが、今では人が多い。でもこのあたりの道が狭いため門前まで大型観光バスは来られないなどのことからその数は自然とまだ抑えられている。

ここまで来て、近くでお茶などして一段落しても良いと思う。ちなみに、この辺で一休みするならお勧めの食事や喫茶店も紹介しましょう。

茂庵の外観(撮影 にしゃんた)
茂庵の外観(撮影 にしゃんた)

1.茂庵

2.橋本関雪記念館

これだけでは、紅葉は少し物足りないと思う人も出てくるだろう。体力と財力と忍耐力(人が多いため)は必要だが、そんな欲張りに対しての朗報です。実はここから次の紅葉スポットへのアクセスは非常に便利である。いくつか紹介しよう。南禅寺永観道、哲学の道(無料)法然院銀閣寺金戒光明寺などは歩いていける距離にある。今回の提案、如何だったでしょうか。

世界中の人が集まる京都。人で満ちている京都。そんな一種特異な街だからこそ、自分のオリジナルな京都をいろいろ考えることも醍醐味の一つであろう。私ごときのこんな一案も、だれかの京都紅葉を楽しむための踏み台になったなら嬉しく思う。

写真 onigiri-kun
写真 onigiri-kun

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社会学者/タレント

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「Mr.ダイバーシティ」などと言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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