大迫勇也と「不倒不屈」。

セネガル戦でもフィジカルで負けない大迫のプレーは頼もしく映った(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 大迫勇也は、倒れない。

 ゴール裏に急こう配の仮設スタンドが突き出ているエカテンブルクアリーナ。グループリーグ第2戦も、彼を経由して日本の攻撃は生まれていた。セネガルの屈強な2人のセンターバック、カリドゥ・クリバリ、サリフ・サネに対して常に脅威の存在であり続けた。

 ボールキープからターンして前に持ち運べる強みが彼にはある。相手を呼び込みつつキープしたボールを味方に渡してシュートチャンスをつくるパスもある。自らのクロスもある。「ボールを収めた次」のプレーの質が、チャンスの扉を開いてきた。それがコロンビア戦であり、先日のセネガル戦だった。エカテリンブルクアリーナの記者席から眺めても、大迫がボールを収めるだけで相手のストレスが伝わってくるようだった。

 クリバリの195センチ、サネの196センチに対し、大迫は182センチと大きく下回っていて体重も10キロ以上違う。細マッチョ系の大迫が、なぜ彼らに押されても、引っ張られても倒れないのか。「体が強い」だけでは説明がつかない。

 1年前、体づくりについて彼にじっくりと聞いた機会があった。

 ドイツのブンデスリーガでプレーする彼は週に2度、デュッセルドルフのジムでパーソナルトレーニングを行なっており、ようやく「倒れない体」に自信を深めていた時期だった。

「ドイツの2シーズン目から今のトレーニングを地道にやってきました。成果が出るには時間も掛かる。ようやく当たるところでは引けを取らなくなったかな、と。大切にしているのはバランス、軸、キレですね。やっぱり前で当たる回数が多いし、当たる相手だって大きい。自分では『倒されたら終わり』って思っています。だから倒されるのは、ファウルされたときだけ。倒れない体が、自分のテーマなんです」

 バランス、軸、キレ。

 徹底してインナーの強化を図ってきた。取材時に見せてくれたのが、腰を下げながら片側に重心を傾けて風船に息を吹き込むトレーニングである。次に、相手を想定してバランスボールを壁に押し当てて、風船のなかに息を吐き切っていた。

 トレーニングしながら風船を膨らませるのは意外に難しい。大迫自身、始めたころはそう簡単にできず、横隔膜付近が筋肉痛になったこともあるという。だがこのときは、吹き込むだけで風船を割るほどになっていた。

「息を吐いているときって、当てられても体がブレたりするじゃないですか。骨盤や内転筋も使うことを意識して、今はもうブレなくなってきている。呼吸の循環も良くなっているなって思いますね。プレー中は呼吸が荒くなったり、きつくなるときがあるけど、力を抜いたときでも無意識に体が踏ん張れるようになってきました」

 バランスと体の軸によって激しく当たられても倒れず、次のプレーのキレを生み出す。体を張って粘って倒れないことがキレに対するエネルギーを生み出す。

 コロンビア戦の先制点のシーンがまさにそうだった。

 香川真司が出した裏へのボールに対して大迫が反応して、世界的に評価を高めているトッテナムのダビンソン・サンチェスを振り払った。GKと1対1に持ち込んで左足シュートは弾かれたものの、これが香川のシュートにつながってPKに持ち込んでいる。強豪コロンビア撃破のストーリーは、ここから始まった。

 絶対に倒れない、絶対に倒されない。

 己の信条としてきた。

「相手とのぶつかり合いでは絶対、倒れたくないですね。俺が何とか倒れずに頑張っていれば、周りの選手も頑張ろうってなると思うから」

 試行錯誤もあった。

 ドイツ2部の1860ミュンヘンからケルンに移籍したのがブラジルW杯後の2014~2015シーズン。攻撃の万能性を買われてトップ下で起用され、葛藤のなかでプレーをしていくうちに先発から外れる試合も多くなった。

 違う、俺はストライカーだ。

 フォワードが適性なのだと自ら証明しなければならなかった。やるべきことは明確だった。倒れない体をつくり上げ、持ち味であるポストプレーに磨きを掛ける。そしてゴールに向かう――。

「まずはチームメイトに、アイツできるって思わせないといけない。ダメだと思ったら、(ドイツでは)パスが来なくなる。そこは極端かもしれないけど、逆を言えば分かりやすい。だからできるヤツと思わせる、というのは凄く大事にしている。ボールが来る分、ちゃんとやらなきゃいけない責任感は凄くある。その危機感みたいなものを強く持ってやってきているかなって思います」

 できるヤツだと思わせてきた。ドイツでも、日本代表でも。ずっと取り組んできたことの成果が、このロシアにある。

 不撓不屈かつ不倒不屈。

 大迫勇也の倒れない体は、倒れない心がつくり上げている。

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