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川崎フロンターレとコラボパートナー「いとオカシ」な関係性。

二宮寿朗スポーツライター
試合後のイベントでお菓子を手に勝利を喜ぶ中村憲剛(写真は川崎フロンターレ提供)

 コラボレーションパートナー。

 六本木ヒルズと企業が協力してヒルズの街づくりに対する試みでも知られる言葉であり、事業、制作などにおける共同体を意味する。

 Jリーグのクラブと企業の関係性はおおよそ「スポンサー」なり「サプライヤー」になる。だが開幕から25年近く経ち、その関係には変化が出てきている。試合当日のイベントで動物と触れ合える「牧場」を設けたり、ハーフタイムに陸上トラックを利用してスーパーフォーミュラカーが爆音をとどろかせるなどアッと驚く企画で知られる川崎フロンターレが、今季からコラボレーションパートナーとしてある企業とタッグを組んでいるのをご存知だろうか。

 ホームゲームで勝てば「勝利のマーチ♪」と銘打って選手や来場者にお菓子がプレゼントされたり、『ともに勝利の喜びを噛みしめよう!』と無料でガムを受け取れる「ガムステーション」が開設されたり……。そう、お菓子メーカーのロッテがパートナーに名乗りを挙げたのである。

 仕掛け人となったのが同社のマーケティング統括部部長でIMCクリエイティブディレクターの後藤宏行さん。なぜフロンターレのパートナーとなったのか、試合当日にホームの等々力競技場に姿を見せた後藤さんに直撃した。

――コラボレーションパートナーになった経緯というのは?

「昨年、いろんな企画の仕掛け人でもあるフロンターレの天野春果さん(現在は東京五輪組織委員会勤務)に、弊社のスタッフ研修で講演していただきたいと思って事務所に伺ったことがあったんです。そこで企画の話とかいろんな話を聞かせていただくと、やっぱり凄く共通しているんだなって思えたんです」

――お菓子とサッカーに共通点?

「その存在が人を幸せにする、人を笑顔にするというのはサッカーもお菓子も一緒じゃないですか。でもフロンターレと弊社だけの大きな共通点がほかにありまして」

――うーん、なんでしょう。

「弊社の商品がヒントです」

――「コアラのマーチ」で言えば、イケメンの小林悠選手はちょっとコアラ顔ですかね。

「あっ、そういうんじゃなくて」

――分からないです。

「ヒントを申し上げますと……ワッ!」

――ワッ! びっくりしました!

「失礼しました。あっ、いや。フロンターレの企画は常にサプライズがありますよね。弊社にも『ビックリマンチョコ』がありますけど、新しい商品を出すのもサプライズを大事にしたいという思いがありまして。それで一緒に、コラボレーションできないかと」

――個人的には昨年、元横綱・武蔵丸の武蔵川親方が始球式をやったんですけど、まさか大きな体を前に屈めての「五郎丸ポーズ」をやるとは思わなかったですね。

「はい。非常に面白かったと思いますね」

――あっ、リサーチを兼ねて会場にいらっしゃっていたんですね。

「いや、僕はホームで15年間、仕事以外はほぼ100%、ここに来ています。アウェイも関東近郊、いや大阪までならなるべく行くようにしています。昨年、吹田での天皇杯決勝は優勝できなくて悔しかったですね。涙しました。基本、フロンターレが負けた試合の週は機嫌が悪いです」

――かなり熱心なフロンターレサポーターさんなんですね。

「はい。ですが仕事は仕事で別ですよ。フロンターレさんのサプライズに、負けたくないんです。絶対に」

――今年の新体制発表ではサプライズゲストに元ロッテオリオンズの大エース、村田兆治さんが登場しました。これはロッテ側のアイデアだったとか。

「元々川崎市とは川崎球場を本拠地としたオリオンズを通じて、深い関係を築いていました。ロッテのエース、村田さんと言えば全力投球。ファンのみなさんへのサインボールを、全力で投げていただきました」

――村田さんの登場だけじゃなく、全力投球のおまけつきとは……。

「喜んでいただくためのサプライズですから」

――「勝利を噛みしめる」では配ったガムを試合後、みんなで噛むというのが定番になってきましたね。

「企画にはストーリーが必要だと考えています。勝利を噛みしめるという共通項から、やっぱり来ていただいた方みなさん一緒に勝利とガムを味わっていただきたいな、と思いまして」

――1試合どれぐらい用意しているんですか?

「2万枚ほどです。『買ってください』となるとビジネスになってしまうので、弊社のほうで用意させていただいております。嬉しい反響もいただいておりまして、コラボレーションパートナーになって良かったなと思っております。たとえばイトーヨーカドー武蔵小杉駅前店では共同で販促プロモーションを行なったり、ビジネス的にもパートナー効果が出ています。これからもフロンターレさんに負けないアイデアを出していきたいと考えております」

 8月5日にホームで開催されるFC東京との「多摩川クラシコ」は、ロッテが全面協力して「多摩川オカシコ」と銘打たれている。中村憲剛、小林悠、大島僚太のビックリマンシールの来場者プレゼントやら、ロッテマスコットとのじゃんけん大会やら。多くの企画がある中で、サプライズとなるのが昨年、閉館された等々力プールの復活だという。30mの巨大スライダープールと泡入りのプールを用意するという。川崎市民の思いも含んだ企画である。

 一つの企画に、サプライズとストーリー。フロンターレ側とロッテ側が膝を突き合わせて何十時間も会議して、生まれている。

 後藤さんは言った。

「いや、でも楽しいんですよ。一緒にアイデアを出しあって、企画をつくりあげるって。フロンターレは僕にとって、生活のうるおいであり、元気を与えてくれる存在。ロッテの企業イメージと一緒に上げていくことができたら嬉しい限りです」

 クラブと、応援する企業の新しい関係性の提示。

 つくり手が競うから、よりいいものになる。

 つくり手が精いっぱい楽しむから、受け手も精いっぱい楽しめる――。

スポーツライター

1972年、愛媛県出身。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、2006年に退社。文藝春秋社「Sports Graphic Number」編集部を経て独立。著書に「岡田武史というリーダー」(ベスト新書)「闘争人~松田直樹物語」「松田直樹を忘れない」(ともに三栄書房)「サッカー日本代表勝つ準備」(共著、実業之日本社)「中村俊輔サッカー覚書」(共著、文藝春秋)「鉄人の思考法」(集英社)「ベイスターズ再建録」(双葉社)がある。近著に「我がマリノスに優るあらめや 横浜F・マリノス30年の物語」。スポーツメディア「SPOAL」(スポール)編集長。

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