朝ごはんを食べると学力が向上するって本当?~食事の大切さについてどう伝えるか~

(写真:アフロ)

 「朝ごはんを食べると頭が良くなる」という話を聞いたことはありますか? 農林水産省の「めざましごはん」や文部科学省の「早寝早起き朝ごはん運動」など、様々な食育運動で紹介されるため、耳にしたことのある人も多のではないでしょうか。

 早寝早起きのリズムをつくり、朝はスッキリ、余裕を持って朝食を食べることで子どもの健康と成長を後押しすることはとても大切です。朝食の素晴らしさを見直してもらい、朝ごはんを食べて貰うためにはと考案されたのが「朝ごはんと学力の関係」だったのだろうと思います。

■朝ごはんと学力の関係は?

 朝食習慣と学力の関係を示すデータとしてよく引用されるのが文部科学省の「全国学力・学習状況調査」です。この調査は毎年実施されているものですが、「毎日、朝ごはんを食べる子どもほど学力が高い傾向がある」ことが一貫して示されています。また、朝食習慣の有無が将来の年収にも影響(社会人を対象としたwebアンケート調査であるが)すると指摘する研究者もいるようです。

 平成29年度の調査でも、朝食習慣のある集団ほど、テストの正答率が高いという結果がでています。

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 一見すると、朝食を食べることで学力向上が期待できるようにも見えますが、これだけでは朝食を食べると学力が向上するとはいえません。ところが、現場レベルの食育活動では、朝ごはんを食べると学力が向上するという説明がされている事例もあるようです。また、文部科学省の「企業と家庭で取り組む早寝早起き朝ごはん~大人が変われば、子どもも変わる~」という公的資料には「朝食摂取は学力にも影響」という見出しがあり、学力向上を期待する人であれば、朝食に学力向上効果があると考えてもおかしくないでしょう。

 朝食習慣と学力テストの結果には因果関係がありそうに見えますが、これだけでは単なる相関関係で、その間に因果関係があるかは不明です。相関関係とは1つのデータが増減すると、もう1つのデータも増減するような関係です。もしかしたら因果関係はあるかもしれませんが、学力に関係する隠れた別の要因があるかも知れないのです。

 教育に熱心な家庭では、塾に通わせたり、宿題を見てあげるだけではなく、子どもが朝ごはんをしっかり食べられるような環境を用意していることが想像ができます。この場合、学力に直接影響をしているのは、教育への支出であるかもしれませんし、親と子どもが一緒に学習をする時間かも知れません。この場合には、朝ごはん習慣には因果関係がなくても相関関係が生じます。この例の教育熱心な家庭環境のような、結果に影響を与えるような別の要素を「交絡因子」といいます。朝食を食べる習慣がある子どもであれば、睡眠時間が十分であったり、親のしつけが行き届いていることもありそうですので、これらが交絡因子として影響を与えている可能性があります。

 

■本当は関係ないの?

 「全国学力・学習状況調査」の結果をみただけでは、朝食と学力の間に因果関係があるとはいえませんが、朝食と学力の因果関係が否定されたわけではありません。両者の関係を明らかにするためには、もともと朝食を食べていなかった子どもグループを、朝食を食べるグループと朝食を食べないグループに分け、成績に変化が現れるかどうかを調べたり、交絡因子の影響をできるだけ取り除く統計処理を行うことが必要です。

 では、朝食と学力の関係を実証するような研究はあるのでしょうか。私が調べた範囲ではそのような研究はみつかりませんでしたが、東京大学社会科学研究所で実施された「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」というアンケート調査の結果を基にした、論文では、交絡因子の影響を取り除いた後でも、朝食摂取習慣単独で有意なプラスの効果があったと、報告しています。

 ただし、この調査は成人になってからのアンケートであり、学力指標は自己評価で、朝食習慣の有無も記憶を頼りにしたものであり、この結果で学力向上効果があるとまではいえないでしょう。また、朝ごはんは学力に関係するかもしれないというイメージを持っている回答者では、結果に影響を与える可能性も考えられます。現時点では証拠はありませんが、その辺りも考慮した研究が行われれば実証されることも考えられますので、朝食と学力は単なる相関関係に過ぎない、と決めつけてしまわない態度も大切だと思います。

 

■どうして朝食を食べないのかにも目を向けたい

 朝ごはんを食べるだけで学力がアップしたり、将来良い仕事に就けるかは不明ですが、仮にそんな効果がなかったとしても、子どもにとっての朝食の大切さは変わりません。成長期の子どもが無理なく十分な栄養を確保するためにも朝食をはじめ、3食しっかりと食べることが大切です。子どもは成長に必要な栄養を確保するため、体の大きさの割にたくさん食べる必要があるのですが、胃や腸などの消化器官はまだ発達途上なので、一度にたくさん食べることが難しく、1食でも欠食してしまうと、他の食事のときに負担がかかってしまいます。子どもの生理を考えれば、朝食の大切さは自明ですから、あるのか無いのか分からない理由で朝食をすすめる必要はないのではと私は考えます。

 一度にたくさん食べることが難しい子どもという説明をしましたが、それならお腹が空きやすいはずなのに、どうして朝食を抜いてしまう子がいるのでしょうか。どうして朝食を食べないのかその理由を探り、食育運動の課題なのか、個人なのか、国レベルの問題なのかを整理して、一つずつ解決していくことが大事でしょう。少し古い調査ですが、独立行政法人日本スポーツ振興センター実施の「平成22年度児童生徒の食事状況等調査報告書」に興味深い結果がありました。

 

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 この中で気になるのは、項目の1と5です。「食欲がない」子どもに、いくら健康に良いからと朝食を食べさせたとしても、集中力が向上するとは思えませんし、気持ち悪くなってしまうことも考えられます。夜食などを食べていてお腹がもたれている可能性もありますが、何らかの病気がひそんでいる可能性もあります。「朝食が用意されていない」、というのは深刻で、家庭環境など子どもが置かれている環境について周囲の援助が必要なケースもありそうです。こうした理由で朝食を食べていないのであれば、本当は朝食を食べたいかも知れませんので、「朝食を食べている子は将来有望」とか「健康のために良い」という情報は子どもの心の負担になるかも知れません。

 子どもの朝食欠食問題を本当に解決するためには、社会の援助と個別のアプローチの両輪が基本であると思います。

■今回のまとめ

・朝食を食べる子ほど学力テストの成績が良い傾向がありますが、朝食を食べれば学力がアップするとはいえません。

・今後、朝食と学力の関係が明らかになる可能性はあります。

・朝食と学力テストの成績に相関はあっても、因果関係をほのめかすような資料を配布するのは妥当ではありません。

・子どもは大人に比べて体の割にたくさんの食べものを摂る必要がありますが、消化管が未発達なので、一度にたくさん食べるのは苦手です。毎日3食しっかり食べると無理なく栄養摂取ができます。食育ならばまずこのことを教えて欲しい。

・今朝食を食べていない子どもに朝食摂取をすすめる場合には、その背景も大切に。