話題の一汁一菜に管理栄養士が感じたこと

(写真:アフロ)

料理研究家の 土井善晴さんが書いた『一汁一菜でよいという提案』という本が人気になっているようです。この一汁一菜は、単なる粗食ではなく、具だくさんの汁物を用意することで、沢山のおかずをつくらなくてもしっかりと栄養を摂れるスタイルの提案です。

土井さんの一汁一菜でもよいという提案する理由は、多くの人が毎日の食事作りを負担に感じている人が多いことが発端だそうで、毎日台所に立つ人や、忙しい子育て世帯の人へ、毎食しっかり料理を作らなくても良いのですよという、専門家からの優しいメッセージといえるでしょう。

最近は夫婦共働きの子育て世帯も多く、残業があれば食事時間がどうしても遅くなってしまいます。手作りの料理を何皿も作っていては家族でゆったり過ごす時間も持てなくなってしまうかも知れません。一汁一菜ではないですが、忙しい時には加工食品や惣菜を上手に使うのも良いと私も著書の中で推奨しておりましたので、土井さんの提案にはとても共感できました。

■一汁一菜で誤解されそうなこと

土井さんの本をよく読めば誤解することは少ないと思うのですが、様々なメディアで採り上げられるようになると、一汁一菜という言葉ばかりが先行し、土井さんの意図とは違ったものが広まっていくことを懸念しております。

試しに『一汁一菜』というキーワードで、yahoo検索やツイッター検索をかけてみたのですが、ダイエット目的や、昔ながらの粗食を推奨するもの、沢山のおかずをつくることは栄養過多の原因になり良くない、というものがヒットしてきました。

元々、一汁一菜は昭和初期頃までの庶民が普段口にする食事内容で、沢山のご飯などの穀物の主食を、しょっぱい漬物とみそ汁をおかずに食べるというものでした。当然、食塩過多となりますし、タンパク質や脂質が不足しやすいため、成長期の子どもに必要な栄養を満たすことが難しい食事内容です。ビタミン類の不足も深刻で、夜盲症や脚気、くる病など重大な欠乏症も多発しておりました。

ブームに合わせ、昔ながらの一汁一菜の和食こそが健康食であるという話を見かけても信用しないで欲しいと思います。土井さんの一汁一菜は、洋食や中華など様々な食事のスタイルを否定するものではありません。

■管理栄養士としての見解

一汁一菜でよいという話はとても魅力的なものなのですが、あくまで忙しかったり、食事の用意が負担になっている人への提案であることを忘れてはなりません。私はこの部分がとても重要だと思っています。それは、一汁一菜というスタイルは、成長期の子どものように十分に栄養を摂る必要がある人や、血圧などに不安のある人にはあまり向いていないだろうと考えるからです。一汁一菜を実施する時に気をつけたい点を述べてみます。

・体をつくるもとになる、肉や魚などが不足しがち

具だくさんにしても、汁物というスタイルでは毎食、肉や魚をたくさん入れるのはちょっと難しいかなと思います。つみれにすると沢山とれますが、ちょっと手間がかかりますね。成長期の子どもや運動量の多い家族がいる場合には意識しておかないと不足してしまうおそれがあるでしょう。簡単に調理できるものでもかまいませんので、もう一品加えるなどの工夫があると良いですね。

・食材が偏りやすい

一汁一菜のスタイルでは、生野菜や乳製品が不足しやすい傾向にあります。糖尿病など、生活習慣病が気になる人は、一汁一菜に拘らず、野菜の献立をもう一品追加するなどの工夫が望ましいでしょう。

・食塩過多になりやすい

日本人は比較的栄養バランスの良い食事ができていると評価をされていますが、日本的な食事は食塩摂取量が多くなりやすいという課題があります。特に麺類など汁物の多い献立はどうしても食塩量が多くなる傾向があります。具だくさんの汁物も同様ですので、みそ汁ではなく洋風スープにしてみたり、牛乳を使用しコクをだすなど、食塩量を減らす工夫があると良いですね。

■おわりに

とても面白くて、料理に対するハードルを下げてくれる「一汁一菜でも良い」という提案ですが、一汁一菜がベストであると誤解をしないで欲しいと思います。あくまで、食事スタイルの提案であり、忙しい家庭や食事の用意に苦労している方の選択肢の一つであるということです。

家庭での手作り料理にこだわりたいのであれば一汁一菜を採用すれば良いですし、家族の時間を大切にするのであれば、既製品の利用も良いでしょう。どちらの場合でも、週末や余裕のあるときには、色々な色々な食材を使用したり、ちょっと手の込んだものをつくるなど、楽しい食卓になるような工夫をしていただければと思います。

一汁一菜良い、ではなく一汁一菜でも良い、という選択肢の一つであるということが大事なのです。