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月刊ドラマジャーナル 2016年1月号 『いつ恋』、『真田丸』、SMAP

成馬零一ライター、ドラマ評論家

「月刊ドラマジャーナル」は、毎月テレビドラマ界で起きているトピックを、月末にまとめて記事にする連載記事だ。

2016年に入り冬クール(1~3月)の連続ドラマが出揃ってきている。

毎クール、20本以上の連続ドラマが放送されているが、働いている社会人や勉強の忙しい学生にとって、すべてを網羅することは難しいだろう。

この記事では、毎週放送されている作品の中から、「これは!」という注目作やトピックをいくつか紹介する。今後のテレビドラマ視聴の際に是非、参考にしてほしい。

いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう

まず、今期、もっとも注目すべきドラマは、フジテレビ系月曜夜9時(月9)で放送されている『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(以下、『いつ恋』)だろう。

本作は、東京で生きる地方出身の若者たちが主人公の恋愛群像劇だ。

脚本は『最高の離婚』や『問題のあるレストラン』(ともにフジテレビ系)などで知られる坂元裕二。始まる前は坂元のヒット作である『東京ラブストーリー』の現代版を待望するフジテレビの宣伝に不安を感じて、坂元の脚本が日寄るのではないかと心配していたが、1~2話を見る限りでは、近年の坂元作品が持つ圧倒的なリアリズムを備えた恋愛ドラマに仕上がっている。

とにかく細部の作り込みと画面の緊張感が他のドラマと較べた時に別格で、今クールではダントツの仕上がり。

この完成度を最後まで維持できれば、『北の国から』(フジテレビ系)に匹敵する大傑作となるかもしれない。

視聴率は第1話が11.6%(関東地区)、第2話で9.6%(同)と一桁台に下がってしまったが、方々で絶賛されているので、これから口コミで盛り上がっていくだろう。

若い男女の現実と向き合っているが故の、労働環境の厳しさや、高齢化社会における老人からの無自覚な搾取などが辛辣に描かれているが、そういった描写はあくまで手段であって目的ではない。おそらく本当に描きたいのは、辛辣な現実を踏まえた上で生まれる恋の奇跡だろう。

ナオミとカナコ

フジテレビ系では木曜夜10時から放送されている『ナオミとカナコ』も悪くない。専業主婦のカナコ(内田有紀)と親友のナオミ(広末涼子)がカナコにDV(ドメスティック・バイオレンス)を振るう夫(佐藤隆太)の殺害計画を企てる物語だが、女同士の共犯関係を描くという意味では、同じドラマ枠でヒットした『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)を彷彿とさせる。

一話を見た時は脚本と役者の演技は素晴らしいものの、テンポと映像が若干弱いと感じたが、葉山浩樹が演出を担当した第3話では、暗殺計画をたてる二人の哀しくも美しい姿が際立っていた。続きが楽しみである。

一人勝ちするNHK、『朝ドラ』に対するカウンターとしての『いつ恋』

『いつ恋』が面白いのは、このドラマを鏡として他の作品を見ることで、今のテレビドラマをめぐる現状が露わとなることだ。

例えば本作の主人公の一人である有村架純が演じる杉原音は、北海道の田舎から逃げ出し東京に向かうのだが、音の姿は、連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)で有村が演じた天野春子の姿を連想させる。

しかし、子どもから老人まで仲良く楽しめる朝ドラの『あまちゃん』と較べた時、『いつ恋』で描かれる若者像は辛辣で、明らかに高齢世代の男性を敵として描いている。

『問題のあるレストラン』でも、『あまちゃん』や『ごちそうさん』といった朝ドラに出演していた杉本哲太や東出昌出といった俳優を敵役として起用することで、朝ドラが描いていたユートピアを、セクハラ、パワハラが蔓延する男社会のブラック企業という現代的な風景へと批評的に読み替えていったのだが、それが成立するのは、今のテレビドラマにおいて、朝ドラの影響力が絶大だからだろう。

現在放送中の朝ドラ『あさが来た』は連日、平均視聴率が23.0%(同)を超える状態となっていて評価も高い。

一方、フジテレビは業績悪化が報道され、2015年の年間視聴率は民放最下位に転落した。80年代以降牽引した若者が楽しめる文化としてのテレビカルチャーは日本人の少子高齢化と共に廃れつつあり、その一方で大勝ちしているのが、高齢者を中心とした幅広い年齢層をターゲットにしているNHKだ。

テレビをめぐる現状は80年代以前に逆戻りしていて、10代20代の居場所はなくなりつつある。

しかし、だからこそ現代の若者の生きづらさを真正面から描く『いつ恋』の存在は、強烈なカウンターとなっている。

大河ドラマ『真田丸』で、三谷幸喜が描こうとしていること

一人勝ちするNHKの最新作として注目したいのは、新しくはじまった大河ドラマ『真田丸』(NHK)だろう。

脚本は『新撰組!』以来12年ぶりの大河ドラマとなる三谷幸喜。

かつて、新撰組を通して若者たちの青春と挫折を描いた三谷が、『真田丸』で描こうとしているのは、乱世に翻弄される家族の物語だ。

堺雅人や大泉洋といった実力派の俳優をそろえているが、見ていて気になったのは、このドラマにおけるリアリティの置き所だ。

『真田丸』の映像は『龍馬伝』や『平清盛』に較べると一時代前のもので、戦の場面もどこか呑気に見える。しかし、どんなに呑気に見えても命のやりとりをしているので、起きている物語と、画面に映っていることのギャップが、不条理なコメディを見ているかのように見える。このシリアスなのかコメディなのかわからない、どっちつかずの気まずさが、今のところ気になっている。

『真田丸』というタイトルは真田家そのものを一隻の船に見立てたものだが、史実通りに進んでいくとしたら、真田家は織田信長や豊臣秀吉といった時代々々の権力者の仕えながら、最終的には豊臣家と徳川家についた真田家が分裂して、生き残るためにお互いが戦うクライマックスへと向かうこととなる。

圧倒的な権力との戦いではなく、権力者の間を渡り歩くことで、どうやって生き残るのかという「家族のサバイバル」を描く『真田丸』は、視聴者にどのように受け入れられるのか。平均視聴率は上々で第1回は19.9%(同)、第2回は20.1%(同)、第3回は18.3%(同)を記録している。

ちかえもん

大河ドラマと言えば、『平清盛』の脚本を書いた藤本有紀の最新作が、NHKで木曜夜8時から放送されている木曜時代劇『ちかえもん』だ。

江戸時代の劇作家・近松門左衛門(松尾スズキ)を主人公とした時代劇だが、劇中でザ・フォーク・クルセダ―ズの「悲しくてやりきれない」や、BOROの「大阪で生まれた女」といった曲がかかる不思議なテイストの作品となっている。

1月2日に放送された木皿泉の単発ドラマ『富士ファミリー』(NHK)もそうだが、今のNHKドラマは、作家性の強いマニアックな支持を受けている脚本家に、自由に書かせることで独創的な作品を生み出している。

『ちかえもん』も今の民放ではリスクが高すぎて、NHK以外では実現が難しい企画だろう。

しかし、あまりに作家性を大事にするあまり、脚本家の中にある世界観だけでしか成立しない狭い作品になってしまう傾向も強く、大河と朝ドラ以外の作品はどうしても趣味的なものとなってしまう。

フジテレビを筆頭に民放の連続ドラマが見られなくなってきている今、あえてマニアックな題材を作家性の強い監督が制作する深夜ドラマがテレビ東京系列を筆頭に話題になっているが、あれは不特定多数の視聴者ではなく、ネットで積極的に発言する人々や変わったものが好きなテレビブロスのようなマスコミ関係で取り上げられやすいだけで、絶対的な母数はそこまで大きくない。

『ちかえもん』は、深夜ドラマに較べれば圧倒的に見られている人の数は多いだろうが、それでもどこか閉じているように見えるのが、少し物足りなく思う。

『家族のカタチ』と『スペシャリスト』 SMAPの謝罪会見が露わにしたこと

『いつ恋』の第一話が放送された1月18日。

その後に放送されたバラエティ番組『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)にて、アイドルグループSMAPによる謝罪会見が行われた。

SMAPを長年支えてきた女性マネージャーが、ジャニーズ事務所の退職することに伴い発生したSMAP解散と木村拓哉以外の4人のメンバーの独立騒動は、この謝罪会見によって、一応は沈静化したようにみえる。

SMAPの解散が報じられた時、直後にコメントを求められた。

エンタメ業界におけるSMAPが果たしてきた役割についての解説をすると同時に「解散することによって死に体となっているテレビからSMAPが解放されるなら、それもいいんじゃないか」という趣旨のコメントしたのだが、解散自体がなくなった今となっては、微妙な立ち位置の記事となってしまった。

それにしても、これでSMAPは、今の立場から降りる最後の機会を失ってしまったのではないかと思う。それは40代になってもアイドルであり続けると同時に、沈みゆくテレビカルチャーの最後のスターとして君臨し続けなければならない苦悩を、完全に引き受けたとも言える。

そんな、SMAPの香取慎吾が主演を務めているのが、日曜劇場(TBS系夜9時)で放送されている『家族のカタチ』だ。香取が演じるは39歳の文具メーカーに勤める男性で、女性との恋愛をわずらわしいものと思っている。

近年の香取慎吾は、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(TBS系)の両津勘吉のような漫画的なキャラクターの印象が多かったのだが、本作では実年齢に近い男性の役を演じており、普段の香取のドラマにくらべると圧倒的にリアルだ。

一方、草なぎ剛が出演しているのが、木曜夜9時からテレビ朝日系で放送されている『スペシャリスト』だ。

草なぎ剛が演じるのは、殺人容疑で10年間刑務所に服役していた刑事・宅間善人。

刑務所で見聞きした犯人のデーターベースを駆使して、宅間が次々と怪事件を解決していく一話完結の刑事ドラマとなっている。

2013年から単発のスペシャルドラマが定期的に作られており、高い評価を得ていたが、今回満を持して連続ドラマとなった。

初回視聴率は17.1%(同)と高く、同じテレビ朝日の刑事ドラマ『相棒』シリーズに続くドル箱コンテンツになるのではと期待されている。

この二作が少し特殊な意味付けを持つとすれば、ドラマの外にあるSMAPを取り囲む現実が物語の中に入り込んできているように見えるからだろう。

本来、役を演じる俳優と役柄は別のものだ。しかし、SMAPのような人気タレントの場合、演じる役と本人のパーソナリティは切ってはきれないものである。その意味で、今回の謝罪会見は、彼らがテレビドラマで演じる役柄に大きな影響を与えることになるだろう。

特に、木村拓哉がジャニーズ事務所残留の決め手となったという事実は、組織のしがらみから自由に生きて、己の信念を貫くヒーローを演じてきた木村にとっては、大きな転換点となるかもしれない。

逆に今回『家族のカタチ』が面白く見られるのは、演技の中に、現在の香取慎吾が抱える苦悩が透けてみえるからだ。

解散の機会を失ったSMAPの5人は、今後、どのように年を重ねていくのだろうか、もうしばらく見守りたい。

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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