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警戒レベル5での避難とは?「命を守るための最善の行動」とは?

関谷直也東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター准教授
(写真:ロイター/アフロ)

 6月から、昨年度の西日本豪雨などの経験を踏まえて、気象災害、河川災害に関して警戒レベルが導入されました。レベル4までは、いままでの気象情報、河川情報を整理しただけで「災害発生情報」が提供されるという以外は、求められる対応はいままでと変わりません。基本はレベル4までの段階で避難すべきとされます。では、特別警報、災害発生情報、河川の氾濫発生情報にひもづけられる「警戒レベル5」とは何でしょうか?

 

警戒レベル5

 警戒レベル5は、「命を守るための最善の行動をとる」べきとされていて、土砂災害などの「災害発生情報」、比較的おおきな河川(水位が提供される河川)での「河川氾濫情報」などと紐づけられています。

 つまり、この警戒レベル5の意味は、「すでに災害が起こっている」、あるいは「近辺で災害が発生しているので、あなたの身に危険が迫っている」「手遅れかもしれない」という意味です。おおきな河川近傍や、土砂災害の発生する可能性がある場所では、もう避難は間に合わないかもしれない、という意味です。だからこそ、警戒レベル5を待っていてはいけません。本来は警戒レベル5が出る前に避難している必要があります。これが原則です。

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 では、警戒レベル5に達したらどうすればよいでしょうか?基本的には警戒レベル4の避難と変わりがありません。ただし、災害がすでに起こっている、もしくはすぐに起こるかもしれないので、避難する場合は自己責任で、最大限注意を払って対応するということになります。

 また、この避難行動は、今いる場所が、河川災害と土砂災害のどちらの危険性があるかによって避難の仕方は異なります。

河川災害の「命を守るための最善の行動」とは?

 河川災害の避難に関しては、浸水の可能性のある川の近くにいる人、低い土地に住んでいる人が情報に注意して、河川から離れる、上階にいくなどの避難をするというのがポイントです。また、雨が降っていない下流部で破堤する可能性もあるので、必ずしも気象情報や周囲の状況だけで判断しないというのもポイントです。

 河川災害に関する警戒レベル5は、比較的おおきな河川(水位が行政から提供されている水位周知河川)で「氾濫発生情報」が出たとき、すなわち、どこかで河川の氾濫が発生し、河川の近傍では浸水が始まり、また、ある程度離れた浸水想定区域において、これから浸水するかもしれないという状況で出されます。

 河川近傍で上階まで浸水する地域の場合は浸水がはじまってからは間に合わない(避難できない)可能性が高いわけですから、基本は、警戒レベル5を待っていてはいけません。

 ただし、場所にもよります。自宅が浸水していなければ、もしくは避難できる余裕があると判断するなら警戒レベル4と同様に自宅から離れて避難します。しかし、避難する余裕がない、あるいはすでに浸水が発生しているなら、覚悟を決めて、家の上階に行くなど少しでも高いところに避難するかどうか、「命を守る最善の行動」を判断し、実行します。

 ただ、上階まで浸水する地域の場合はそのような対応もできませんので、自分の地域の水害ハザードマップを確認し、自分の家がどのくらい浸水するかを確認しておくことが必要です。

 また、河川の情報は自治体や国土交通省(川の防災情報)、気象庁などから提供されますし、河川の水位を見ていれば危険性の目安はわかりますから、基本的には、平野部の河川氾濫の可能性がある地域では、情報に注意し、判断します。

土砂災害の「命を守るための最善の行動」とは?

 土砂災害の避難に関しては、土砂災害警戒情報など土砂災害に関する情報の的中率は低いけど、土砂災害の危険がある箇所のどこで災害がおこるかわからないので、念のため避難するというのがポイントです。

 土砂災害に関する警戒レベル5は、土砂災害危険個所で土砂災害がすでに発生していてもおかしくないとき(大雨特別警報)、もしくはその地域ですでに発生したことが分かったとき(災害発生情報)に出されることになっています。

 大雨特別警報は、ある程度の拡がりをもって、災害がすでに起こっているかもしれない段階で発表される警報ですから、自分のいる場所や近隣で災害が起こっていない場合も当然あります。

 災害発生情報は、土砂災害などが発生した段階で出されますが、区域全体の全ての場所で同時に土砂災害が発生するわけではないので、自分のいる場所や近隣で災害が起こっていない場合も当然あります。

 自宅周囲で土砂災害が発生していなければ、もしくは避難できる余裕があると判断するなら、レベル4と同じように避難します。しかし避難する余裕がなかったり、すでに周囲に土砂の流入や浸水が始まっているのなら、覚悟を決めて、少しでも助かる可能性がある家の上階、山や崖の反対側に行くなど、「命を守る最善の行動」を判断し、実行します。

 土石流やがけ崩れなどの土砂災害は、発生してからでは避難できませんし、そもそも、今、そのときに近隣の地盤がどのような状況かはわかりません。的中率が低くても、警戒レベル4の土砂災害警戒情報が発せられた段階や大雨警報(土砂災害)の危険度分布の紫、濃い紫がでた段階で、避難します。基本は、警戒レベル5を待っていてはいけません。

 そのため、あらかじめ自分の地域の土砂災害に関するハザードマップを確認して、自分のいる場所や近隣の土砂災害の危険性のある場所を知っておくこと、早目に土砂災害の危険がない場所に移動することが必要です。

 警戒レベル5は、避難を諦めろという意味ではありません。河川の近くなら河川災害の、斜面部、山間部なら土砂災害の危険があり、住んでいる場所によってそのリスクは異なります。どの災害かによって、状況によって、住んでいる場所によって「命を守るための最善の行動」は異なります。あらためて、自分のいる場所や近隣の危険性を確認しておくことが必要です。

東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター准教授

慶應義塾大学総合政策学部卒。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程、東京大学助手、東洋大学准教授(広告・PR論)、東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター特任准教授を経て現職。専門は災害情報論、社会心理学、環境メディア論。避難行動や風評被害など自然災害や原子力事故における心理や社会的影響について研究。東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調)政策・技術調査参事、内閣官房東日本大震災対応総括室「東京電力福島第一原子力発電所事故における避難実態調査委員会」委員、などを歴任。著作に『風評被害―そのメカニズムを考える』、『災害の社会心理』。

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