より一層、国会議員が独立して情報を収集したり、調査を行ったりすることができるようにしていくことが必要であるということを、これまで述べてきた。

第1回で述べたとおり、国会を通過している法律の多くは閣法であり、それと比較すると議員立法の法案提出数はある程度あるものの成立をしている数は少ない。しかしながら、成立数という「量」だけを見て国会議員の立法能力をそのまま反映していると考えることは正しくはないと考える。「質」の観点でいうと、これまで議員立法として成立してきた法案には、金融再生法や東日本大震災の復興関係の法律など大型で重要なものが含まれている。1998年まで遡るが、金融危機に際して与野党の国会議員が政府案と民主党案を合体させる形で金融再生法を成立させたことは大型の法案を議員立法という形で実現させた例である。また、近年では東日本大震災への対応のために当時野党であった自民党の国会議員がリードする形で東日本大震災復興基本法を始めとする多くの法案を議員立法として提案し成立させ、復興に大きく寄与している。これらの実績をみれば、国会議員の立法能力が課題なのではなく、国会議員の能力を最大限に発揮してもらえるような環境が提供されているのかどうかが課題であろう。そのため、第2回で述べたとおり、行政庁のリソースだけでは十分でない部分をどのように補っていくのかという観点が重要である。

上記の課題の解決に向けては、いくつかの方法がある。

国会議員一人ひとりに調査などを行うことができる人員を配置することが一つの方法である。国会議員には3名の秘書が付けられているが、そのうち政策秘書と言われる秘書は1名に過ぎない。(注.国会法第132条第1項は「各国会議員に、その職務の遂行を補佐する秘書二人を付する。」と定め、さらに第2項で「前項に定めるもののほか、主として国会議員の政策立案及び立法活動を補佐する秘書一人を付することができる。」としている。)

制度が異なるので単純な比較はできないが、2011年の「国立国会図書館ISSUE BRIEF調査と情報」第732号「欧米主要国の国会議員秘書制度第2版」によれば、議員立法を原則とする米国では下院国会議員が常勤秘書18名まで非常勤秘書4名までの合計22名までの秘書を雇用することができ、2009年現在で国会議員1人当たり約16.9名の秘書が雇われている。上院国会議員については雇用できる秘書の人数の上限はなく2010年現在、国会議員1人当たり約43.5名の秘書が雇われている。しかも秘書の分業化が進んでおり、統括秘書、立法担当秘書、広報担当秘書、日程担当秘書、選挙区担当秘書、総務担当秘書などの役割に分かれている。また、米国では秘書が選挙活動を行うことと雇用されている国会議員に政治献金を行うことは禁止されているということである。こういうデータを見ると、国会議員1人当たりの秘書の数を増やすことによって調査能力や立法提案能力を支えて行くことができるようにも思える。しかしながら、重要なことは、調査等を行う多くの人員を効果的に稼働させるノウハウの蓄積も必要となるということである。そのようなノウハウの蓄積をそれぞれの国会議員に委ねることが効率的であるのかは考えてみる必要があるのではないか。また、秘書を増員する場合には政策の調査に注力できるように、選挙運動への参加や政治資金集めなどは禁止するという措置も講ずる必要があり、現在の秘書の方々の業務実態に照らすと、そこにも無理がありそうに思われる。とすれば、それぞれの国会議員の秘書を増員するよりも効果的な方法はないのであろうか。

組織的に調査を行う機関を設けて、国会議員の仕事を支えるということも方法である。

その具体的なアプローチの一つの形が、政党がシンクタンクを持つというものである。かつて、自由民主党と民主党がそれぞれシンクタンクを持っていたという事実もある。しかし、小規模の政党にとってはシンクタンクを持って維持していくための経済的基盤をどうするのか課題がある。また、それぞれの政党がプライオリティをおきたい政策と、個々の国会議員がプライオリティをおきたい政策が異なった際に、果たしてシンクタンクのリソースを国会議員が使うことができるのかという課題もある。自由民主党や民主党がシンクタンクを維持しなかったことも実際の運営に難しさがあったのではないかと伺わせるところである。なお、シンクタンクではないが同様の機能を担っている機関として、公明党の公明新聞と日本共産党の新聞赤旗も存在している。さらに両党ともに地方議員が組織化されていることもあり、国会議員、地方議員、機関紙の三者が協力して高い政策企画能力を有している。しかし、他の政党が同様の機能を備えるのは、実態としてはそれほど容易ではないのではないか。その点で、シンクタンクのような機関を持つことは有力なオプションの一つではあっても、基本的な解決策と考えることは難しいのではないか。

もう一つのアプローチの形は、衆議院、参議院がそれぞれ持っている調査局・調査室、法制局、国立国会図書館の調査機能を強化するということが考えられる。端的にいえば、今ある機能を充実することである。現状でも国会議員を支えており、議員立法の際のサポートだけではなく、閣法についても調査を行ったりもしている。これまで法制局、調査局・調査室などが果たして来た役割と実績に照らすと、機動的に動くことができる組織を強化する方が合理的であり、また、政党の大小を問わずに活用することができる点でも優れている。

衆議院と参議院の法制局の人員はホームページの記載によればそれぞれ82人、76人となっており、定員が77名の内閣法制局と比べても人員数は遜色ない。

一方、衆議院調査局と参議院調査室の人員は十分なのであろうか。例えば、閣法は毎年100本程度が提出されるが、閣法の法案は所管する行政庁が審議会などを通じて情報や意見を取りまとめたうえで法文案を作成し、関連する省庁間での協議を経ながら内閣法制局で確認をするという過程を経て作成されている。その中で、それらの審議のために必要な情報を独立して収集する機能を担っている各行政庁の担当者の数や条文の作成などに費やしている人員比較して、2007年時点で合計560人(蒔田純「各国立法補佐機関の比較分析」より)という衆議院調査局と参議院調査室の人員は少ないと思われる。また、提出されてくる閣法についての情報収集に留まらず調査局や調査室は多数の議員立法作成の補佐をしていくという役割も担っている。その観点から現在の人員が果たして適切なのかどうかを見直すべきである。そのためには、各行政庁で法律作成のために従事している職員の実数を明らかにするとともに、その数値を参考にあるべき人員数を検討していく必要がある。また、その際には人材の多様性を確保するために民間の人材の活用ができるような工夫が必要であり、国会の職員の採用方法や流動性の確保も同時に行わなければならない。

なお、国会議員ひとり当たりの秘書を増員する場合にも、両院の法制局、調査室を強化するにしても不可欠なのは予算的な手当である。他の予算とは異なり三権分立の要となるような事項については十分な予算手当が必要であるということを私たちも理解しなければならない。

予算を承認し、執行を監督する最終責任が国会にあることは忘れてはならない。そして立法府としての機能を強化することなくして、行政府と立法府が適切な牽制関係に立つような三権分立はなりたたない。国の財政のプライマリーバランスを早期に回復できるための予算削減や使い道の精査は必要であるが、国会議員の活動を支えるための予算を増大させていかなければ将来に禍根を残すことになると考える。国会の機能強化のための予算と人員増は国会の機能を考えた場合の喫緊の課題である。

なお、個々の国会議員にその能力を十分に発揮してもらうための環境の整備と並行して考えておくべきことは「党議拘束」(所属する政党の判断にしたがって国会で投票を行うこと。政党の判断に反した行動を取った場合には「造反」として所属する政党から処分をされることになる)をどうしていくかということである。討議拘束についての課題は大きく、後日、改めて考えることとしたい。