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「Fintech×スポーツ」の新しい時代始まる!次世代型カード「Nudge(ナッジ)」がスポーツ応援

上野直彦AGI Creative Labo株式会社 CEO
フィンテック企業ナッジ代表沖田貴史氏。キャリアはファイナンス関係一筋のベテランだ

クレジットカード「Nudge」がスポーツチームやアーティストを応援、Fintechの新しい挑戦!

 9月2日、日本の金融の中心地・大手町でファイナンス企業をメインとしたコワーキングスペースFINOLABにて、記者発表会見が開かれた。「Fintech×スポーツ」と呼べる、まったく新しいビジネスモデルの発表だった。

 日本におけるチャレンジャーバンクを目指すナッジ株式会社は、今夏から次世代型クレジットカード「Nudge(ナッジ)」の発行を開始した。このクレジットカードに支払いを切り替えるだけで、サービスを利用して商品やサービスを購入することで、ユーザーが選択した企業や組織・チームの応援が可能になり、 ファンマーケティングと連動したクレジットカードとなっている。

 ナッジ社は2020年に設立され、すでにセゾン・ベンチャーズなどから10億円規模のを資金調達を受けている。2日に発表会見が開かれたが、この新しいクレカ「Nudge」の最大の特徴は、決済がナッジ社が提携をしているスポーツチームの応援などにつながることだ。まさに今までにないファンマーケティング連動型のクレジットカード誕生である。

 これは明らかに旧来のギフティング(投げ銭)とは一線を画すサービスだ。なぜ、どのようなビジョン実現のため、この新しいビジネスモデルを構築したのだろうか?

 ナッジ株式会社の代表である沖田貴史氏は大学卒業後から、一貫してファイナンス関係のキャリアを歩み、現在は一般社団法人 日本フィンテック協会の代表理事なども務めている。その沖田氏にお話を伺ってみた。

インターネット黎明期の時代から、決済インフラを手がける

野球、バスケットボール、サッカーなど様々なチームとはすでに取り組みが始まっており、スタートも好調である。
野球、バスケットボール、サッカーなど様々なチームとはすでに取り組みが始まっており、スタートも好調である。

ー今回のFintech領域の新しい挑戦ともいうべきこの取組み、始められるきっかけは何だったのでしょうか。

​​沖田 もともとインターネット黎明期である90年代に当時決済インフラを構築するというところからインターネット業界に入ったのです。

 その頃は「Fintech(フィンテック)」という言葉すらなく、もっといえばインターネットビジネス自体もありませんでした。現在のブロックチェーンと同じで、当時の私は大学生でしたが、直感的に『インターネットは世の中を大きく変えるだろう』と、きっとゲームチェンジを起こすに違いないと感じていました。

 ただ、最初はEコマースから取り組もうと思ったのですが、Eコマースの市場がそもそもないわけです(笑) 1996年くらい、一橋大学の2〜3年の頃だったと思います。

ーインターネット時代の黎明期、決済インフラに取組もうと思われた理由は。

沖田 ビジネスを拡大するには決済ができないと難しいと考えたからです。物流は現在とは変わらないくらいでした。今の時代では信じられないでしょうが、当時はインターネットは怖い、信用できないという時代で仮に商品が届いてもお金を渡せない。そこで決済インフラがないとEコマースが始まらないのではないかと思って取り組みました。

 それ以来20年の間、ずっとフィンテックの世界や暗号資産(仮想通貨)の世界で仕事をさせていただいています。決済まわりが多かったですし、キャッシュレスにもずっと取組んでいます。ただ、残念ながらキャッシュレスの分野は世界の中でも日本は今もあまり進んでいません。

ー進まなかった理由を最前線にいらした沖田さんはどう分析されていますか。

沖田 クレジットカードや電子マネーなど、本来はユーザーにとってめちゃくちゃお得だし便利なんです。ただ、一方でなかなか人々は過去の習慣を変えていきません。

 なので今回は過去のビジネス体験からも、もう少し深く見ていこうとリサーチしたのです。意外なことが分かりました。実際クレジットカードをつくろうとすると、特に若い女など3分の1くらいが審査に落ちてしまうという事実があったのです。あと、クレカは不安があるという話もよく聞きました。

 細かく噛み砕いて調べていくと、今のクレジットカードの仕組は使いづらいところがたくさんあると。それに対してさまざまなフィンテック企業はアプリと連動する形でサービスを提供しているんですが、結局そのフィンテックをやっている人は私の過去の反省も含めて、金融の人でかつテクノロジーに詳しい人であり、超合理的に考える人たちなんです。多くのユーザーが不安になっている現状を本来なぜその人たちが困っているのかという真のペインにあまり目を向けずに、もっとこういう機能を足したらいいとか、こういう機能があったらいいなどのアプローチばかりをしてきたんです。

 ここは大いに反省すべき点で、今回のビジネスモデルに活かす形となっています。

「Nugde」とは、そもそも行動経済学の言葉なんです

Nudgeの支援は、スポーツチーム、加藤ミリヤさんなどアーティストなど多岐にわたっている。
Nudgeの支援は、スポーツチーム、加藤ミリヤさんなどアーティストなど多岐にわたっている。

ー「Nudge」のサービスで、その経験を活かしていこうと。

沖田 そうなんです。実はこの「Nudge」という言葉、行動経済学の言葉なんです。経済学は合理的な人間の行動を前提としています。価格が下がるとか売り上げが増えるとか、数学的なアプローチで考えます。それはさすがに実態経済とは離れてしまうので、人間本来の心理に基づいたものをつくって使っていきましょうというのが行動経済学なんです。

ー行動経済学でいうどういった意味なんですか。

沖田 ナッジは「肘で突っつく」という意味です。日本人的には肘で突っつくと感じが悪いのですが、ニュアンス的には「背中を押す」といった意味です。

 強制はされませんが知らず知らずのうちにいい行動を取る。みたいなのがナッジのプロセスです。今回はサービスも利用者がキャッシュレスが便利だからキャッシュレス使って下さい、とか、こんなにお得だからキャッシュレスですよ、みたいなアプローチではありません。自然と利用者がキャッシュレス生活を送りたくなるような仕組みづくりをしようと目指し、この言葉を使いました。

ーつまり、このカードを使って誰かの背中を押したいと。

沖田 先ほどクレジットカードの使いづらい面の話をしましたが、Nudgeでは基本的に便利なサービス、特に若い人にとってすごく便利なサービスを実現しています。

 今回のNudgeというのは2つのポイントがあります。1つは「非常に便利で使いやすいサービス」もう1つは「誰かのためになる、誰かを応援できるという機能」を付けました。

 応援できる対象はスポーツ、アーティスト、またタレントやキャラクターなのです。個人の“推し”を応援したいという人たちのニーズに応え、フィンテックの仕組みを使い、応援したいという気持ちを活用して、スマートかつ、現金で払っているものをクレジットカードに変えるだけでチームやアーティストを応援できる、そういった取組みなのです。

なぜ、スポーツ支援に「Fintech」を使おうと考えたのか?

地方・地域のスポーツチームからのスタートだが、2日の会見の後に早速取い合わせがきている。
地方・地域のスポーツチームからのスタートだが、2日の会見の後に早速取い合わせがきている。

ーなぜスポーツなどの支援にFintechを使おうと思われたのですか。

沖田 スポーツ以外にもアーティストやタレントの支援もあります。私自身はスポーツビジネスに強いわけではないので、様々な方に相談させて頂き、スポーツでも特に地域のスポーツを応援したいと思わされたんです。

 記者発表会でもお話させて頂きましたが、当初は約20チームのさまざまなスポーツチームでスタートします。数は限定しているわけでありませんので徐々に増やしていく予定です。サッカーでいいますと、まずJリーグのブラウブリッツ秋田が先行でスタートしています。

ーすでに使われているのですか?

沖田 はい。なぜか東北のチームが結果的には多いのですが、Bリーグの岩手ビッグブルズさん、野球なら福島のレッドホープスさんです。

 東北のチームの方々とディスカッションするなかで、収益を多様化していきたいという声が圧倒的に多かったのです。経営も大変ですし、ファンやサポーター・ブースターが試合を見に来てグッズを買うだけでなく、今までとまったく違う形で応援の仕方がないのものかと。しかもファンの懐が痛まない形で応援できる方法がないのかと…

 それともう一つ、スポーツでは大事なことがあります。シーズンオフです。シーズンオフの時でもチームや選手のことを応援できる方法がないかと考え抜きました。そこで普通にコンビニやスーパーで物を買った時にチームの応援ができる仕組みをつくれば、どんな時でもチーム支援が可能になります。

ー普段の買い物がスポーツチームや好きなアーティスト支援に活かされる、画期的ですね。

沖田 具体的には会見でも説明しましたがカードがあのようなデザインで、利用履歴が全てアプリに表示されます。ある意味、会員証的なイメージです。また利用額に応じて特典が貰えます。そういった仕組みになっています。

ークレジットカードがスマホでも使えるということですか。

沖田 スマホと連動する仕組みです。購買が行われるとスマホに数値が表示され、カードは口座引き落としではなく、自分の好きな時に返済できるようになっています。

 クレジットカードだと使いすぎて怖いという方もいらっしゃるので、使える金額は10万円までに設定しています。10万円だとすぐに到達してしまうので、すぐに返済できるようになっているんです。

 普通のクレジットカードは30万円の枠だと次の引き落としまで2カ月で30万円ですよね。でもNudgeだと使ったらすぐ返しにいけば限度額が回復しますので、自分の好きな時に返せば必ずリフレッシュされます。一回で10万円などの大きな買い物はできないですが、月々いくらというのに囚われる事はありません。

「一人一人と未来の金融体験を一緒につくろう」

沖田貴史氏。一橋在学中、電子決済ベリトランス共同創業し04年上場。12年econtext ASIA社を共同創業、香港市場上場。公職は金融審議会専門委員など。日経ビジネス2014年日本の主役100人選出
沖田貴史氏。一橋在学中、電子決済ベリトランス共同創業し04年上場。12年econtext ASIA社を共同創業、香港市場上場。公職は金融審議会専門委員など。日経ビジネス2014年日本の主役100人選出

ー今後の展開などについて教えて下さい。

沖田 スポーツなどにもいろんな応援の仕方があると思うんです。ただ、グッズを買うとかファンがギフティング・投げ銭や寄付をするというのは限界があるじゃないですか。そうじゃなくて、Nudgeのサービスは実際に金融機関に流れていくお金が応援するため戻ってきます、という仕組みなんです。

 ギフティングと併用する新たな収益モデル、また安定的なチーム経営を実現するというのが目的です。カード会社のカードの収益の一部をチームやアーティストへ返金させてもらうという形なので。利用者から新しく負担を強いるみたいなものも全くないですし、利用者は普通に使っている分には全て無料です

ーいつぐらいからスタートでしょうか。

沖田 9月2日から一般スタートになります。クラブ数自体はある程度厳選しながら進めていますが、オーナーさん同士もよくご存知でいらっしゃるので、今はご紹介いただきながら増やしているイメージです。なのでスポーツチームなど招待制に近いイメージでやっています。クラブオーナーになるには、他のクラブオーナーにご紹介いただかないとなれません。やはり審査しないと、これで一儲けしましょう、みたいな方がきてしまいます。それは良くないので、私たちの理念に共感できる方だけにクラブオーナーになっていただきたいということです。

ースポーツチーム以外では?

沖田 いまローンチするタイミングでは、約半数がスポーツ関係です。それ以外の半数はアーティストの加藤ミリヤさんなどがいらっしゃいます。加藤さんは社会貢献に大変関心を持たれていて、そいういった意味でご協力いただいています。

 また、総合格闘技の堀口選手のカードをつくらせていただくのですが、個人でやってらっしゃる方とかオリンピックなどでも、その時にしか視聴しないスポーツもありますよね。そういった競技はタイミングをうまく使って広げていこうと進めています。

ー最後に実現したいビジョンをお聞かせ下さい。

沖田 スポーツでいえばチーム経営していくなかで、プロチームはもちろんですが地域に根ざしているチームにも、従来型の収益だけではなく収益の多様化、ファンとのタッチポイント、試合に来てもらう時だけではなく、それ以外の時でも大好きなチームを感じてもらえるようなものをつくっていきたいのです。そこにNFTなどが加わってくると、特に駆け出しの選手の応援などより多様性が持てるのではと考えています。

 私はギフティングや投げ銭を否定しているわけではないのですが、課題になっているのは投げ銭する人はめちゃくちゃ投げる、投げ銭しない人はほとんどしない。この差なんです。普通のファンはなかなか課金などされない方が多いのです。

 もしかしたらオンラインゲームの構図に近いのかもしれません。重課金する人とそうでない人、場合によってはファンの中で格差が生まれやすい面があります。極端な形になるとクラブもファン・利用者も困ると思いますので、Nudgeのようにふるさと納税型であればベストな形ではないでしょうか。支出も増やさなくてよく、チームもハッピーで、ユーザーも特典などもらえたら嬉しいといった流れです。

ー実際、自分も試してみます。そうでないとプロコンなどわからない場合があります。

沖田 はい、是非。より手軽な形で応援ができますし、常に自分の好きなチームやアーティストを身近に感じられるようなサービスです。好きなものと一緒に出かけられるというコンセプトです。是非使っていただけると嬉しいです。

 今後、サービスをどんどん増やしていきます。会社のミッションとしては「一人一人と未来の金融体験を一緒につくろう」なのです。

 ゼロから金融機関をつくるって普通の人は体験したことがないんと思います。これまでの金融機関サービスは提供を受けるものじゃないですか。そうじゃなくて能動的につくっていこうと。それは我々だけでなくクラブチームの方々もそうですし、ファンの方々とも一体となってつくっていきましょうと。

 今までの金融は面倒くさかったり親切じゃないという面を感じていたユーザーも多いと思うのですが、そうではなくて自分も作り手の一人として変えていけるんです。それをファンの皆さんとご一緒につくっていきたいのです。

◇参考_プレスリリース

PRtimesのリリース

*画像はすべてナッジ株式会社が提供

(了)

AGI Creative Labo株式会社 CEO

兵庫県生まれ スポーツジャーナリスト/早稲田大学スポーツビジネス研究所・招聘研究員/江戸川大学・追手門学院大学で非常勤講師/トヨタブロックチェーンラボ所属/ブロックチェーン企業ALiSアンバサダー,Gaudiyクリエイティブディレクター/NFTコンテンツ開発会社AGICL CEO/CBDC/漫画『アオアシ』取材・原案協力/『スポーツビジネスの未来 2021ー2030』(日経BP)など重版/ NewsPicksで「ビジネスはJリーグを救えるか?」連載/趣味はサッカー、ゴルフ、マラソン、トライアスロン / Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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