さる7月13日、プロバスケットボールB.LEAGUE(以下、Bリーグ)が会見をし「2020-21シーズン」の概要発表をした。

三代目チェアマンに就任した島田慎二氏からは、開幕カード、FINALが2戦先勝方式に変更したこと、コロナ感染対策チーム設置およびガイドライン策定、またファンが楽しみにしている“オールスター2021”が茨城県水戸市で開催決定したことなどが発表された。

プロ野球やJリーグに続いて、Bリーグも来シーズン開幕への道筋を明示した。コロナ禍においてプロスポーツリーグは何とか新しい時代の観戦様式を模索し、考えうる手をすべて打った印象だ。まず、ここに至るまでの協会・リーグや関係者の並大抵ではない尽力に敬意を評したい。

そのBリーグで注目を浴びるトップの選手たちも、それぞれの育成年代を過ごしてきて現在に至っている。重要な育成年代の改革の一つとして、ユース年代のリーグ戦構想が日本バスケットボール協会発信で現在動き始めている。

今回は日本バスケットボール協会(JBA)の育成改革にここ数年にわたって携わってきた技術委員会ユース育成部会の岩崎賢太郎氏に話を伺った。静かに淡々と語る岩崎氏、その内には自身のバックグラウンドである高校教員として、部活指導者の一人としての現場直結の課題意識と改革への静かな情熱を感じた。現在は学校現場を一時離れ、味の素ナショナルトレーニングセンター内のハイパフォーマンススポーツセンターにて発掘育成のコーディネーターを務める。

岩崎賢太郎氏。技術委員会ユース育成部会。高校教員で部活指導者を経験。現在味の素ナショナルトレーニングセンター内のハイパフォーマンススポーツセンターで発掘育成の現場でコーディネーター。(提供:JBA)
岩崎賢太郎氏。技術委員会ユース育成部会。高校教員で部活指導者を経験。現在味の素ナショナルトレーニングセンター内のハイパフォーマンススポーツセンターで発掘育成の現場でコーディネーター。(提供:JBA)

始まりは2016年、技術委員会の発足から

ー 今回のアンダーカテゴリーのリーグ戦構想ができるまでの経緯を教えていただけますでしょうか。

最初は2016年6月技術委員会の発足より、JBA育成改革においてリーグ戦文化醸成を育成改革の方法論の一つとして検討したことが始まりでした。2017年からは、山本明ユース育成部会長を中心にワーキンググループでの検討内容を各都道府県の育成担当者に向けて順を追って説明・発信を進めていきました。2018年以降はリーグ戦のガイドラインなど作成・改定などを続け継続してきています。

ここまでのリーグ戦関係の伝達共有について時系列にまとめてみましたので、ご覧いただけますでしょうか。

日本バスケットボール界の近年のリーグ戦文化醸成改革の経緯。(岩崎氏作成)
日本バスケットボール界の近年のリーグ戦文化醸成改革の経緯。(岩崎氏作成)

3年以上掛けて準備をしてきましたが、現場での共有という意味ではまだまだ伝達が足りていない部分があるとも感じています。今回はこの様な発信の機会に感謝しつつ、少しでも現場での理解が深まる内容につながればと思っています。

最大の特徴は「トーナメントマインド」から「リーグマインド」への変化

ー こちら分かりやすいですね。かなり時間をかけて現在の構想が出来上がったのが分かります。リーグ戦が実際に始まった場合に期待される効果はどういったものでしょうか。

岩崎 実際にリーグ戦を実施した県の参加チーム、選手、指導者がリーグ戦の本質に触れたことで「トーナメントマインド」から「リーグマインド」へ変化していくことが成果の1つではないかと考えています。

リーグ戦とトーナメント戦では試合日程が発表された際の選手・指導者の考え方や行動に大きな違いが出ると考えます。例えばなのですが、トーナメント大会では抽選後にトーナメント表が発表されると「勝ったらこのチームと対戦する」「この山に入ってしまったら勝ち進めないので、後半日程は試合がないだろう」というような試合に対しての勝ち敗け前提で試合日程をとらえがちです。

これが、リーグ戦の場合だと実施スケジュールが提示された際の捉え方が全く異なるものとなります。例えばですが6チームで5試合のリーグ戦実施スケジュールが提示された際の選手・指導者の考え方は、5試合が実施されることは確定した上で対戦相手となる全チームに注目したものに変わります。つまり「それぞれどんな特徴のあるチームなのか」「試合と試合の間の期間(1戦目と2戦目の間)に自チームとして何ができるか、できないか」「5試合を通し、チームとして個人としてどんな成長を描けるか」という考え方や行動になっていきます。これが「リーグマインド」の特徴となります。

勝ち負け前提だけで試合を考えることで失われてしまっていたゲームそのものの楽しさであったり、ゲームを重ねる中で得る成長の機会。リーグ戦を通じて深まるこのような経験から選手・指導者に意識や行動変容が起こることが大きな成果だと考えています。

ー 確かに春夏に甲子園で開催される高校野球にしても、育成年代の他競技のトーナメント大会にしても過酷な試合環境から弊害を訴える関係者も多いです。埋もれたり燃え尽きてしまった才能も多いはずです。その競技の社会的な浸透や真の強化・育成を考えるならリーグ戦文化はメリットが大きいです。

岩崎 そいうった指摘は以前からメディアからも、また多くの競技の関係者からもあったかと思います。私見が入りますが、先行しているサッカーや育成年代の他競技と情報共有しながら、競技横断視点を持ちつつ育成年代スポーツにリーグ戦文化を浸透していけたらと強く願います。

以下、トーナメント文化とリーグ文化の試合環境の比較をグラフにもまとめていますので少しでも皆さんの理解のお役に立てたらと思います。

バスケットボールにおけるトーナメント文化とリーグ文化の試合環境の比較。(岩崎氏作成)
バスケットボールにおけるトーナメント文化とリーグ文化の試合環境の比較。(岩崎氏作成)

動き出した各都道府県協会の取り組み

多くの関係者の尽力で日本バスケ界の育成改革は着実に進んでいる。(写真提供:日本バスケットボール協会)
多くの関係者の尽力で日本バスケ界の育成改革は着実に進んでいる。(写真提供:日本バスケットボール協会)

ー 現在の各都道府県の取り組み状況はいかがでしょうか。そのあたりくわしく教えて頂けますでしょうか。

岩崎 現在は各都道府県が県リーグの計画や設置・実施を進めている段階になります。

2017年のJBAの発表から各都道府県の組織的な動き出しがスタートし、実施地域の規模の違いはあるものの、今年度は34都府県の実施が予定されていました。ただ、残念ながらコロナ禍の影響を受けて多くの地域が実施を見合わせている状況です。

今年は史上初の「インターハイ中止」が決定されました。各スポーツや競技が代替大会のアイデアを出しているという状況ですが、関東の群馬県では、3年生の代替大会をリーグ戦形式で実施するという例があります。この群馬県は男女それぞれの県内チーム数が約60チームという規模で昨年リーグ戦を実施しています。リーグ実施の際にどの県でも懸念材料となっている、会場・日程・審判などの課題を組織的に対策してクリアし、約2ヶ月の期間に全チームが参加するという素晴らしい成功事例となりました。

これら昨年の実施経験を早速活かし、1回だけ試合をして終わりの代替大会の設置ではなく、コロナ禍であってもできる限り選手ファーストで計画を進めていった結果が今回の3年生リーグと伺っています。「リーグマインド」の本質に触れた群馬県の先生方の実践は、大変参考になる選手ファーストな取り組みです。

バスケットは、スポーツは、「負けたら終わり」ではない

ー 育成改革が進んでいる印象ですが、この取り組みへの岩崎さまの関わり方を教えてください。

岩崎 広い意味合いで私の役割は技術委員会ユース育成部会のメンバーとして、ユース世代のプロジェクト全般への関わりが主なものです。ユース育成部会はLTAD(ロング・ターム・アスリート・ディブロップメント)をベースにした育成環境作りを目指し、発掘・育成活動や大会設定を通したユース世代の日常環境の創出が目的になります。その中の方法論の一つに“リーグ戦文化”の醸成が含まれているというイメージです。

ー 主にどの年代に携われるのでしょうか。

岩崎 リーグ戦文化醸成にフォーカスした私の関わりとしては、U18カテゴリー部会のリーグ戦設計のワーキンググループとU15カテゴリーの活動です。

ワーキンググループでは2つの役割を担っています。一つ目は各都道府県リーグの推進、二つ目はトップリーグ・ブロックリーグの構築になります。これらのプロジェクトの最終的なゴール設定は、リーグ戦文化の醸成を通して拮抗した試合環境の創出と一定試合数の確保、という2点です。これらを実現し育成年代の競技環境づくりを目指します。

ー 個人的なお話で申し訳ありませんが、サッカーのユース年代の取材に約20年以上携わってきて、この国のスポーツの育成年代の強みと弱みがある程度見えてきました。リーグ戦文化の根本である「なぜ、リーグ戦なのか?」の答えは、まさにこの2つに尽きますね。

岩崎 おっしゃる通りです。トーナメント戦のみの育成競技環境では、試合に敗退することにより次の試合が無くなる仕組みであることから、試合に挑戦する機会が限定的となり、大会に参加しているチームの50%は1回しか試合ができないことが大前提となります。現在のU18カテゴリー(高校生)の日本全体のトータルチーム数は男女合計約8,000チーム(男女比1:1)になりますが、全体の50%が1回戦しかできないことから考えると、実に4,000チームが1回しか試合ができないことが仕組み化されてしまっている、という現状になります。

例えば、年間に公式大会が3回実施された場合ですが、各大会とも1回戦で敗退するチームにとっては、年間の公式戦総試合数は3試合ということになります。また、その1試合にかけるエネルギーの方向性は「負けたら終わり…」というマインドからつくられることを考えると、試合に出場する選手も必然と限定されてしまう傾向にあります。これは大好きなバスケットをやっていても、多くの育成年代の選手は、わずかな試合しかない環境で練習ばかりしている環境であることを如実に表しています。

現在日本のバスケットボール競技人口は約60万人です。その90%の約54万人が小学生から高校生までのユース選手であることから、この年代でバスケットボールの試合自体を経験できない選手が大量に出てしまっている現状を変えていく事ができるのがリーグ戦です。リーグ戦文化の醸成によって、能力の近いチーム同士で対戦グループを計画的に組むことがスタンダードな試合環境となることで、おのずと一定試合数の確保が実現し、その試合はより拮抗した試合となります。このことはバスケットボールの試合そのものを楽しめる選手が増えることに繋がり、本当の意味でバスケットボールファミリーがバスケを楽しめる環境作りに変化していくことになります。残念ながら、現在もトーナメント戦の一回戦の試合結果で160点差以上の極端な試合結果を見ることもあります。この様な試合自体、勝ったチームにも負けたチームにも必要のなかった試合であり既にバスケットボールのゲームではなくなってしまっています。

先行するサッカーのリーグ文化醸成から、その過程を学ぶ

ー サッカーなど他のリーグや競技から学んだとお聞きしましたが、それはどのあたりでしょうか。

岩崎 そもそも日本のスポーツにおける育成年代で、1シーズン約9ヶ月という長期リーグ戦制度を導入している競技はサッカーだけです。

その始まりは1990年代中頃より関東スーパーリーグという私設のリーグ戦が県を跨いだ強化リーグとして存在したことからと聞いています。背景には1993年のJリーグ開幕により、リーグ戦がもたらす強化育成の側面の理解が広がったことにあるとも聞いています。日本サッカー協会(JFA)が組織的にリーグ戦文化醸成プロジェクトをスタートしたのは2002年の12月からであり、各都道府県リーグの推進とブロックリーグの構築を当時、進めています。プロジェクトのスタートから約10年で47都道府県のU-18リーグを整備して、育成年代のトップリーグであるプレミアリーグを設立しています。2020年の今年でプレミアリーグ設立10年目をむかえ、プロジェクト始動から約20年で現在のリー

グスタンダードをつくっています。

 私たちバスケットボールに関わる大人たちが、これらJFAのリーグ文化醸成プロジェクトから学べることは、私はこの歴史の過程ではないかと思っています。JFAがプロジェクトを開始した2002年は日本サッカーにとって歴史的な日韓W杯の年であり、日本中が日本代表を応援し、熱量に溢れていた頃だと思います。そんな当時、目の前の子供たちの競技環境に目を向け続けた大人たちがつくった20年後が現在であることが分かっているわけですから、そのプロジェクトの過程が、どこにつまずきがあって、どこは上手くいったのかという先行事例研究になることは間違いありません。

 バスケットボールのリーグ戦プロジェクトに関わる中で、時々「サッカーのまねごと」ではという一部の意見を耳にするのですが、それは決してサッカーのマネをしているのでなく「ユース年代の子供たちに最良の環境を必死に考えたら結果的に近い形(リーグ戦)になった」ということが真実です。その上で約20年先を行く歴史や過程から、障害となったものをいち早くみつけることができれば、私たちバスケはサッカーの半分の時間の10年で子供たちのスタンダードを変えられるかもしれない、そんな気持ちでJFAの取り組みを追っています。先行する背中を見るのではなく、鳥の目で出来事を俯瞰する、そんな視点をいつも心掛けています。

「バスケット大国・日本」の実現へ。そのためにプロリーグの成功と並行して育成年代の取り組みが鍵を握っている。(写真提供:日本バスケットボール協会)
「バスケット大国・日本」の実現へ。そのためにプロリーグの成功と並行して育成年代の取り組みが鍵を握っている。(写真提供:日本バスケットボール協会)

バスケットの育成、海外に目を向けると

ー バスケットの海外のユース年代の現状はどのようなものでしょうか。

岩崎 海外のユース年代の競技環境も参考にしています。アルゼンチン、アメリカ、スペイン、ドイツ、オーストラリア、など強豪国であり、交流のあるこれらの国で一発勝負のトーナメントがスタンダードということは決してありません。リーグ文化が根付いている日常では、対戦相手をスカウティングしながらシーズンを過ごすことやゲームでのアクション・リアクションという相手にアジャストしていく場面がともないます。

リーグ戦をスタンダードにすることは、他国の育成環境にやっと追いつくという側面があることも共有していくべき内容です。リーグ文化醸成のそもそも論として、拮抗した試合環境の創出と一定した試合数の確保とお伝えしましたが、トーナメント文化しかない環境がリーグ文化へ変わっていくことによる普及の側面の成立を意味します。強化の側面に視点をおき、対世界で考えると質の高い競争環境の創出・対応力の求められる競技環境、という2つの要素がキーワードに変わります。技術委員会が進める「日常を世界基準へ変える」ということはA代表やBリーグの競技環境だけで捉えるだけでなく、強化リーグとなるユース年代のトップリーグ構築のうえでも絶対に外せない重要要素なのです。

2019年プロとしてユーロリーグでプレーした19歳の選手が7名、18歳が10名、17歳が3名という報告があります。この数字が表す海外と日本の乖離には様々な要素が含まれますが、日本の取り組みがそれらの国のスタンダードと外れる環境の一つにリーグ戦文化があると捉えています。

ー 今後の展望や20○○年にこういった達成をするという具体的なターゲッティングは何でしょうか。

岩崎 今後の展望はトップリーグ、ブロックリーグの設置・運営になります。

ここには、実施時期、参入の方法論など検討課題がありますが、県リーグ・ブロックリーグ・トップリーグの3層構造がスタンダードになることを目標にしています。

この7月初めに各都道府県でリーグ戦推進を進めている47人のキーマンたちがZoomで顔を合わせてミーティングを実施しました。各県の組織的な取り組みによって日本地図の色ぬりの様にユース年代の競技環境が変化していくことを感じます。多くの熱意のある大人たちによって仕組みづくりの変化を進めていますが、私も含めたそんな大人たちは小・中・高とトーナメント文化のなかで育ってきました。誰もリーグ文化の経験の無いなかで経験したことの無いものを作る難しさはありますが、リーグ文化で育った子供たちが、やがて第一線の選手となり、指導者となり、次世代のバスケットボールファミリーがもっとバスケで日本を元気にしていく未来が楽しみで仕方がないです。

(了)