“最初は選手、次は指導者、その次は経営者が世界へ出ていくべき”

 サッカー日本代表監督としてFIFAワールドカップで偉大な結果を残した岡田武史氏の言葉だ。横浜F・マリノスなどサッカークラブでも多くの実績を残し、現在はFC今治運営会社「株式会社今治.夢スポーツ」代表取締役として活躍。いよいよ今年はJリーグで記念すべき第一歩をあゆみだす岡田武史氏が、かつて筆者のインタビューで答えてくれたものである。

 翻って東京オリンピック・パラリンピックをひかえ、かつてないほどスポーツビジネスが熱を帯びる日本だが、このジャンルで世界に通じるビジネスマンが果たして何人いるのだろうか? 今回からの特集では世界のスポーツビジネス最前線で戦う日本人に、仕事の流儀、世界に通じるために何が足りないか、いま何をなすべきか、をインタビューしていく。

 第一回はマンチェスター・シティFC率いるシティ・フットボール・グループ(以下、CFG)日本法人でパートナーシップ部門セールスマネージャーを務める西脇智洋氏。幼少の頃からサッカーをプレイし、スポーツビジネスで辛酸をなめ、その後はCFGに転職して、ビッグディールを結ぶまでとなった。まさにドリームジョブを手にした今、何を語るのだろうか。

リバプールのサッカー大学で学んだ“フットボールビジネスの真髄”

ーCFGで働かれるまでのキャリアを教えていただけますか。

 早稲田大学商学部を卒業後、大塚商会の営業職で社会人としてキャリアをスタートさせました。その後、日本では「リバプールのサッカー大学」といわれている“The University of Liverpool’s Football Industries MBA(FIMBA)”/英国リバプール大学マネジメントコースFootball Industries MBAへ留学しました。2008年9月から翌09年10月までの1年間でした。

 目的は大学院へ通って、サッカービジネスの本質を学び、その業界にキャリアチェンジすることでした。情熱を持てるキャリアを考えた時、5歳からプレイしていたサッカーしかないなと。

ー何をメインに学ばれましたか。

 僕自身はMBAという学位を取得することが目的ではなく、スポンサーシップに関する知識をつけたいと考えてて、文献をひたすら読んでいましたね。当時の国内ではスポンサーシップビジネスに関する情報は限られていたので、目から鱗の連続でした。

ーなかでも印象に残ったものは?

 下の図にありますが、スポンサーシップマネジメントのフレームワークには6つの要素があります。「Objective Setting」「Screening and Selection」「Contract Content」「Execution of the deal」「Evaluation」「Critical Success Factors」、これで一つのサイクルとなっています。これなども日本ではなかなか教えられていないことです。

 修士論文では「スポンサーシップマネジメント及びスポンサーシップセールスアプローチ」を研究した際、「Sponsorship Management Framework」について学び印象に残りました。日本よりも成熟している欧米のスポンサーシップビジネスの現状をリアルに知って、日本のスポンサーシップビジネスに貢献できるのではと、留学時代から真剣に考えるようになったんです。今でもそれは自分のミッションのように感じてます。

「6つの要素で1つのサイクル」(出典:The University of Liverpool’s Football Industries MBA/FIMBA)
「6つの要素で1つのサイクル」(出典:The University of Liverpool’s Football Industries MBA/FIMBA)

 

日本サッカー協会へ。そしてMP&Silvaでは倒産の憂き目に

ー帰国後はどういった就職活動をされたのでしょうか。

 FIMBAの1個上の先輩が、日本サッカー協会で働いていて、ポジションがあくという情報を聞いてリクルートエージェンシーに登録して、日本サッカー協会(以下、JFA)に入りました。

 JFAでは当時の事業部(現:マーケティング部)に配属され、サッカー日本代表のビジネス全般を担当させていただきました。オフィシャルサプライヤー(アディダス)の権利行使のサポート、サッカー日本代表のライセンスビジネス、サッカー日本代表の海外試合のスポンサーシップの販売セールス等に従事していました。

ーそのあとは。

 JFAの後、一時期マネジメント側として筑波大学で働きました。その後、ご縁があり、シンガポールサッカー協会が主催する試合のスポンサーシップの販売セールスのお仕事をお手伝いさせていただき、あらためてグローバルスポンサーシップの面白さを知りました。

 その後は、ニールセンスポーツ(当時はレピュコム社)というスポンサーシップの効果測定をする会社で働きましたが、スポンサーシップを販売する際に、その提供価値は何なのか? を具体的に理解した上で、グローバルスポンサーシップ業界のキャリアに進んでいきたいと考えるようになりました。

 実際に、LinkedInを使って、スポンサーシップ業界でご活躍されている方のキャリアヒストリーを調査してみると、スポンサーシップの価値算出の方法を理解した人は、その後のキャリアでライツホルダーやエージェンシーの業界に進み、その分野のスポンサーシップのプロフェッショナルになっていることもわかってきました。なので、自分も挑戦したいと思ったんです。

 ニールセンスポーツのあとはMP&Silvaへ転職し、本社はロンドンなのですが、グローバルな様々なスポーツコンテンツのスポンサーシップを日本の企業様に販売させて頂きました。自分の目指していた環境でしたので、毎日が充実していました。ところが、その会社が一転倒産…挫折というか、当たり前の話なのですが、会社という存在ではなく自分自身という存在が自分をコントロールしなければならないと改めて痛感しました。とても貴重な体験でしたね。

 

シティ・フットボール・グループ(CFG)の一員として働く

ーその後は、CFGに繋がるわけですね。まさにドリームジョブともいえますが、どうやって現在の仕事を手に入れられたのでしょうか。

 一言で言えば、運が良かったんだと思います。これまでのキャリアもそうですが、節目節目で多くの諸先輩方からのアドバイスやサポートを頂きました。本当に感謝の気持ちしかないですね。今回も、求人広告としてCFG日本法人のマーケティングポジションでの案件が転職サイトに出ていたので、今の代表の利重に直接問い合わせて面会となりました。その後、シンガポールにいるAPACのHeadにプレゼンをして好感触だったので、次のステップを待っていました。

 その後はあまり進まなかったので、ご縁がなかったのかなと考えていたらLinkedInから「CFGの日本法人のセールスのポジションをつくりたいと思っていますが、ご興味ありますか?」とメッセージが突然届き、再びアプライをしてシンガポールにいる今の上司らと電話面接をして仕事が決まり、2018年9月に入社しました。

ー具体的にはどういった仕事をされていますか。

 パートナーシップセールスマネージャーという役職です。現在、CFGは画像にもあるようにイギリス・プレミアリーグのマンチェスターシティFCを中核に計8つのクラブのパートナーシップのセールスを日本マーケットでの責任者として働いています。8つのクラブは以下のとおりです。

マンチェスター・シティFC(英国)

ニューヨーク・シティFC(アメリカ)

メルボルン・シティFC(オーストラリア)

横浜F・マリノス(日本)

モンテビデオ・シティ・トルケ(ウルグアイ)

ジローナFC(スペイン)

四川九牛(中国)

ムンバイ・シティFC(インド)

マンチェスター・シティを核としたグローバルグループの8つのクラブ
マンチェスター・シティを核としたグローバルグループの8つのクラブ

ー最も新しいグループのチームはインドなのですね。狙いや戦略を教えてもらえますでしょうか。

 ムンバイ・シティFCはインド・スーパーリーグ(Indian Super League)に所属するプロサッカークラブです。このクラブを買収した理由の一つに、2027年インドの人口が中国を抜くと言われていることがあります。中国のクラブ買収もそうですが、CFGとしては、世界のマーケットがどう変化していくか常に未来に向けて先手先手で投資をしていくという考えが徹底しています。

ビジネス最前線で感じるスポンサーシップの尽きない魅力

プレミアリーグ優勝カップと。シンガポールのCFGアジア・パシフィックのオフィスにて入社後の研修。2018年9月(提供:西脇智洋氏)
プレミアリーグ優勝カップと。シンガポールのCFGアジア・パシフィックのオフィスにて入社後の研修。2018年9月(提供:西脇智洋氏)

ーグローバルなスポンサーシップの仕事ならではのダイナミックさや達成感はどういったものでしょうか。

 スポンサーシップの魅力は、決定のプロセスの中で、ポリティカルな部分、エモーショナルな部分、ビジネス的な部分、ステータス的な部分の4つの側面があることです。これらの側面をしっかり理解した上で、ストーリーを作っていくわけです。

 あと重要なのは、ビジョン。組織の持っている理念やビジョンに対して共感をして、そこから何を一緒にやっていくのかということ。お互いのビジョンに親和性がないと難しいと思います。いろんな要素が混じり合ってスポンサーシップのディールが成立します。

 さらにCFGには他のクラブではなかなかない多くの斬新なサービスもあります。その一つ画像にあるように試合前後の選手が間近で見られる「トンネルクラブ」で、大変サポーターの間で好評を得ています。日本のサッカーファン・スポーツファンのみならず、スポーツ関係者にもぜひ体験していただきたいですね。

憧れの選手を間近で。最高のファンサービス「トンネルクラブ」。シティはファンエンゲージメントの面でも世界トップクラスの評価を得ている。(@エティハド・スタジアム 提供:西脇智洋氏)
憧れの選手を間近で。最高のファンサービス「トンネルクラブ」。シティはファンエンゲージメントの面でも世界トップクラスの評価を得ている。(@エティハド・スタジアム 提供:西脇智洋氏)

 

グループCEO自らが横浜F・マリノスの試合をリアルタイムで応援

ー昨年の横浜F・マリノスのJ1リーグ15年ぶりの優勝は素晴らしいものでした。優勝を決めた最終節のFC東京戦はフットボールの三大要素である「ボール」「スペース」「時間」を完全に支配した試合でした。ここ数年の横浜F・マリノスやCFGの取り組みが結実した瞬間でしたが、具体的にどういったコミットや貢献をしたでしょうか。

 アンジェ・ポステコグルー監督も全部CFGにおんぶに抱っこではなく、監督のやるべきサッカーがあって、我々はそこをサポートする立場にいます。なので、僕らだけの貢献で成功しているというわけではなく、監督の指導方法やスタッフや選手があってこそ。その中で、CFGにあるサッカーネットワークを横浜F・マリノスに提供できているのはわかりやすい貢献です。

 そして、もっと大きな貢献は、哲学の部分でしょうか。CFGが掲げているブランドピラーの一つに、ただ勝つだけではなく、たくさん点を取って勝つこと、多くの人々が喜ぶエンターテインメントという要素も加味した「Beautiful Football」という言葉があります。我々はこれを掲げて、繰り返し行動し続けてきました。

 「Beautiful Football」という哲学を前提に監督を選び、コーチを選び、選手を選び、最適なトレーニングを行い、相手チームの分析や自チームの査定を行う。この一連の強化プロセスをマンチェスター・シテイFCだけでなくグループ傘下の全クラブに共有・サポート・浸透させてきたわけです。外国人監督の招聘や外国人選手の獲得という目に見える側面での貢献がわかりやすいですが、前提となる哲学を落とし込めたことが横浜F・マリノスの15年ぶりのリーグ優勝という結果に繋がったのではないでしょうか。少なくとも僕はそう考えています。

ーそういったコンセプトを導入したからといって、すぐに結果が出るほどサッカーは甘くはありません。文化が違う異国同士のプロジェクトであることなど優勝への舞台裏は想像以上に大変だったのではないでしょうか。

 おっしゃる通りですね。僕自身、CFGに入って事業面のスポンサーシップセールスをリードするなか、外国人と日本人の物事やプロセスの捉え方の違いに直面しました。CFGがサポートしてからの5年間は苦労の連続だったのではないでしょうか。実際、プロスポーツクラブのチームをサスティナブルに成長させていく命題があり、若返りを図るなど必要だった痛みがあったとも聞いております。また、2018シーズンは降格争いという状況もありました。ただ、そういった状況でも、ブレずにコンセプトに忠実に全ての関係者がハードワークしていった結果だと思います。

 事実、2018年-2019シーズンのボール支配率が全クラブNo.1という結果も出ており、横浜F・マリノスのフットボールは圧倒的に攻撃的なものへ生まれ変わりました。

ー昨年7月にプレミアリーグ王者マンチェスター・シティFCが来日、マリノスと対戦、オールドファンも、新しいファンも、そしてマリノスファンも大いにスタジアムを沸かせました。

 ポゼッションやパス数はマリノスが本家を上回り、マリノスのサッカーが面白いという声が多く聞こえてきました。このことは、マリノスのブランド面においても貢献したのではないでしょうか。

 弊社CEOであるフェラン=ソリアーノも、マリノスが展開するアタッキングサッカーや、マリノスのサポーターにも感銘を受けていました。最終節のFC東京戦ではCEO自身がマリノスのユニフォームとタオルマフラーを着用し、遠くマンチェスターから早朝5時にもかかわらずライブ中継を観ながら熱い応援をしていました。CEO自身がこのプロジェクトに一番コミットしていることを表しているエピソードですね。

15年ぶり4度めのJ1優勝を果たした横浜F・マリノス。まさに試合後の日産スタジアムで優勝を祝うCFGのメンバーと。2019年12月7日(提供:西脇智洋氏)
15年ぶり4度めのJ1優勝を果たした横浜F・マリノス。まさに試合後の日産スタジアムで優勝を祝うCFGのメンバーと。2019年12月7日(提供:西脇智洋氏)

 

日本とプレミアリーグのビジネスの決定的な違い

ープレミアリーグの仕事、シティの仕事と日本でのスポーツビジネス(例えばJFAやJクラブなど)の仕事と何が違いますでしょうか。

 パートナーシップのビジネスに関しては根本的に大きく違います。

 まず、パートナーシップに関する部署を一つとっても仕組みが違います。大きく3つに分かれており、セールス部門(リード獲得、提案、交渉、契約締結)、マーケティング部門(パートナーのアクティベーション支援、ローンチプランニング、権利履行のコンサルティング、外部ネットワークの活用、効果測定、マーケティングフォーラムの開催、次年度のプランニング)、ストラテジー&オペレーション部門(マーケティングリサーチ、デザイン、オペレーション、価値最大化のための戦略策定)といった機能に分かれているため、グローバルベースでのパートナーシップセールス活動を効率的にかつ効果的に行える仕組みが整えられています。基本的にこの各機能部門との連携は随時行っていますが、重要なアップデート情報を共有すべく、2週間に1度会議が行われております。

 こうした組織的な仕組みに違いがあるため、当然アウトプットする情報のクオリティーにおいては日本のライツホルダーの出す情報とは格段に違います。

ースポンサーシップビジネスを活性化させるポイントとして、クリエイティブなアクティベーション・アイデアが求められてきますが。

 企業側(ブランド)や代理店(エージェンシー)出身者のパートナーシップマーケティングチームによって、クリエイティブなアイデアが提供されるので、営業チームも彼らの知見を上手に引き出すことで、パートナーシップの目的に沿った、よりカスタマイズされた提案ができます。

 また、企業側のニーズを引き出した上で、必要な権利を開発できること、つまり提案における柔軟性が担保されている点が特徴です。日本のスポンサーシップビジネスは、競技や選手の側面を非常に大事にする傾向があるので、カスタマイズの柔軟性が低いのではないでしょうか。

 セールス活動の業務レベルにおいては、ターゲット選定においてはかなりリサーチを行って活動をしていることも特徴です。契約のクロージングまでの工程を考えると、ターゲット選定のプロセスはとても大事になってきます。また、セールスシートもいかにイメージが伝わるか、感情に訴えられるかを意識した上で動画やモックアップを多用しています。

 

 当然、そのような素材を使うとパワーポイントでは容量サイズが大きくなってしまうため、お相手の企業様に負荷がかからないようにご提案資料はブラウザで観れるように工夫されております。また、その提案資料はシステムで管理されているので、全世界にいる営業がどのような業種企業へどのようなストーリーでどのような提案をしているか共有されています。当然、提案のクオリティーも自然に引き上げられます。

日本のスポーツビジネスを今後スケールさせるために絶対必要なこと

ー日本のスポーツビジネスの課題はいろいろあると思いますが、西脇さんは最前線で戦っていてどのように感じていますでしょうか。

 サステナブル(持続可能)に成長するのは言うは易しなのですが、継続して収益を上げていくために何をすべきか、そのプランニングと実行が課題ではないでしょうか。やはり、赤字のままで、スポーツ事業を続けてても何の価値もありません。

 僕はスポーツビジネスは普通のビジネスであるべきだと思っています。スポーツはダイナミックかつグローバルに人々に感動を与え、人々をつなげたりすることができるので他の商材と比較してもユニークですよね。その特徴を最大限に活かして、収入を増やし成長させていく、そのための戦略を実行できる人材が必要だと思います。

 どうしたらビジネスになるか、CFGとしてライツホルダーでありながら、横浜F・マリノスのエージェンシー的な立ち位置で事業を推進しています。例えば、他のJリーグクラブが他のスポーツ団体のエージェンシー業務をやったっていいじゃないですか。整合性があるのであれば。積み重ねてきたノウハウはあるので、しっかりと外に対してマネタイズしていく。日本のスポーツ業界においては、マネタイズの手法をもっと増やすべきだと常々感じます。

ー2030年、スポーツビジネス的には日本をどのような国にしたいでしょうか。

 僕個人の力はたかが知れているので、日本のスポーツビジネスを何か変えようとか言える立場ではありません。ただ、グローバルなスポーツビジネスに身をおいて仕事をしている人間もそれほど多くはないという意味において、そうしたプレイヤーを増やすために、働けるマーケットを大きくしていきたいという思いが強いです。

 その意味において、自分の思いに共感してくれる人を増やして、一緒に力を合わせて次の時代を切り拓きたいです。やはり、常々考えるのは、日本人というアイデンティティを感じながら生きていくこと、これが自分の人生をより豊かにしてくれる。日本企業やひいては日本という国はなんてクリエイティブで素晴らしいのかと外国の方に伝えていきたいです。そして、スポーツ・スポンサーシップというツールはそれを可能にしてくれると信じています。

(了)