広告の周辺(14)ブランディングから「バズィング」へ。と、さらにバズワードを乱造してみる。

猪苗代湖ズだったり、秋田公立美大の客員教授だったりもするCMディレクター箭内道彦

犬のお父さんの覇権

 最後に、広告のここ10年を振り返っておきます。

 手がかりにするのは、昨年までのデータになってしまいますが、『CM INDEX』2014年4月号の特集「CM高感度の10年変遷」。

 2004年からモニター3000人体制によって、CMのオンエア状況とその受容の様子をウォッチし続けてきたこの調査会社によれば、過去10年間に「月間CM好感度No.1」をとった回数の「企業別/銘柄別」ランキングは、以下の通りです。

1位 ソフトバンクモバイル  72回

2位 NTTドコモ       9回

3位 KDDI/au       8回

4位 日本コカコーラ/ジョージア 5回

5位 アイフル        4回

6位 アフラック/新EVER  2回

6位 ACジャパン      2回

6位 サントリー/アミノ式  2回

6位 資生堂/TSUBAKI   2回

6位 東京ガス/ガス・パッ・チョ! 2回

出典:『CM INDEX』2014年4月号

 2004年は、アイフルのチワワや燃焼系アミノ式など、advertisingの系譜を引き継ぐCMのヒットで始まりました。しかし、2007年に白戸家シリーズが始まると、ほぼソフトバンクモバイルの独壇場となります。もちろん、2014年度の年間トップをauの三太郎シリーズに奪われるなどもありますが、やはりここしばらく、犬のお父さんを軸に広告界は回ってきました。

 もちろん、このランキングにも独特のクセはあって、出稿量の多いCMがどうしても人々の印象に残り、上位に位置づけられる傾向にあります。2011年3月・4月のNo.1は「ACジャパン/公共広告」ですが、ほぼそれしか流れなかったのだから、当然そうなってしまいます。

 前回、広告主の主軸が、通信をはじめとしたインフラ関連(他には交通やガスなど)、流通(いわゆるSPAやCVS)、金融などへとシフトするなかで、個別の商品を売るadvertising――広告する側がI’m a great lover. I’m a great lover. I’m a great lover.と手を変え品を変えアピールする――から、サービス総体のbranding――消費者の側からのI understanding you’re a great lover.――へ、といった流れを指摘しました。制作者名に還元すれば、岡康道(タグボート)や澤本嘉光の時代へ、といったことです。

mass media→personal media(net, web, mobile…)

 ですが、そう話は単純ではありません。この間、メディア環境は激変しました。

 白戸家などは通信キャリアの広告展開ですから、当然のことながらネットやモバイルメディアなどの活用にも積極的です。でも、その根っこというか土台の部分は、テレビCMシリーズが築きあげてきました。巨大企業のブランド構築なわけですから、表現のギミックはいろいろあったとしても、その存在はあくまでメインストリーム。マスないしポピュラー向けのエンタテインメントとなっています。

 一方で、マス全般に届かなくても、響く人だけにより先鋭的に響けばよい、という世界もあります。前回とりあげた2013年度のACCグランプリ、ナイキベースボール宣誓編などはそれでしょう。ラストには、おなじみのスヲッシュ・マークの下に「♯ZAWA」のハッシュタグ。世の中をザワつかせる、しかもSNSによって、みたいな意志が感じられます。実際に、地上波でのオンエア回数は少なかったにもかかわらず、この宣誓編はSNSなどによって広まり、圧倒的にウェブ動画として視聴されていきました。

 もちろん、高校野球という文脈を共有していない欧米圏(ないし欧米型)の広告賞では、まったく評価は得ていません。また、地上波でのオンエアを前提としている『CM INDEX』ランキングとも無縁です。しかし、ナイキジャパンとしては、じゅうぶん効果的なキャンペーンだったのでしょう。

 今われわれは、「ゲリラ的な展開」によって、巨大広告主が食われてしまうこともありうるメディア環境にいるわけです。制作者の個人名に還元するならば、犬のお父さんの裏側には、つねに箭内道彦のいた10年、みたいなことです。箭内道彦の作品は膨大にありますが、アーティストにひたすら「No Music, No Life.」についてインタビューしたタワーレコードのCM群、新宿タイガーをフィーチャーしたタワーレコード新宿店オープンの告知CM群、資生堂unoでやたら芸人さんが出てきたCM群、もしくは木更津キャッツアイとのコラボCM群などなど。検索をかけて引っかかりやすいところで言えば、TOWER RECORDS SHIBUYA -LIVE LIVEFUL!- CONCEPT MOVIEや、東京メトロ TOKYO HEART 「浴衣でメトロ」篇などが個人的にはおススメです。これらはやはり、ウェブ動画としての閲覧・拡散を前提しているのでしょう。

 ともかく、やたらタイプ数が多く、一本ごとのクオリティよりも、仕掛け全体で見せていく…。そうした手法は、いかにもネット環境に適した、CM的というよりはウェブ動画的としか呼びようのないものです。メインストリームというよりは、オルターナティブな雰囲気が漂います。

 まぁ、こうした流れをあえて図式的に整理すると、今回のタイトルにあるように「brandingからbuzzingへ」となります。バズィングといっても、金管楽器をマウスピースだけで演奏する練習法ではありません。ハチの羽音のようにブンブンと響きながら、時にはブザー音のように際立ちながら、あちらこちらで取りざたされ(故事成語的には「人口に膾炙」され)、ある情報やコンテンツが伝播し、時にアレンジされ、またそれが拡散されていく…。池に石を投げ込んだ、波紋の広がりみたいな話です。

「あれは何だ」というコミュニケーション

 そえから、ぜひ一度カレーメシ cmで検索をかけてみてください。日清食品カレーメシのCMの、旧作・新作のバリエーションが一通り見られると思います。「銀のいか八朗」と「金のいか八朗」に、大澄賢也…。そういえば、たこ八郎に東大生の血液を輸血するなんて番組企画があったよなぁ。まだまだこちらのわからない、小ネタがブチこまれているのでしょう。

 まぁ、このCMにもびっくりしましたが、制作者リストに佐藤可士和とあるのを見て、さらに驚かされました。TSUTAYAやユニクロなど、brandingの王道を行く人だと思っていたのに、こんな仕事もあるんだなぁ。

 完全であるよりも、欠損のあるもの、ツッコむ余地を残したものの方が、逆によく伝わる。練り上げられた表現よりも、その場その場、その時その時のライブ感がポイント。渾身のCM一本よりも、仕掛け全体の面白さで勝負する。ヒットの決め手は、受け手側の「巻き込まれ感」…。

 数十年後の未来から、ここ十数年を振り返ってみたならば、「それは時代の大きな潮目の時期だった」と語られる予感がします。