広告の周辺(10)京都でブランドと「ほっこり」について考える。

京都でのシンポジウム会場の写真を貼ろうとして失敗したため、長崎県立大での光景を…

もう一週間以上前になりますが、6月12日の晩に「「文化産業論」を問い直す 。――カルチュラル・スタディーズからクリエイティブ産業論まで――」というシンポジウムに、討論者として参加してきました。

報告者は、広告代理店に勤務経験アリの研究者でブランド論を展開中の大山真司さん(ロンドン大学)、デザイナーでありかつデザイン論が専門の宮田雅子さん(愛知淑徳大学)。討論者が、ミュージアム論などの村田麻里子さん(関西大学)と私。司会進行は、メディア史などの飯田豊さん(立命館大学)といった顔ぶれでした。

有料のキャンパスプラザ京都の会議室を借りたため、参加費500円というイベントなので、どれほどの参加者が…と思っていましたが、翌日京都でマス・コミュニケーション学会、大阪ではカルチュラル・タイフーン(カルチュラル・スタディーズ学会)という週末だったこともあり、けっこう盛会でした。

さて、ブランドとは。

ブランドと言えば、「もともと「焼印をつけること」を意味し、放牧している家畜に自らの所有物であることを示すために印をつけた云々」みたいな話にまずなります。そこから派生して、広告・マーケティング業界で「ブランディング」の語は、ちょっと違った意味で定着しているよう。

よく使われる図式ですが、マーケティングとは、送り手が受け手に“I’m a great lover.”と伝える行為であり、広告(アドバタイジング)となると、“I’m a great lover. I’m a great lover. I’m a great lover.”と繰り返す行為である。それに対して、広報(PR、Public Relations)は、第三者に“Trust me. He’s a great lover.”と言ってもらう(言わせる)ことであり、Brandingとは、受け手の側から“I understand you’re a great lover.”と言ってもらう(よう誘導する)ことである。

大山さんのお話は、そのBrandingの際のキーワードは、情動(affection)である。これまで広告(とその送り手)を批判する立場の学派では、広告などマスコミ産業は、人々にイデオロギー(虚偽意識)を植えつけ、操作しようとする「文化産業」であるとされてきたが、現在ではその役割を、人々の情動に訴えかける「クリエイティブ産業」が果たしている。といった主旨だったと私は受けとめました(ざっくりとし過ぎてて、大山さん、すいません)。

なるほどなぁ、と思いました。広告での連呼(による刷り込み)から、受け手の側での受容・共感へ。前回ふれたタイのものなど、泣かせるCM(ないしウェブ動画)ブームみたいなのは、情動(を求める社会的心性)という視点から説明できるのでは、などと私はコメントした記憶があります。15秒・30秒のテレビCMよりも、尺の制約のないウェブ動画の方が情感に訴えかけやすいわけです。そして、現在後者へと広告媒体の重心が移りつつあるのは、単にテクノロジーの進化やメディア環境の変化の産物だけではなく、(情報化ならぬ)情動化する社会ゆえに生じた現象なのでは。雑な話ですが。

「ほっこり」という情動

そう言えば、大学の2年生向けの演習科目で、「好きなCMを持ってきて、それについて語りなさい、調べてきたことを発表しなさい」みたいなことをやった時に、妻夫木聡|「smile. Glico」篇(グリコ CM 90秒)をとりあげた学生がいました。ピエロを演じる妻夫木君が、江崎グリコの商品の擬人化となっており、グリコがあれば皆が笑顔になるみたいな企業CM(ないしウェブ動画)です。CMの背後には、カーペンターズのClose to You。学生たちにCMの感想をたずねると、「ほっこりとしている」「幸せな気持ちになれる」「BGMにいやされる」などなど。「そう言えば、カーペンターズの妹さんって、拒食症などで早くに死んでるんですよねぇ」と口にすると、「なに余計なことを言い出すんだ、こいつは」みたいなリアクションです。

佐藤達郎さんが最近出された『「これからの広告」の教科書』には、「ソニーの液晶テレビBraviaのイギリスでのキャンペーン」が、「イイ時間を提供するのが、ブランド」の例として挙がっています(SONY BRAVIA Bouncy Balls: The BRAVIA Commercialなどで検索してみてください)。これなども、「一編の映像詩。見たことのない映像と、柔らかな音楽で、心がほっこりします」とのこと。

なるほどなぁ。あのバウンシーボール(スーパーボウル)のCMが、「長尺情動ムーヴィー」ブームの先駆的事例というわけか。

みたいな話をすると、大山さん曰く「ほっこりするといった価値観は、日本の消費者が成熟しているから。途上国の若者たちは、まだまだ従来型のクール(カッコいい)や、わかりやすいゴージャスを求めている。ロンドンのような移民都市にいると、そのあたりよくわかる」。これもまた、なるほどなぁ。