広告の周辺(8)大阪に未来はあるのか。

この5月に九州産業大学で行われた広告学会クリエーティブ・フォーラムの様子。

 グローバル、リージョナル、ナショナルと語り継いできたので、今回はローカルな広告の情況など。

 私はかつて以下のように書いたことがありました。

「注目すべきは、一九五〇年代から六〇年代初めにかけての、放送・広告業界における関西の存在の大きさであろう。初期テレビCMを支えた広告主には、薬品・食品・家電などの業種が多く、第5章「昭和30年代におけるファッションとテレビCM」にあるように繊維各社も積極的な広告展開をはかっていた。これらはいずれもが、戦前から関西で栄えていた業種である(難波功士『広告のクロノロジー』世界思想社、二〇一〇年)。本拠を東京に置くTCJにしても、多くの関西系企業のCMを制作しており、この時期在阪局発の番組が全国ネットされ、驚異的な視聴率をたたき出すことも稀ではなかった」(高野光平・難波功士編『テレビ・コマーシャルの考古学:昭和30年代のメディアと文化』世界思想社、二〇一〇年)

 前田製菓の「てなもんや三度笠」や「シャボン玉ホリデー」のスポンサーが牛乳石鹸共進社だった件は有名ですが、上記の本の中では、私は森光子の登場する1958年のCM「モナパクト(関西有機化学工業)」をとりあげています。これは、「ダイラケのびっくり捕物帖」(大阪テレビ、後に朝日放送)という番組内に挿入されたCMのようです。その後を継いだ「やりくりアパート」ほどには、あまりテレビ史において振り返られることの少ない中田ダイマル・ラケットのシチュエーション・コメディですが、大阪から全国ネットされ、「大変な人気番組」「争う敵がないとまで言われた」ヒット作だったとか。

 キー局・準キー局の序列(ネットワークともいう)に組み込まれる以前、関西の放送局は、メインストリームではないにせよ、独立独歩の存在感を放っていました。関西の企業も、当然のように関西を起点に広告活動を展開していました。

残照の中の関西CM

 しかし、まず繊維産業が失速します。1950~60年代、まだ各家庭にミシンがあり、布地が一般消費財としてあった時代には、テトロンだ、ビニロンだ、カシミロンだ、ボンネルだ、ベンベルグだ…と、CMには化学繊維の名称が乱舞してました。その後、繊維メーカーの多くは、B to Bをもっぱらとするようになり、ファッション関連のテレビCMは、既製服のブランド広告へと移行していきます。そして、薬品やトイレタリー関連なども、やはり首都圏へと重心が移っていきます(とくに、許認可の関係で製薬会社の東京シフトが進みます)。食品で考えても、もはや誰もサントリーや日清食品を関西の企業とは考えないでしょう(関西出自の企業だとは思っても)。そして、家電…。テレビCMを多用する業種が、通信・金融・流通などへと移行する中、関西の広告業界はなかなかつらいものがあります。関西の有力な広告制作者が、東京へと拠点を移す(ないしは異動を命じられる)例も目につきます。

 しかし、1950~60年代の勢いが、すぐに失われたわけではありません。1970~80年代は、家電を中心に関西の広告業界はそれなりに活況を呈していましたし、1990年代の不況期をむかえると、「低予算、高インパクト、(商品名の連呼など)売上に直結」がその特長とされる関西CMは、バブル期の大盤振る舞いへの反省の気運のもと、再評価されることもありました。

 その余韻は、まだ残っています。たとえば、赤城乳業 BLACK TV-CM で検索してみてください。しりあがり寿の描く不思議なキャラクターの、不思議な動きに目が釘付けになると思います。このチョコアイスのCMができた背景について、赤城乳業の方が、2014年5月号『CM INDEX』の中で、次のように語っておられます。              

「BLACKは関西で弱い商品で、社内だけでなくチェーンのバイヤーさんにも「西日本では売れない」という先入観があり採用に至っていなかったので、最初は関西地区のみの放映を予定していました。/ちょうどその頃、ガリガリ君のコーンポタージュ味の販売を再開し、各メディアに取り上げていただきました。そのタイミングでBLACKのリリースを「あのガリガリ君の会社の作ったチョコアイス」という形で発信した結果、ヤフーの映像トピックスで取り上げていただいたという流れです。そこから急激にホームページ内のユーチューブの再生回数が伸びだし、3月末には100万回を突破しました。ガリガリ君など多いものでも1万回くらいなので異例のことですし、タイミングも良かったと思います」

 このCMは、『コマーシャルフォト』「クリエイターが選ぶ2013CMベスト」の9位に入ってますし、2014年アドフェストのFilm lotus部門でブロンズ(銅賞)を獲得しています。日本国内でクリエイターたちが選ぶ、という話は理解しやすいのですが、海外でこのCMがどう受け取られて、なぜ高い評価を勝ち得ているのか???。

 で、このCMと関西との関係ですが、赤城乳業自体は埼玉県深谷市に本拠をおく企業です。名前の由来は、「会社を設立した際の社屋から赤城山がよく見えた」「裾野の広い赤城山のように広くお客様に愛されたい」からだとか。ちなみに乳業とあるのは、「もともとは中山道を通って軽井沢に行く途中にある氷屋だった」が、「将来的には牧場を持ち、牛乳を使った商品を作りたい」という創業社長の思いからとのこと。

 このCMのスタッフリストの、A&P(エージェンシー&プロダクション=広告代理店&制作会社)の欄には、「電通東日本+電通関西+アットアームズ」とあります。これは、けっこう異例なことだ思います。電通本体ではなく、ローカルのクライアントを担当する「電通東日本」――他に電通西日本・電通北海道・電通九州・電通沖縄が、「地域電通」として電通グループ内には存在――が窓口となるものの、制作スタッフは電通本体の関西支社(ややこしい言い方ですが)所属であり、関西の制作会社(とフリーランスのクリエイターたち)が名を連ねています。再度2014年5月号『CM INDEX』を引くと

「電通関西さんには、われわれからは最低限のことだけを伝えた後は何も言わないようにしていたので、自由度はかなり高かったと思います。ドルチェTimes、BLACKともにクリエイティブチームが本当によく考えてくれたと思いますし、今では絶大な信頼を置いています」

   

とあります。いや、ほんとに自由。同じ製作スタッフの手がけた、広瀬アリス CM ガツンとみかん 「言えなかった夏」「とどけこの思い」 としてあがっている動画などを見ると、それまでの信頼関係あってこそのBLACKなのかなとは思います。ところで広瀬姉は、なぜCMになるとムチャぶりされてしまうのか、広瀬アリス CM アイシティ 「夏をアイしてキャンペーン!」

 まぁそれはおいといて、おもしろいCMが作る人たちが関西にいるのなら、関東圏からでも発注はありうるのだということです。それだけの蓄積が、関西にはあるにはあるのですが…。BLACKを作った方による金鳥サンポールCM「さよならの文字」などに、その底力を感じられるのですが…。

クリエイティブ都市、福岡?

 リチャード・フロリダ『クリエイティブ資本論:新たな経済階級の台頭』(ダイヤモンド社、2008年)、同『クリエイティブ都市論:創造性は居心地のよい場所を求める』(同、2009年) といった本があります。今、日本でクリエイティブ都市の候補を考えていくと、関西人としては悲しむべきことですが(「関西」を冠した職場にいる人間にとってはつらいことですが)、初音ミクの札幌や妖怪ウォッチの福岡ということになりそうです。

 広告に限って言うと、衆目の一致するところは福岡(博多)でしょう。先日、九州産業大学で行われた日本広告学会クリエーティブ・フォーラム「クリエーティブ九州スタイル~~地方発のクリエーティブの可能性~~」というイベントを覗いてきました。

 最近の福岡の勢いを知るには、まず、【放送事故】生配信中に・・・いきなりBAN 雪道コワイが必見でしょう。また、草なぎ剛主演のシマホ CM 島忠 「家具」「企業広告」「BBQ」 の作者も福岡を拠点とされているとか。あと、個人的には、大分市の透明観光大使のCM群。これは頭いいです。タレントさんのスケジュールがおさえられなくても、タスキさえあれば、どんどんとバリエーションが増やせます。

 さて、上記のイベントを覗いてみての感想なのですが、これまで関西CMの特徴とされてきた「低予算(素人が登場するケースが多い) 」「高インパクト」「生活感(食品・日用品などのメーカーが多い)」 「しつこさ(タイプ数・バリエーション数が多い)」「笑い志向」は、何も関西に限った話ではないような気がしてきました。ローカルな低予算環境でものを作っていると、どうしてもこうなるのでは…、ということです。それに加えて、web動画への対応は、福岡の方が巧いし早いという印象を受けました(関西でのおすすめは、サンポールCMロングバージョン室外機の歌「いつも外から」(full ver.)ですが)。

 ローカルからの発信であろうが、それが低予算で作られていようが、おもしろければ世界中で評価されるのがウェブの世界です。いきなりBANや雪道コワイは、もうHall of Fame(殿堂)入りなんでしょう。

 考えてみれば、東京からの距離感で言えば、大阪も博多も等価です。福岡は何と言っても、空港が近い。西日本に拠点を置こうとした外資系の広告会社が、大阪ではなく福岡を選択したことが、九州のクリエイティブ爆発(?)の大きな要因だと思います。あと、街の近くにアート&テクノロジー関係の大学があるのは、圧倒的な強みでしょう(九州芸術工科大学→九州大学芸術工学部)。関西の場合、その多くは郊外型キャンパスとして散在しています。

 そう言えば、九州ローカルで展開・オンエアされながらも、国際的な評価を得ていたエステWAMのCMの作者も、外資系代理店の経験者だとか。2014年10月号『CM INDEX』から引用すると

「2003年頃から海外の賞を獲りだし、現地に行って、状況を知って驚きました。アジアの広告会社の勢力図は自分のイメージとはまったく違っていたのです。日本と韓国以外は、欧米のワールドワイドの広告会社グループが独占している状況でした。これは日本からも誰かが行って同じ土俵で戦った方がいいと思いました」

とのこと。その後のネット環境の急速な普及が、地方にいながらにしてワールドワイドな土俵に上れる可能性だけは生み出しました。あとは、結局クリエイティビティの勝負。ローカルをつきつめれば、東京というかナショナルを飛び超えて、グローバルに至る道がなくはない…。地方の希望は、そんなところでしょうか。