広告の周辺(7)ガラパゴス列島としての日本の広告賞

テレビ付ラジカセ。人々が、こうまでしてテレビを見ようとした時代も、ありました。

 ワールドワイドな広告賞、アジア環太平洋な広告賞とみてきたので、今回はナショナルな広告賞を。

 日本の広告賞の歴史は、けっこう長いです。現在の朝日広告賞・毎日デザイン賞・広告電通賞につながるような、広告の優秀作を顕彰する試みは、戦前から新聞社や広告会社の手でなされてきました。以前、そのあたりのことを「広告賞の政治学」という文章にまとめたことがあります(津金澤聰廣編『戦後日本のメディア・イベント1945-1960』世界思想社、2002年)。

現在日本で主要な広告賞といえば、テレビ・ラジオCMの世界では全日本シーエム放送連盟のACC賞が、コピーライターの世界では東京コピーライターズクラブのTCC賞が、デザインの世界では東京アートディレクターズクラブのADC賞が、それぞれ挙げられよう。この中でACCは、主要な広告主をはじめ、民間放送局・広告代理店・広告制作会社を網羅した団体であるが、TCCおよびADCは、広告制作者が個人の資格で参加している、それこそ「クラブ」組織であり、職能を同じくする者同士のギルド的な結合である。/しかし、この三賞が出揃ったのは、さほど遠い過去の話ではない。…1950年代以前にも数多くの広告制作者団体が登場し、それら団体によるコンクールが実施されており、とりわけ1930~50年代には新聞社や広告代理店による広告賞(展)が、イベントとして華々しくかつ大々的に実施されていた。

 現在では、その全容を把握しきれないほどに増大した日本の広告賞ですが、まぁその最大のもと言えば、上記のACC賞なのでしょう。今回は2014年のACC賞などを中心に、もろもろ考えていきたいと思います。

日本の広告賞の諸類型

 さて、広告賞。誰が、どういった基準で選考するのでしょう。それは広告賞によって千差万別で、その評価者の顔ぶれも評価基準のありようも、じつに多種多様です。それら広告賞を、「プロ(送り手・作り手)が選ぶ-視聴者(受け手)が選ぶ」を縦軸に、「一般的-特定的」を横軸にとり整理してみると、ACC賞は「プロ(送り手・作り手)が選ぶ&一般的」の象限に位置づけられます。他にも、「プロ(送り手・作り手)が選ぶ&特定的」の象限には、たとえば『コマーシャルフォト』誌の「クリエイターが選ぶCMベスト10」を、「視聴者(受け手)が選ぶ&一般的」の象限には『CM INDEX』誌の「Brand of the Year」を、「視聴者(受け手)が選ぶ&特定的」の象限には『CM NOW』誌の「読者が選ぶCM大賞」をおくことが可能でしょう。この世に無数にある広告賞のほとんどが、おおむねこの図式の中におさまります。

 ACC賞の歴史を振り返ってみて、一つの大きな画期があったとしたならば、それは1997年だと思います。マイケル・ジョーダンをフィーチャーしたNIKEのCMが、グランプリにあたる郵政大臣賞を獲得した年です(当時はまだ、「郵政省」が放送行政をとりしきってました)。NIKE、Michael Jordan、commercialといったワードを入れると、Tell me編・Failure編・Frozen moment編などが見つかると思いますが、これらが受賞対象作品でした。この中ではFrozen moment編が、日本語バージョンも見つかるはずです。日本語編とわざわざ言うのは、これらCMは、もともとはアメリカで作られ(ワイデン&ケネディ制作)、世界中でオンエアされたものだからです。それらをナイキジャパンが、ナレーションを日本語に吹き替え、テロップを入れて、日本でも流しました。そしてこの3本が、その年の日本のCMナンバーワンにあたるACC(全日本シーエム放送連盟)賞グランプリとなったわけです。

 1997年の作品をまとめた年鑑に曰く。「あァーこれはカンヌ国際広告映画祭の惨敗と同根ではないか?」「日本CM界へのひとつの警鐘である、ととるべき」「今回のフェスティバルはいろんな意味でACCの歴史にとって、画期的なことであったことは間違いない」。さらには、「日本的仕組みが、グローバル・スタンダードの中で一挙に崩壊しはじめてきたのである」「今や、日本丸は根元的な、思いきった手だてを加えないと沈んでしまうというのが多くの識者の意見である」…

 バブル崩壊後の元気のない日本の広告業界。その中で、メイド・インUSAのCMが郵政大臣賞。日本の広告制作能力の危機、クリエイティブのガラパゴス化が云々されたわけです。自信喪失と反省の時期。そしてその時、参照されたのが、ワイデン&ケネディのような、いわゆる「クリエイティブ・エージェンシー」のあり方です。総合広告代理店よりも、その時々に旬なトップ・クリエイターたちが集う小さなオフィス(広告業界用語的にはブティック)の方が、より先鋭的な広告を生み出し得るのではないか。というわけで、2000年代に入ると日本でも、ワイデン&ケネディの日本のブランチ(W+K Tokyo)だけではなく、多くの国産クリエイティブ・エージェンシーが、エッジの効いた表現を競い合うようになりました。

 そして2013年。ACCグランプリ(総務大臣賞)は、ナイキジャパンのナイキベースボール宣誓編(野茂英雄や上原浩治もカメオ出演!)。企画制作社には、Widen+Kennedy Tokyoと日本のプロダクションとがクレジットされており、その制作にかかわったステッフ一覧には、アルファベットが並んだ1997年とは異なり、漢字が並んでいます。

 で、その翌年。2014年のACC賞のテレビCM部門のトップ10は

1位サントリーホールディングス・pepsi NEX/桃太郎Episode.ZERO・Episode.1

2位全国都道府県及び20指定都市・LOTO7シリーズ

3位リクルートホールディングス・リクルートポイント/すべての人生が、すばらしい。

4位トヨタ自動車・ハリアー/H.H.編シリーズ

5位東海テレビ放送・自社キャンペーン/特別な日編他

6位エイベックス・dビデオ/出会い編他

7位本田技研工業/Sound of Honda, Ayrton Senna 1989

8位サントリーホールディングス・BOSS/宇宙人ジョーンズ・シリーズ

9位大和ハウス工業・企業広告/「ここで、一緒に」

10位トヨタ自動車/TOYOTOWNシリーズ

グランプリ(小栗旬の方の桃太郎)ないし金賞作品の担当広告会社・制作会社の欄には、20世紀末から今世紀にかけて日本に誕生したクリエイティブ・エージェンシーが名を連ねるようになりました。毛色の変わったところでは、東海テレビ「震災から3年 伝えつづける」。個人的に一番好きなのは、ドコモ dビデオ CM(石井杏奈・小松菜奈)。大学の講義中に「なぜ東海テレビがこうしたCMを作っているのか、わかる人、いますか」と問いかけても、反応がなくて、ちょっと悲しい思いをします。

『CM INDEX』『コマーシャルフォト』『CM NOW』

 さて、先ほどの図式にあげた、ACC賞以外の象限での、広告作品の顕彰の様子(極力、最新のもの)を紹介しておきます。

 『コマーシャルフォト』誌は、写真を始めとした映像(制作)業界・広告(制作)業界の専門誌です。その世界で名の通ったクリエイターたちが選んだ年間ベスト10(2015年3月号掲載)は、

1位サントリー・pepsi NEX/桃太郎Episode.ZERO

2位リクルートホールディングス・リクルートポイント/すべての人生が、すばらしい。

3位日清食品・日清カレーメシ/カレーメシ登場

4位日清食品・日清カップヌードル/SAMURAI FUJIYAMA CUPNOODLE(シリーズ)

5位ショップジャパン・ワンダーコア/倒れるだけで

6位日本郵便・ゆうパック/バカまじめ男

7位サントリー・サントリー天然水

8位大塚食品・マッチピンク/青春と数学

9位メルセデスベンツ日本/GKA GLA GO GLA!(スーパーマリオ)

10位フォーシーズ・ピザーラ/ピザブラック

選考の時期が違うので、異同はあって当然なのですが、あまりACC賞と変わらない印象をうけます。カレーメシなどは、プロ好みというか、「してやられた」感のある作品なのでしょうが。

 一方『CM INDEX』は、CMのオンエア状況をモニタリングし、かつ視聴者モニターからの評価を集計し、企業に提供するビジネスを展開しているリサーチ会社が出している月刊誌。当然、多量のCMがオンエアされ、視聴者の記憶に残り、評価を得続けているブランド(ないし企業)が、上位に名を連ねています。直近の年間ベスト10(2015年1月号掲載)は、

1位ソフトバンクモバイル/SoftBank

2位KDDI/au

3位トヨタ/TOYOTOWNキャンペーン

4位NTTドコモ/NTT docomo

5位日本コカコーラ/ジョージア

6位サントリー食品インターナショナル/ペプシネックス

7位ダイハツ/Tanto

8位全国都道府県及び20指定都市/ロト7

9位トライグループ/家庭教師のトライ

10位サントリー食品インターナショナル/ボス

 まぁ、巨大広告主(の定番ブランド)が並んでいます。

 異彩を放つのが『CM NOW』誌の「読者が選ぶ」ランキング(2015年1・2月号掲載)で

1位サントリー・ふんわり鏡月(石原さとみ)

2位リクルートマーケティングパートナーズ・ゼクシィ(広瀬すず)

3位ソフトバンクモバイル・白戸家シリーズ(広瀬すず)

4位全国都道府県及び20指定都市・ロト7

5位大塚食品・マッチ/マッチピンク(広瀬アリス・広瀬すず)

6位アサヒ飲料・WONDAモーニングショット(AKB48)

7位森永乳業・森永アロエヨーグルト(堀北真希)

8位リクルート・フロムエーナビ(有村架純)

9位ほっともっと・新ロースカツ丼(有村架純)

10位アサヒ飲料・カルピスウォーター(能年玲奈)

 女性(CM)アイドルのファンのための雑誌ならではのラインアップでしょう。その中でロト7は、大健闘です。

 と、ことほどさように、評価の軸が変われば、結果はまちまち。「広告とは何か」も揺れてますが、「よい広告とは何か」「それを誰が決めるのか」問題も、よりいっそう一筋縄ではいかなくなってきています。

ACC賞の今後

 さて、ACC賞に話を戻すと、2014年の「インタラクティブ部門」の新設は、やはり一つの画期といえるでしょう。Web動画に門戸を開いたTCC賞、ツィッター(での呟き)に門戸を開いたOCC(大阪コピーライターズクラブ)賞などにはやや遅れた感はありますが、放送(ブロードキャスティング)の連盟としては、「清水の舞台…」的な跳躍だったと思います。カンヌやスパイクス・アジアが、「アドバタイジング」の語を看板から外し、クリエイティビティの祭典としたことで、さらなる隆盛を呼び込んだことを考えると、ACC賞の飛躍のためには、ACC(全日本シーエム放送連盟)から「コマーシャル」「放送」の語を外す必要があるかもしれません。まぁ、民放各局を会員として擁する組織なだけに、まず、無理だとは思いますが。

 それから、ACCフェスティバルの場で称賛を浴びた作品でも、海外では評価されない問題。たとえば2014年のアドフェストでは、ナイキジャパン・ナイキベースボール宣誓編(THE PLEDGE,NIKE BASEBALL)は、ファイナリストとなるのみ。2015年で言えば、PEPSI NEX ZERO,MOMOTARO EPISODE.ZEROは、かろうじてブロンズ(銅賞)です。まぁ、日本の高校野球やら桃太郎のことがわからないと理解できない作品である以上、仕方ないとも思われます。犬のお父さんも目をむく柳葉敏郎も、同様でしょう。長くシリーズを続けて国内で文脈を共有されているCM、その人にまつわる背景知識(ドメスチックな)を視聴者が共有しているタレントたちが起用された広告。海外で評価してくれという方が、無理というものです。先ほどの1997年のACC賞受賞作を集めたCM年鑑には

小さな日本という箱庭で楽しく遊んでいて、ふと世界という大きな庭に出てみたら、自分たちだけの世界を作りすぎていた、というのが現状ではなかろうか。

とあります。もちろん、日本市場を対象とした商品・サービスなんだから、国内の評価さえとれればそれでいい、というのも一つの見識です。しかし、映像が国境をやすやすと超えて共有され、閲覧され、再生されるという現状。さらに言えば、「世界で何万回再生!」という評判(バズ)が、国内へと還流する、もしくはグローバルに環流する現在。

 ローカルとナショナルとリージョナルとグローバル(ないしインターナショナル)が入れ子状態となっていくなかで、広告への評価・表彰のあり方も大きな転換期を迎えています。