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【はしか流行の兆し】すべての人に注意を 医師の視点

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
空気を介して感染し、死亡の危険もある病気です(ペイレスイメージズ/アフロ)

今、日本国内である「危険な病気」が流行しかけています。その病気とは「はしか(麻しん)」

この記事ではその病気がなぜ流行する可能性があるのか、そして予防はどうすればいいのかを医師の視点からまとめました。

結論は、

・これから全国で「はしか」が流行する危険がある

・「はしか」は死亡したり、流産や早産になる危険がある病気

・昔ワクチンを打ったかどうか、「はしか」にかかったかどうか記憶があいまいな人はワクチン接種を

です。

始まりはたった一人、海外からの旅行客

2018年3月23日、沖縄県内を旅行中の台湾からの旅行客が「はしか」と診断されました。その後、この旅行客が沖縄のあちこちを移動した際に接触した人たちが感染しました。そしてその人たちからさらに広がり、あっという間に1ヵ月半で94名(2018/5/10まで)もの感染患者さんを出したのです(※1)。年齢は0歳の赤ちゃんから50歳代まで、幅広く感染しています。幸い今のところ死亡者は出ていませんが、今後感染者が増えると心配な状況です。

そしてついに、東京にもはしかの感染患者さんが発生したと報道されました。

東京都町田市は9日、市内在住の30歳代の女性が麻疹(はしか)に感染したと発表した。

出典:東京・町田の女性はしか、感染者100人余りに YOMIURI ONLINE 2018年05月11日

今後、この方から東京都内ではしかが広まる危険があります。

なぜこんなに感染が広まったのか?

なぜ、こんなにはしかの感染が広まったのでしょうか。理由として、2つ考えられます。

一つは、はしかという病気の感染力は極めてつよいからです。

はしかは空気感染というタイプの感染をします。これは、患者さんと同じ部屋にいたり、ちょっと会話をした程度でもうつる可能性がある、もっとも危険なタイプなのです。このタイプの病気で有名なものに、結核(けっかく)があります。

はしかの感染力は、インフルエンザと比べてこのように表現されることもあります。

感染力はきわめて強く、麻疹の免疫がない集団に1人の発症者がいたとすると、12~14人の人が感染するとされています(インフルエンザでは1~2人)。

出典:国立感染症研究所感染症情報センター ホームページ

そしてもう一つは、ゴールデンウィークで感染した人が全国を移動したからという点です。

記事執筆時点(2018/5/9)はまだそれほど広まっていませんが、これから数日で一気に全国に広がる可能性があるのです。

なぜなら、はしかという病気は潜伏期間があります。潜伏期間とは、「はしかにはかかっているが、熱や皮膚のぶつぶつなどの症状が出ていない期間」のことで、はしかでは約10日間です。

ですから、5月1日にはしかに感染していても、症状が出るのは10日後の5月11日になるのです。しかも最初は風邪と見分けがつかない熱や鼻水などの症状ですから、病院に行かないことのほうが多いかもしれません。

はしか(麻しん)はどんな病気?

そもそも、はしかってどんな病気でしょうか。

「どんな病気だっけ、聞いたことはあるけど…」そんな方が多いと思います。

どんな病気かというと、熱が出て、顔にぶつぶつが出たり口内炎のようなものができ、目が赤くなるなどして1週間〜10日くらいで治る病気です。もともと子供がかかることが多い病気でしたが、最近は20歳以上の成人が多くかかっています。

死亡率については、

「先進国であっても麻疹患者約1,000人に1人の割合で死亡する可能性がある。わが国においても2000年前後の流行では年間約20~30人が死亡していた」(国立感染症研究所ホームページより)

のです。

死亡しなくても、「1,000例に0.5~1例の割合で脳炎」「麻疹患者の約7%に中耳炎」(同ホームページより)などの危険がある病気です。

医者にとっても診断が難しい

さらに、この病気は医者にとっても診断をすることが難しい病気です。

理由は先ほど述べたように、最初の症状は「発熱」「皮膚のぶつぶつ」くらいですから、風邪と見分けがつかないのです。そして「はしかが流行している」という情報がまだ医者の耳に入る前には、どちらかというと今では珍しい病気であるはしかを初めから思い浮かべないのです。ですから、最初ははしかの診断がつかない可能性も十分にあります。

妊婦さん、および妊婦さんと接する可能性のある人も注意を

そしてはしかは、妊婦さんに感染すると重症になってしまったり、流産、早産を引き起こす可能性があります。

これについては、5月8日に日本産婦人科医会が緊急で声明を出しています。

妊娠中に麻疹(はしか)に罹患すると、一般に重症化することが知られており、流・死産、早産の頻度が上昇するとの報告があります。また、胎児奇形を起こすことはないとされていますが、胎児の発育異常、羊水量の異常、新生児麻疹(分娩時罹患)などをきたすおそれがあるとされています。

出典:日本産婦人科医会ホームページ

予防は?

はしかに一度かかってしまうと、特効薬がありません。さらに、免疫がないと感染者に接触した段階でほぼ確実に感染してしまうのがはしかの怖いところ。

ですから、免疫をつけるためのワクチンを打って予防(=予防接種)することが唯一の策といえます。特に、20歳代〜40歳代の方は1回しか受けていない方がほとんどです。これでは不十分なので、2回目を打つ必要があります。

そして、「ワクチンを打ったせいで何か悪いことが起こるかもしれないから、怖い」という方へ。

厚生労働省ホームページには「稀な副反応として、脳炎・脳症が100万~150万人に1人以下の頻度で報告されていますが、ワクチンとの因果関係が明らかでない場合も含まれています。」というデータがあります。

ですから、もちろん危険性はゼロではありませんが、はしかによって「1,000例に0.5~1例の割合で」発生する脳炎と比べると、低い危険性になります。

具体的には、

・はしか(麻疹;ましん)にかかったことがあるか確認を

・母子手帳ではしかの予防接種を2回受けているか確認を

・「予防接種が0〜1回だけ」「はしかにかかった記憶があいまい」「はしかにかかっていない」のどれかにあてはまる場合は、病院でワクチンの相談を

することが大切です。

ちなみに、すでに妊娠していると予防接種を受けることができません。ですから、特に妊婦さんと接触がある人は上記を確認しワクチン接種を検討して下さい。

本記事で、はしかの予防接種が不足することが懸念されます。すでに不足し始めているという声も聞いています。

ワクチン製造販売業者さんは、早めの対応をお願いします。

※1沖縄県における麻しん患者(検査診断例)発生状況(H30.5.10時点)

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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