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アマゾンでロキソニンが買えるようになりましたが、安全性はどうでしょうか

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
アマゾンで実際にロキソニンを購入する画面

4月中旬から、アマゾンでロキソニンが買えるようになりました。ロキソニンは頭痛や生理痛など広く使われる痛み止めのお薬ですが、副作用もあります。ネットでロキソニンを買うことの安全性について、医師の視点から解説します。

アマゾンでロキソニンが買えることに

4月、このニュースが流れてきました。

Amazonで「第1類医薬品」の購入が可能に 「ロキソニンS」「ガスター10」「リアップ」などを取り扱い

この記事によると、「4月18日現在、第1類医薬品のラインアップは頭痛薬「ロキソニンS」(第一三共ヘルスケア)、胃腸薬「ガスター10」(同)、育毛剤「リアップ」(大正製薬)など76品目。」だそうです。ロキソニンだけでなく、胃薬のガスターなども販売を始めたのですね。

さっそくアマゾンで買ってみました

アマゾンで「ロキソニン」と検索するといくつかのロキソニンがでてきます。一番スタンダードなロキソニンSを選択。

アマゾンでのロキソニン購入画像
アマゾンでのロキソニン購入画像

この画像の右下に、赤字でこうあります。

「この商品は第1類医薬品です。薬剤師による適正使用の確認後に発送されます。」

第1類・・・そう言われてもほとんどの人はピンとこないでしょうが、ごく簡単に言えば「いろいろある薬の中で、副作用が出る可能性があるため注意が必要な薬」という意味です。

まず、こんな画面で質問に答えます。

買おうとすると出てくる質問
買おうとすると出てくる質問

一つずつ答えます。買いたい理由を「その他」にすると「購入出来ません」と出たので、腰痛ということにして購入します。次の画面では、

細かい確認事項が出てくる
細かい確認事項が出てくる

ぱーっと読み、「お薬の説明を理解しました。薬剤師への質問もありません。」をクリックします。すると送付先住所や支払い方のページが出てきて、それらを選択すると購入が終わりました。

購入完了した
購入完了した

ここまで、1分程度でした。

とても便利

使ってみて感じたのは、とても便利だということ。薬局で、薬剤師さんが勤務している時間にのみ買うことが出来るロキソニンですから、アマゾンで買えるのはとても簡単だし、楽です。

使う目的だってそれほど考えなくてもいいし、詳細な説明文は読み飛ばしても買えます。病院や薬局の窓口で長く説明されることを考えると、移動時間も含めたらかなりの時間短縮ですね。

実は去年からネットで買えました

今回は通販大手のアマゾンがロキソニンを扱うようになったためニュースに取り上げられたのですが、実は他の薬局のネットショップや楽天などでもすでに販売をしています。もともとは、この第1類という種類の薬は安全性に問題があったためネット販売を禁じていたのですが、平成 25年12月の法律改正があり、平成26年6月12日からネット販売が可能になったのです。

安全なのか?

さて安全性について、筆者は頻繁にロキソニン(及びその後発品)を病院で処方している立場から述べます。筆者は消化器外科医で、だいたい週に一度以上は処方しているでしょう。

結論を先に言えば、「買う人がロキソニンについて良く知っておかなければ危険」だと考えます。

医者が患者さんにロキソニンを処方することはとても多いのです。理由は、いろんな痛みに有効だからです。頭痛にも生理痛にも、怪我をして痛む時にも、手術のあとの傷の痛みにも効きます。そして効き目が実感できるからです。処方数ランキングでも毎年上位にロキソニンは必ず入ってきます。そして安価であるのも処方しやすい理由の一つです。ロキソニンの薬価は1錠約16円、後発品のロキソプロフェンではだいたい5〜8円です。

しかし、医師がロキソニンを処方するときには、実はかなり色んなことを気にして処方しています。

ごく一部を挙げますと、たとえば腎臓の機能がある程度悪い人には、さらに悪化してしまう危険性があるので処方しません。腎臓の機能をどの辺に設定するかは医師によって様々です(私はeGFRが40以下であったら使いません)。

他にも、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を昔やったことがある患者さんにはセレコックスなど別の薬にします。胃潰瘍の原因となるからです。ロキソニンの副作用で胃潰瘍になってしまうのを防ぐため、必ず胃薬も一緒に処方する医師は多いです。妊婦さん、授乳中の患者さんにも原則処方しません。痩せた高齢者にも避けていますし、発作を良く起こしている喘息の患者さんにもやめています。高熱でインフルエンザが疑われる時にも出さないようにしています。ステロイドを使っている人や、ボルタレンを飲んでいる人にもやめています。

キリがないので止めますが、こんな風に、医師がロキソニンを処方する時にはかなり色々なことに気をつけているのです。それでも、それほど少なくない頻度でロキソニンによると思われる胃潰瘍患者さんや腎不全患者さんは発生しています。

ではどうすれば良いか

現段階では、筆者はやはり「調子が悪い時は、自己判断ではなくまず一度は病院を受診する」ことをお薦めします。ただの風邪や怪我などであれば、ネットや市販でロキソニンを購入し飲んで良くなることが多いでしょう。確率で言ったら95%以上はそれで問題ないのかもしれません。

しかし、熱が出たり体のどこかが痛んで、薬を飲みたくなるような状況であれば、念のため一度はプロに診てもらった方がいいと思います。ネットでロキソニンを買って飲むのは、あくまで「医師からの処方薬が切れてしまったが、連休や多忙で受診出来ない」などという時に補助的に飲む程度にすると良いでしょう。

ロキソニンはあくまで「熱や痛みをおさえる」だけのもの。問題は「なぜ熱や痛みが出ているか」ですから、そちらにアプローチしなければ問題は解決しませんし、診断や治療が遅くなると重症になってしまう危険性もあります。

また、女性で生理痛にお悩みの方。時折、ロキソニンを何ヶ所もの薬局で購入して1日に5錠も6錠も飲んでいる人がいますが、副作用を考えるとちょっと危ないと思います。痛みでお辛いのは良くわかりますが、その場合は一度産婦人科を受診しましょう。最近は生理が重い場合を月経困難症といい、産婦人科で痛み止め以外にも色々な治療がされています。

自己責任の時代に

この第1類医薬品という、注意して扱わなければならない薬のネット販売が解禁されたことに、筆者は一つの時代の潮流を感じます。それは、現代は自己責任の時代であるということです。

薬を手に入れるのは自由、しかし何かあった時には責任は取らない。医師が処方をする時には、処方した医師が責任を負います。しかしネット販売で手に入れて、重大な副作用が起きた場合、誰が責任を取るのでしょう。これはなにも薬のネット販売のみならず、最近では病院の選び方や治療法の選択など、全てが自己責任になってきているのです。もちろん医療以外でも自己責任時代は加速しています。

あらゆる分野で専門家と非専門家の間に情報の非対称性が存在する以上、この傾向が良いとは筆者には到底思えません。が、しかしそうなってきているという事実がある以上は、自分で自分の身を守らねばならないのでしょう。

おわりに

アマゾンでロキソニンが販売され始めたことをきっかけに、その安全性について書きました。なお、最近はロキソニンと同じ効果を持つとされるロキソプロフェンという薬が出ています。本記事ではロキソニンをロキソプロフェンと置き換えても結構で、全く同じ議論が成り立ちます。

※筆者と製薬会社に利害関係はありません。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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