Yahoo!ニュース

「がん」とはなにか

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
PET-CTで撮影された肝臓内のがん(写真:アフロ)

「がん」。この単語を聞きたくもないという人がいるかもしれません。2015年、有名人のがんのニュースが相次ぎました。しかし、現代の人間をここまで苦しめるこの病気は、実は意外と知られていないことが多いのです。

そこで、「がん」についてのかなり基本的な内容について、Q&Aにしてお話しましょう。

Q. 「がん」は何で出来ているの?

がんはがん細胞からできた塊のことです。たまに、血中などに泳ぐ細胞のがんもありますが、多くは塊を作っています。

Q. 「がん細胞」はなぜできるの?みんな持ってるの?

がん細胞は生まれたときには基本的には持っていません。

そもそも「細胞」というものは、常に生まれ続け、ダメになり続けています。髪の毛や爪で考えるとわかりやすいでしょう。これらは日に日に伸び、先っぽのほうからダメになっていきますよね。皮膚も同じで、皮膚の深いところから新しい細胞が生まれ、表面にだんだんと上がってきます。すると、一番表面にいた皮膚の細胞は自ら死んで「垢」になります。女性はお化粧で「ターンオーバー」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、それと同じです。

そんな風にして、人間の体というのはたくさんの細胞が毎日リニューアルし続け、死に続けることで常に新しい状態を保っているのです。そしてそのペースはとても精密に調整されています。

ところでどんな風にして細胞は生まれるのでしょうか?細胞は結婚も妊娠もできません。細胞は「分裂」という方法を使って増えています。「分裂」をするときには、DNAという細胞の「設計図」のようなものが活躍します。この「設計図」が丸々コピーされて新しい細胞が出来るのです。ところが、時々このコピーの段階でミスが起こります。コピーは一文字ひともじ書き写す手作業のようにしてやっているからです。このミスが起きると、間違った細胞ができてしまいます。

間違った細胞は、自分勝手なペースで分裂したりしてしまいます。その他の細胞はすべて、まわりの空気を読みながら分裂したり自ら死んだりしているんですが、間違った細胞は分裂も自ら死ぬペースもめちゃくちゃ。これはがんが持っている性質で、「無秩序な増殖」なんて言います。勝手に増えまくった結果、「腫瘍」という人間の目に見えるくらいの大きい塊になってしまいます。

Q. その細胞のコピーのときのミスって、誰にでも起こるの?

はい。誰にでも、いつでも起きることがあります。原因がわかっているものもありますが、今の医学では原因不明のものがほとんどです。

わかっているものとは、たとえばヒトパピローマウイルスというウイルスと子宮頸がん、放射線と甲状腺がんなどです。

Q. 「がん」が出来ると、なぜダメなの?

これはとてもいい質問です。

なぜ「がん」が出来るといけないのか。具体的なお話をしましょう。

「胃がん」を例に考えましょう。まず「胃」について説明します。「胃」は、食べ物の通り道であるとともに、食べ物からエネルギーを取り出す消化センターでもあります。握りこぶしが丸々2個は入るくらいの袋の形をしています。ここに「がん」つまりデキモノができてしまう。

そうすると、まず狭いところに出来てしまうと食べ物の通り道をふさいでしまって、ゲーゲー吐いてしまいます。

次に「胃」は消化センターですから、消化が悪くなることがあります。

それ以外にも、「胃」という袋を食い破るわけですから血が出たり、痛くなったりする。ひどいと袋に穴を開けてしまうことだってあります。

こんな風にして、「がん」は勝手に増殖した結果、出来た場所を破壊してダメにしてしまう。その臓器の機能を低下させてしまうとともに、「痛み」「出血」などの症状を出してしまいます。

Q. では、「がん」になるとなんで死んでしまうの?

先ほどお話した「胃がん」の例で考えると、胃だけに出来ていれば胃を手術で切り取ってやれば治るかもしれません。早期であればそれで治ることもあります。しかし、「がん」のもう一つの性質である「ほかの場所に住み着く」(=転移する)によりほかの臓器、たとえば肺や脳みそなんかにがんが住み着いているとどうでしょう。肺や脳みそでは切り取るのに限界があり、切り取れなかったがんは「無秩序な増殖」をしますから肺では息がしづらくなり、脳ではぼんやりしたり麻痺が出たりします。さらに大きくなると、肺や脳みそをダメにしてしまいます。

人間にとって肺や脳みそは大切な臓器。これらがちゃんと働かなければ生きてはいけず、人間という個体の死になります。

クルマで考えると、タイヤやバンパーは壊れても交換可能ですが、エンジンが火を吹いたらそのクルマは廃車になってしまうということです。

Q. 「がん」って、治るの?

すごく簡単に言えば、がんの種類によって全然違います。

が、多くの種類のがんでは、「早めに見つかって」「手術などで取れれば」治ることが多いです。また、個人差もかなり大きく、同じがんの同じくらいの進行ぐあいのものでも、ある人は完全に治ったり、別の人はそのせいで命を落としたりします。

※内容や表現、比喩について、わかりやすさを重視したため完全に精確と言えない表現もあえて使っています。

各論の細かい情報よりも、「がん」の全体像をつかむためにこの記事は書かれています。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

中山祐次郎の最近の記事