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アイスバケツチャレンジ後のALS 〜ALSとは一体何なのか〜 第1回

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家

ALS。エーエルエス。

昨年、ビル・ゲイツなど著名人が行った「アイスバケツチャレンジ」によって、その名前は広くひろまった。

実際のところ、どんな病気か知らない方も多いと思う。

医師という立場から、わかりやすく説明したい。

ALSはどんな病気か

ALS。

簡単に言えば、「ある日突然ものをよく落とすようになったり転びやすくなることに気づき、病院に2週間くらい入院して精密検査をされてALSと診断され、それから数年で寝たきりになり、食べられなくなり、自分で息をすることもできなくなり、5年くらいで亡くなる」病気だ。

ALS患者さんの90%は「弧発性(こはつせい)」。これは、「いつどこの誰がなってもおかしくない」という意味だ。首相でも大統領でも、アイドルでも、記事を書いている私でも、これを読んでいるあなたでも、だ。

日本語の病名は、「筋萎縮性側索硬化症」という。「側索(そくさく)」とは、脳からおしりまでつながっている、ごぼうくらいの太さの神経(=脊髄、せきずい)の中の、一部分のこと。脊椎(せきつい、背骨のこと)に包まれている。

すごく簡単に言うと、この「側索(そくさく)」という神経の一部分が突然、駄目になってしまうのがこのALSという病気だ。「側索(そくさく)」は、脳から手足へ運動せよという命令(電気が流れることで伝わる)を伝える電気コードのようなもの。だから、これが駄目になってしまうということは、手足などが動かせなくなるということを意味する。

さらにこのALSという病気は、大脳皮質の運動野と言われる部分、「運動」の指令センターそのものも駄目にしてしまう。

しかも、「駄目になる」理由はまだわかっていない。原因不明だ。

筆者は大腸がんの手術を専門とする外科医だが、医学生時代からこの「ALS」には強い興味を持っていた。

徐々に手足が動かなくなる。

そして寝たきりになり、手足が細くなる。

食べられなくなり、お腹に穴をあける(胃瘻、いろう)。

笑顔が作れなくなる。表情がなくなる。

そして、自力で呼吸出来なくなる。何度か痰のつまりによる呼吸困難で死にそうな苦しい思いをする。

そこで、医師から伝えられるのだ。

「これ以上生きますか」

Yes,を選んだ場合、「気管切開術(きかんせっかいじゅつ)」という手術を受ける。

筆者もしばしば執刀する手術だ。のどに3cmほどの皮膚切開をおいて気管に穴をあけチューブを入れる手術である。局所麻酔で、20分ほどで終わる手術だ。

それからは人工呼吸器のお世話になる。寝ているときも起きているときも、24時間365日人工呼吸器の「シューッ、、シューッ、」という音とともに生きる。

指一本しか動かせず、それ専用のコンピューターで文字によるコミニュケーションをする。

そして指も動かなくなり、眼のうごきだけで文字を選び会話する。

この発病してからの経過中、多くの場合、「本人の意識は明確に保たれる」

そんなことから私は、私の学んだ1000種類を超える病気の中で、「この病気がもっとも恐ろしい病気なのではないか」と考えている。

前代未聞のチームがCMを作った

ある人がいる。藤田ヒロさん、35歳の男性。マッキャンエリクソンという広告代理店の社員だ。30歳でALSになった。

彼が主催する「END ALS」というプロジェクトは、来る6/21の世界ALSデーにあわせてクラウドファンディングを使いALS啓蒙のCMを作った。それが、人工呼吸器の音とともに始まるこの動画だ。

「ALSは治せる病気だと証明したい。」

力強いこのコピーを書いた人、阿部広太郎さん(29)にお会いしてお話を伺った。電通のコピーライター、がっしりとした体格の朴訥とした方だ。

なぜこのプロジェクトに参加することになったのか。

「去年、私に『アイスバケツチャレンジ』が回ってきたんです。氷水をかぶるか、100ドルを寄付するかでしたが、実は私、そのどちらもできませんでした」

「私はその頃、ALSという病気について何も知らなかったし、どのくらい患者さんがいるかも知らなかった。そんな無知な状態でただお祭り騒ぎに乗じてやることには、抵抗がありました。」

確かにALSという病気や、患者さんのことを知らずに「流行っているし、貢献だから」とやった人は少なくなかったはずだ。

阿部さんはこう続ける。

「寄付もせず氷水もかぶらなかった代わりに、私は本を買って読みました」

それが前述の藤田ヒロ氏の「99%ありがとう ALSにも奪えないもの (ポプラ社 2013/11/21) 」

だ。

「これを読み、ALSについて知り『何かできないか』と思っていたところにNHKの知人が声をかけてくれ、今回のCM制作プロジェクト参加につながったのです。」

「ONE TRY ONE LIFE」と名付けられたこのプロジェクトは、「電通」「博報堂」「マッキャンエリクソン」という広告業界で激しくしのぎを削る競合会社のメンバーが一同に会している。全員がボランティアでの参加だが、それにしてもこんなことは業界でも前代未聞だ。

このプロジェクトでは、最近話題のクラウドファンディングで資金を集めた。目標額の100万円を大きく超える400万円近くが集まった。

この寄付をしてくれた人への感謝を込めて、また「ONE TRY ONE LIFE」のイベントとして、明日6/20(土)、13:30から銀座「砂漠の薔薇」でイベントを行う。筆者も参加し、レポートする。

アイスバケツチャレンジで、「ALS」の名は広まった。

日本にいる約1万人の患者さんの想いをのせて、藤田ヒロ氏とその仲間はこのCMを作った。

治したい。

ただ、その一心で。

ALSは藤田ヒロ氏の問題ではない。私の問題でもない。

これを読んでいるあなた自身の問題なのである。

(つづく)

(参考)

一般社団法人 日本ALS協会ホームページ http://www.alsjapan.org/jp/index.html

筋萎縮性側索硬化症(ALS)(東京都神経科学総合研究所 小柳清光) http://www.jsnp.jp/cerebral_11.htm

END ALS ホームページ http://end-als.com/index.html

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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