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森保監督は続投? 4-3-3機能不全の原因と協会が再検証する必要性 【ベトナム戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

コンセプトが異なる2つの4-3-3

 シドニーで7大会連続となるW杯出場を決めた日本代表が凱旋し、ベトナムをホームに迎えてアジア最終予選を戦ったが、残念ながら、結果は1-1のドローで終了した。スタジアムのお祝いムードが一気にトーンダウンしたことは言うまでもない。

 吉田と山根以外、スタメン9人を入れ替えたことがその要因のひとつになるが、しかし、仮にこの試合をレギュラーメンバーで臨んでいたとしても、日本が大勝するようなことはなかっただろう。

 布陣を4-3-3に変更してからの日本は、守備は安定化した一方で、得点力、攻撃バリエーションの部分は明らかに低下した。しかも、ベトナムとの過去2回の対戦は、いずれも1-0というロースコアでの勝利。そのどちらも、日本は今回の試合の後半に採用した4-2-3-1で戦っていた。

 そういう意味では、1-1という結果自体にそれほどの驚きはないだろう。

 その一方で、予選突破を決めたいま、着目すべきは結果ではなく、内容になる。とりわけこの試合の前半は、あれだけ機能していたはずの4-3-3が、スタメンの大幅変更によって機能不全に陥った。

 それが意味するところは何か。

 森保監督は、第4節以降、中盤にボランチタイプ3人を配置する4-3-3を採用してきた。しかし今回の試合でチョイスしたスタメンを見ると、中盤3枚にボランチを本職とするタイプ、いわゆる守備的MFがひとりもいなかった。

 数字的には同じ4-3-3。しかしながら、前者と後者では、明らかにサッカーのコンセプトは異なる。遠藤をアンカーもしくはワンボランチと呼ぶならば、ベトナム戦で同じ位置に入った柴崎は、スペイン風にピボーテと呼ぶべきか。

 そういう意味で、ベトナム戦の4-3-3は、メンバー的な視点で言えば、これまでの守備的4-3-3ではなく、川崎フロンターレ型の攻撃的4-3-3に近かった。

 しかし森保監督は、スタメン11人を数字的に4-3-3にあてはめるにとどまり、その布陣の運用方法を変えないまま、もしくはその違いを伝えないまま、選手をピッチに送り出した可能性が高い。

 そこは選手に任せたという言い方もできるかもしれないが、それが、この試合の4-3-3が機能しなかった最大の要因だと思われる。

 それを裏付けるかのように、この試合で代表デビューした左インサイドハーフの旗手と、右インサイドハーフで先発した原口のプレーは、ほとんど呼応していなかった。肝となる柴崎も、どっちつかずのプレーに終始した。

 現段階の中盤のレギュラーは、遠藤、守田、田中の3人だ。しかし今回の最終予選で招集されたメンバーの中で、この3人以外に守備的MF、いわゆるボランチを本職とする選手はひとりもいない。板倉も中山もDFだ。

 守田を欠いた第6節のオマーン戦では、柴崎がインサイドハーフでプレーしたが、前半だけでベンチに下がっている。原口も、これまでは終盤の途中出場に限られていた。

 結局、綱渡りで結果を残した今回の最終予選は、メンバー編成の部分でも綱渡りだった。予選突破という事実とは別に、いまからこの問題とどう向き合うかを考えておく必要はあるだろう。選手を発掘するのか、布陣のバリエーションを増やすことで対処するのか。

 いずれにしても、様々な問題を露呈した今回の最終予選について、日本サッカー協会はしっかりと再検証する必要がある。それは、チームをバックアップする組織として、最低限やらなければいけない仕事だ。

 なぜこれだけの苦戦を強いられたのか。なぜ布陣とスタメンを変更しなければならなかったのか。なぜそれによって成績が浮上し、予選突破を果たせたのか。なぜスタメンを大幅に入れ替えた今回のベトナム戦は戦術が機能しなかったのか。なぜ布陣を4-2-3-1に変更した後半も、吉田の1ゴールしか奪えなかったのか。

 予選を突破したのだから、森保監督が本大会で指揮を執るのが当然だと結論づけることは、誰にでもできる安易な決定プロセスだ。

 少なくとも、崖っぷちで臨んだ第4節オーストラリア戦の前に指揮官の是非を協議した協会の技術委員会は、プロ集団の組織として、今回の予選やこれまでの3年間を再検証したうえで、改めて森保監督の続投理由を明確にすべきだろう。

 それなくして、本当の意味でW杯ベスト8以上を目指す体制が整うとは思えない。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】川島永嗣=5.5点

昨年6月のキルギス戦以来のスタメン。試合序盤はビルドアップ時に不安定さを見せ、20分にはCKから失点。GKにとっては難しい処理だったが、コーチングを含めて反省点はある。

【右SB】山根視来=6.0点

前半は周囲との連係不足から特長を出せず、守備で安定感を欠いた場面もあったが、尻上がりに調子を上げた。後半は持ち味の縦パスやクロス供給など効果的なプレーが増えた。

【右CB】吉田麻也=6.5点

序盤はフレッシュなメンバーを統率し切れず、失点にも関与したが、後半は自身のインターセプトを起点に同点ゴールを決めるなど本領発揮。キャプテンとしての役割も果たした。

【左CB】谷口彰悟=6.0点

守備機会は限られていたが、危なげないプレーを見せた。後半は持ち味でもあるパス供給を含め、攻撃面でも貢献。今回のアジア最終予選を通してミスが少なく、安定感を示した。

【左SB】中山雄太=6.0点

クロス精度は課題として残ったが、三笘との良好な縦関係を披露。攻撃面で重要な役割を果たしていた。前半は守備で危ないシーンもあったが、全体的には上々のパフォーマンス。

【アンカー】柴崎岳(61分途中交代)=5.0点

初めてアンカーでプレー。慣れない仕事を任せられ、イージーミスやボールロストなど守備面において多くの課題を残した。得意のパス供給では良さも示したが、61分に途中交代。

【右インサイドハーフ】原口元気(61分途中交代)=5.0点

4-3-3になってから先発したのは初めて。どこでボールを受けるのかがはっきりせず、周囲との連係不足も露呈。後半はダブルボランチでプレーしたが、特長を出せずに終わった。

【左インサイドハーフ】旗手怜央(HT途中交代)=5.5点

代表デビュー戦でスタメン出場。攻撃面ではボールの受け手となるポジションをとってチャンスに絡んだ。逆に、守備面での役割が曖昧だったことで中盤を安定化できなかった。

【右ウイング】久保建英(61分途中交代)=5.5点

第2節中国戦以来のスタメン出場。6分のシュートミスなど序盤はプレーに落ち着きを欠き、ボールロストも目立った。トップ下に移った後半は徐々に持ち味を発揮したが、途中交代。

【左ウイング】三笘薫=5.5点

チームが機能していなかった序盤は個人のドリブル突破でチャンスを作った。後半はドリブルを控えめに、周囲と連係しながらチャンスに絡んだが、決定的な仕事はできなかった。

【CF】上田綺世=5.5点

前半は相手の2ラインの陰に隠れてしまい、ボールをもらうことができなかったが、布陣変更後の後半は前線で起点となるプレーができた。シュート5本を記録するも得点できず。

【MF】伊東純也(HT途中出場)=5.5点

旗手に代わって後半開始から4-2-3-1の右ウイングでプレー。自慢のスピードを生かして右サイドを何度も突破し、クロスも供給して攻撃を活性化させたが、結果は出せず。

【MF】田中碧(61分途中出場)=6.0点

柴崎に代わって後半途中からダブルボランチの一角でプレー。前線に顔を出してチャンスを作り、70分にはネットを揺らすもVAR判定で取り消された。守備でも綻びはなかった。

【MF】守田英正(61分途中出場)=6.0点

原口に代わって後半途中からダブルボランチの一角でプレー。気の利いたポジショニングで攻撃を活性化させ、クロス供給も含めてチャンスに絡んだ。田中との連係は阿吽の呼吸。

【MF】南野拓実(61分途中出場)=5.5点

久保に代わって後半途中から1トップ下でプレー。田中がネットを揺らした場面では手にボールが当たってしまい幻の得点に。シュートも1本しか打てず、期待には応えられず。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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