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原因は一目瞭然! 2次予選でダントツの得点力を誇った日本の攻撃に起こっている変化とは?【中国戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

総得点で日本は3位に後退する

 W杯アジア最終予選第7節で、ホームに中国を迎えた日本は一方的な内容で危なげなく勝利した。

 同日に行なわれたほかの試合では、グループB首位のサウジアラビアと3位のオーストラリアがともに勝利したため、2位の日本を含めた上位3チームすべてが勝ち点3ポイントを獲得。「3強3弱」の構図がはっきりした。

 7試合を終えた段階で、首位サウジアラビア(勝ち点19)、2位日本(勝ち点15)、3位オーストラリア(勝ち点14)。しかしそれぞれの総得点と総失点を見てみると、3チームのランキングは入れ替わる。

 失点数は、サウジアラビアと日本が「3」で、オーストラリアが「4」と、ほぼ同じ。しかし得点数では、オーストラリアが「13」、サウジアラビアが「10」、日本が「7」と、はっきりとした差が浮かび上がる。単純に数字だけで言えば、最も得点力が高いチームがオーストラリアで、最も得点力が不足しているチームが日本になる。

 レギュレーション上、グループの上位2チームは本大会出場権を獲得できるが、3位チームは2度のプレーオフで連勝しなければ、カタール行きの切符を手にできない。2位と3位には天国と地獄ほどの格差があるため、日本としては3位転落を回避する必要がある。

 もちろん、勝ち点で上回れば得失点差は関係ないが、7節を終えた段階で3位オーストラリアに「得失点差5」と「総得点6」の差をつけられている現状は、決して無視できない数字と言えるだろう。

 振り返れば、日本がアジア2次予選で記録した総得点は8試合で「46」点だった。対戦相手の違いはあるにせよ、これは2番目に多かったイランの「34」をはるかにしのぐ数字で、日本はアジア2次予選ではダントツの得点力を誇っていた(ちなみに、サウジアラビアは「22」、オーストラリアは「28」)。

 しかし今回の中国戦でも、日本は得点力不足を露呈した。前半は「71%対29%」というなかなかお目にかかれない圧倒的ボールポゼッション率を叩き出し、1試合トータルでも「61.4%対38.6%」と一方的にボールを握っていたにもかかわらず、日本の得点数はPKによる得点を含めてわずか2点。そもそも、決定機自体が少なかった。

 なぜ日本の得点力はここまで低下してしまったのか。

中国の稚拙な守備を前に攻撃が停滞

 今回の中国戦で森保監督がセレクトしたスタメンは、GKに権田修一、最終ラインは右から酒井宏樹、板倉滉、谷口彰悟、長友佑都の4人。中盤はアンカーにキャプテンマークを巻いた遠藤航、右に田中碧、左に守田英正、前線は右に伊東純也、左に南野拓実、1トップに大迫勇也という面々。

 負傷欠場のCBコンビ以外はいつものメンバーが名を連ねた格好だが、板倉滉と谷口彰悟はこれが6キャップ目。アジア最終予選では初出場だった。

 対する中国は、リー・ティエ監督に代わってこの試合から指揮を執るリー・シャオペン新監督が事前に10日間の合宿を張り、入念な準備をして日本戦に挑んだ。布陣も、前任者が指揮した前回対戦では5バックだったが、今回は4-2-3-1。エウケソンとアロイージオが来日できず、帰化ブラジル人選手はアランのみがベンチ入りした。

 まず、試合を振り返る前提として、この日の日本が終始優位に試合を進められた理由のひとつに、中国にこれといった具体的な対策が見られなかったことが挙げられる。

 日本の4―3-3に対して、中国のリー・シャオペン新監督が採用した新布陣の4-2-3-1は、ダブルボランチで田中碧と守田英正を見て、トップ下が遠藤航を見るという点で、ガッチリ噛み合っている。

 ところが、相手の様子をうかがいながら田中と守田が流動的にポジションを変え始めると、中国のダブルボランチは誰が誰をマークするのかが曖昧になり、結局、中途半端なゾーンディフェンスになってしまった。

 こうなると中盤でボールを奪えず、低い位置に下がった最終ラインで何とかクリアするのが精一杯。これが、試合序盤から日本のコーナーキックが増え、ボール保持率が71%に上昇した最大の要因になった。

 だからといって、日本の攻撃が活性化していたわけでもなかった。

 実際、前半に記録したクロスボールは6本で、味方に合わせられたのはゼロ。左右の内訳は、伊東が3本を供給した右からのクロスが4本で、左は2本のみ(南野と大迫が1本ずつ)。両サイドバック(SB)の酒井と長友は1本もクロスを供給することなく、ハーフタイムを迎えている。

 サイド攻撃が停滞したうえ、中央攻撃も不発だった。前半に敵陣で記録した縦パスは7本あったが、そのうち受け手がミドルサードにいた縦パスが3本。特に1トップの大迫がアタッキングサードで収めることができたシーンは1回のみだった。

 的が絞られている分、相手CB(20番)の厳しいマークに苦しみ、4-3-3に変更してから顕著になっている大迫のポストプレー減少傾向は、今回も継続された格好だ。

 前半唯一の効果的縦パスは、38分に田中が中央の守田に入れた斜めのくさびを、守田がヒールでフリックし、受けた南野が一度切り返してからシュートを放ったシーン。マーカーにブロックされて得点には至らなかったが、ゴールには接近できた。

 結局、前半はシュート数でも9本対0本と大きくリードした日本だったが、決定機と言えたのは、20分のCKでサインプレーから南野がフリーでシュートしたシーンのみ。前半ラスト15分は、敵陣でボールを保持しながら攻撃のテンポを上げられない状態が続いた。

日本の攻撃から連動性は消滅した

 前節オマーン戦では、停滞する攻撃を活性化させるべく、後半開始から三笘薫を左ウイングに起用し、布陣を4-2-3-1に変更。三笘のドリブルの仕掛けが打開策となり、終盤の伊東の決勝点につながった。

 組織的攻撃が行き詰っている時の特効薬は、個の打開力だ。しかし三笘が負傷欠場している今回、その手は使えない。そこで森保一監督が打った手は、後半早々の58分、大迫に代えて予選初出場の前田大然、左SB長友に代えて中山雄太という2枚代えだった。

 しかし、中国の守備ラインが低く、前線にスペースがない状況では、前田のスピードを生かした攻撃は繰り出しにくい。その結果、前田の起用効果は前線のチェイスで相手DFにプレッシャーを与えた程度にとどまり、攻撃の活性化にはつながらなかった。

 幸い、出場直後の61分に中山が自らのスローインからリターンを受け、美しいピンポイントクロスを供給し、伊東がヘッドで追加点。セットピース2つをものにして2点をリードすることができたため、攻撃の問題はそれほどクローズアップされずに終わった。

 だが、敵陣でボールを握っても、なかなかいいかたちでフィニッシュにつなげられない現象は、今回の試合でも改善されなかった。

 森保監督が布陣を4-2-3-1に変更したのは、73分のこと。久保建英をトップ下に入れる代わりにベンチに下げたのは遠藤だった。この交代策は、遠藤の累積警告を回避する目的が色濃く、攻撃の活性化を狙ったものとは言えなかった。

 ただし、攻撃にわずかな変化が見えたのも事実。布陣変更前の後半約30分間で記録した敵陣の縦パスは4本だったが、変更後の約20分間で6本に増加(アディショナルタイム含む)。クロスは7本から2本に減少したが、縦パスの受け手が増えて中央攻撃が少しだけ活性化し、3本のシュートにつながっている(守田、久保、堂安律)。

 いずれにしても、4-3-3に変更して以降の日本は、以前から指揮官が公言していた連動した攻撃はほぼ消滅状態になっているのが実情だ。

 この中国戦でダイレクトパスが2本以上続いた攻撃は、後半12分の1回。右サイドで遠藤からのパスを受けた伊東が、南野とのワンツーで抜け出してダイレクトで折り返し、ニアで大迫がダイレクトで合わせたシュートシーンのみだ。

 このシュートはバーを越えたが、このシーンだけを切り取っても、ダイレクトパスが2本以上つながれば、引いた相手に対してもゴールチャンスを作りやすいのは一目瞭然と言える。

 逆に言えば、攻撃のテンポが上がらない理由、ボールを握っても停滞してしまう理由は、ひとつの攻撃で2本以上のダイレクトパスをつなげられないことにあると見ることができる。

 確かに4-3-3に変更してからは、流れのなかからの失点はゼロで、カウンターを受けるシーンも減った。しかし守備安定化の代償として、伊東のスピードを中心とした、個の力に頼った攻撃に偏ってしまい、それが得点力低下の現象につながっているのは明らかと言える。

 守備と攻撃のバランスをいかにして改善するのか。少なくとも、解決策が見えない現状では、最少得点をクリーンシートで勝ちきるしかない。それも含めて、現在の森保ジャパンは先手必勝の戦いを続ける必要がある。

(集英社 Web Sportiva 1月30日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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