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窮地に追い込まれた森保監督に見られた大きな変化が意味するもの【オーストラリア戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

森保監督は別の監督に変貌した

 背水の陣で挑んだホームでのオーストラリア戦。1-1のスコアで試合終盤を迎え、多くの人が勝ち点1を覚悟したその時間帯に、奇跡的とも言えるゴールが窮地に追い込まれた森保ジャパンを救った。

 これで、グループ首位に立っていたオーストラリアから勝ち点3ポイントをもぎ取った日本は、2勝2敗として勝ち点6ポイント。同日の試合でオマーンが勝利したことで、総得点の差により日本は4位に後退したが、2位オーストラリアとは勝ち点3ポイント差になった。何とか、グループ2位通過に望みをつなげた。

 森保ジャパンは、この勝利によってこれまで続いた悪い流れを断ち切れたのか。

 あの幸運とも言える相手のオウンゴールがなければ1-1で終わっていたと考えると、その答えはまだ分からない。

 ただ、試合結果とは別に、この試合で森保ジャパンに大きな変化が見て取れたことだけは間違いなかった。その象徴的な事象が、森保監督の変化だ。

 同一人物であるのは当然だが、それは、まるで別の監督に変貌したと言っても過言ではないほどの変わり様と言える。2018年W杯後に就任して以来、森保監督に一貫して見られていた傾向が覆されたのだから、その変化は見逃せない。

 まず、スタート時の布陣とそれに伴う戦術変更である。

 これまで森保監督が指揮を執った中で、欧州組を含めたA代表の試合で4-2-3-1以外の布陣で試合に臨んだことは、わずか3試合しかなかった。2019年6月のトリニダード・トバゴ戦とエルサルバドル戦、そしてコロナ禍で欧州組のみで戦った2020年11月のパナマ戦の3試合で、布陣はどれも3-4-2-1だった。

 ただし、あくまでもこの3試合は失敗が許される親善試合だ。公式戦において、森保監督はどんな相手に対しても、どんな状況下においても、どんなに周囲から批判されていても、一貫して4-2-3-1を採用し、同じ戦術で戦い続けてきた。

 スタメンも然りだ。

 コロナ禍で全員が招集できなかった今年のアジア2次予選は別として、基本的にはほぼ固定されたレギュラーがスタメンに名を連ねるのが、森保監督の傾向だった。「ラージグループ」、「ワンチーム、ツーカテゴリー」といったワードは聞かれたが、実際、公式戦のA代表のスタメンは怪我や累積警告がない限り、ほぼ同じだった。

 ところが、である。

 自身の進退もかかった背水の陣で臨んだ今回の試合では、布陣、戦術、そしてスタメン編成という根本的な要素が、すべて覆された。オーストラリアの立ち上がりの混乱ぶりは、その変化の大きさを物語っていた。

 とはいえ、今回のチョイスが問題のすべてを解決したわけではない。少なくとも、ぶっつけ本番で採用した3人のボランチを中盤に配置する4-3-3は、特に攻撃面で効果を発揮できず、むしろアタッカーが減った分、攻撃ルートも減少。相手に見破られてしまえば、4-2-3-1時の攻撃よりも得点の可能性が低下する傾向も否めない。

 それも含めて、勝ち点3ポイントが必要な今後の6試合で、森保監督が今回の4-3-3を使い続けるかどうかは、まだ不透明だ。当然、1度きりの布陣になる可能性もあるだろう。

 ただ、窮地に追い込まれた指揮官が、これまで積み上げてきたものではなく、まったく別の新しいもので、一か八かの覚悟で苦境を乗り越えようとしたことだけは、紛れもない事実。

 これは決して小さくない変化であり、「まるで別の監督に変貌した」とは、そういう意味だ。

 もちろん、試合中のベンチワークなど、まだ変わらない部分が見られたのも確かである。負傷がなければ大迫がフル出場していた可能性はあったし、それにより古橋を左サイドで起用していた可能性も否定できない。終盤に足が痙攣した田中を交代できなかったのは、すでに試合中に3回の交代機会を使い切っていたからだった。

 しかしながら、最後に幸運が転がってきた試合で、確かに森保ジャパンに変化の兆しは見えた。この変化のきっかけが、監督自身のアイデア出しなのか、コーチングスタッフとの話し合いによるものなのか、あるいは選手の発案なのかは、現時点で知る由もない。

 少なくとも、そのいずれかであったとしても、指揮官がそれを実行したという事実だけで、これまでになかった劇的な変化と言える。

 今後も薄氷を踏む戦いを続ける森保監督と日本代表。この試合をきっかけにすべてが好転するとは思えないが、チーム全体が変わろうとしていることだけは間違いない。もちろん、結果的にそれが吉と出るか凶と出るかは分からない。

 まずは11月のアウェイ2連戦を乗り切れるか。まだまだ油断はできない。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一=6.0点

41分の決定機で相手のシュートに対してかすかに手で触れてビッグセーブ。その他のプレーでも安定感を示した。ビルドアップでは安全優先のキックが多く、変化をつけられず。

【右SB】酒井宏樹=5.5点

守備面で突破を許すことはなかったが、攻撃面では伊東のプレーを尊重しすぎた感は否めない。クロスボールは前半の1本のみで、もう少し攻撃参加する機会をうかがいたかった。

【右CB】吉田麻也=5.5点

前半から積極的にロングフィードを狙い、左サイドの高い位置をとる長友に何本もつなげた。決勝点につながる浅野へのロングフィードも供給。ボール扱いで細かいミスもあった。

【左CB】冨安健洋=5.5点

攻撃面では効果的なフィードは少なかったが、守備では屈強なFWに対して対人の強さとスピードを発揮。失点の場面では難しい判断を迫られ、結果的に選択ミスを犯してしまった。

【左SB】長友佑都(85分途中交代)=5.5点

新布陣のメリットを生かしていつもより高いポジションをとって左サイド攻撃の起点となった。ただ、オマーン戦と同じようなかたちで左サイドを破られて失点に関与することに。

【アンカー】遠藤航=6.0点

ボランチ3人で構成する中盤の要として豊富な運動量と持ち前のボール奪取を見せた。攻撃にもよく絡んだが、総じてダイレクトで直線的なプレーに終始。リズムを作れなかった。

【右インサイドハーフ】田中碧=6.5点

チームの明暗を分けるような大事な試合でW杯予選初出場。開始早々に代表初ゴールをマークした他、終盤に足が痙攣するまでよく走った。セットプレーのキックも有効だった。

【左インサイドハーフ】守田英正(85分途中交代)=5.5点

田中との元川崎コンビプレーは阿吽の呼吸とも言えるクオリティ。プレーエリアも広く、サイドで幅をとる役割までこなした。失点につながるファウルを犯した点は反省材料。

【右ウイング】伊東純也=6.5点

抜群のスピードを生かして相手左SBを翻弄。多くのクロスボールを供給して好機を演出した他、自らもシュートを狙う積極性も見せた。チームに不可欠な右ウイングの地位を確立。

【左ウイング】南野拓実(78分途中交代)=5.5点

開始8分の田中の先制ゴールをアシスト。守備面では伊東とともに効果的なポジショニングとプレスで相手に圧力を与えた。ただし、シュートが1本に終わった点は物足りない。

【CF】大迫勇也(61分途中交代)=5.0点

ロングボールを収めるシーンもあったが、システム上の問題でくさびのターゲットにはなれず。チャンスで決められなかった点は反省点。負傷により後半途中でベンチに下がった。

【MF】古橋亨梧(61分途中出場)=5.5点

大迫に代わって後半途中から1トップでプレー。スピードを生かした裏抜けから好機を迎えたが、シュートはブロックされた。決勝点の場面でもゴール前にしっかり詰めていた。

【FW】浅野拓磨(78分途中出場)=6.0点

南野に代わって後半途中から左ウイングでプレー。決定機で決められず、頼りなさを感じさせたが、最後に挽回。オウンゴールを誘発するシュートで勝利に導くことに成功した。

【MF】柴崎岳(85分途中出場)=採点なし

守田に代わって後半途中からインサイドハーフでプレー。出場時間が短く採点不能。

【DF】中山雄太(85分途中出場)=採点なし

長友に代わって後半途中から左SBでプレー。出場時間が短く採点不能。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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