チーム戦術の破たんが露呈した試合

 W杯アジア最終予選に簡単な試合がないことは分かってはいても、さすがに初戦からオマーン相手にホームで敗戦を喫したことに失望した人は多いはずだ。しかも、キャプテン吉田麻也が「負けるべくして負けた」と振り返ったように、内容的にもほぼ完敗。攻守両面にわたって、日本に良いところは見当たらなかった。

 前回のロシアW杯アジア最終予選の初戦でも、日本はホームでUAEに1-2で敗れている。しかし、勝てる試合を直接フリーキックとPKで落としてしまった当時の試合内容と、今回のそれとは大きく違っていた。

 この試合を検証して浮かび上がってきたのは、チーム戦術の崩壊と言っても過言ではないレベルの、深刻かつ根深い問題だった。

 コンディション不足や欠場者というエクスキューズを考慮したとしても、それを上回る問題の数々を早急に解決しなければ、目標のW杯ベスト8どころか、7大会連続のW杯出場さえも、危険信号が点滅するだろう。

 問題はどこにあったのか。両チームの状況を確認したうえで、攻撃と守備に分けて問題点を具体的に整理する。

 まず、W杯アジア最終予選の大事な初戦で森保監督がチョイスしたスタメンは、GKに権田修一、最終ラインは右から酒井宏樹、植田直通、吉田麻也、長友佑都の4人。ダブルボランチには遠藤航と柴崎岳がコンビを組み、2列目は右ウイングに伊東純也、左に原口元気、トップ下に鎌田大地、1トップに大迫勇也という11人。

 夏の移籍市場の関係で冨安健洋と守田英正が2戦目(中国戦)からの合流となり、板倉滉が負傷欠場。ベンチ登録はされたものの、南野拓実も負傷で起用できる状態になかったため、実質的にこの試合の控えメンバーは21人となった。控えの中で攻撃的な駒は、古橋亨梧、堂安律、久保建英の3人のみだ。

 そのうえで、森保監督は経験重視でスタメンを編成した。ちなみに、遠藤と柴崎によるダブルボランチは、2020年11月17日のメキシコ戦(●0-2)以来。今年初めてコンビを組むこととなった。

 対するオマーンは、セルビアで60日間におよぶ事前合宿を行ったうえで、9月2日の試合に備えて8月28日に来日。18人のヨーロッパ組が3~4日前に合流した日本と違い、しっかり調整を行ってから試合に臨んでいる。

 そして、チームを率いるブランコ・イバンコビッチ監督の日本対策も、用意周到だった。

無力化された日本の攻撃パターン

 日本の攻撃面で見られた問題点から確認する。

 この試合のオマーンの布陣は、中盤4人をダイヤモンド型に配置した4-3-1-2。ブランコ・イバンコビッチ監督は、就任後からチームに植えつけたこの布陣のメリットを有効活用して日本対策を準備した。

 その狙いは、日本のビルドアップ時に攻撃の起点となるダブルボランチを消すことと、前線中央でターゲットとなる大迫と鎌田への縦パスを封じることだった。

 前者については、2トップとトップ下の計3人が、代わる代わるボランチへのパスコースを消すポジションをとり、状況次第ではボールホルダーのセンターバック(CB)にも圧力をかけるなどして、日本のボールの出口をサイドもしくはロングフィードに限定。その結果、日本は遠藤と柴崎を経由するビルドアップが機能不全に陥った。

 後者については、4-3-1-2の「3」が威力を発揮した。狭いスペースでもターゲットになれる鎌田も、さすがに3人がスペースを消すなかではそれもできず、ボールを収める能力が抜群に高い1トップの大迫も、相手CBに厳しく背後からマークされて悪戦苦闘。くさびのパスを受けても、その瞬間にはCBと23番(ボランチ中央)に挟まれてボールロストするシーンが散見された。

 結局、森保ジャパンのバロメーターとなる敵陣でのくさびの縦パスは、わずか9本のみ(前半5本、後半4本)。しかもその中で成功した(収められた)のは、後半28分に堂安が中央の大迫に対して斜めから入れた1本しかなかった。

 もちろん、森保ジャパンが相手の縦パス封じに遭うのは初めてではなく、これまで何度か経験してきた。その場合、日本は両サイドからのクロス供給に攻撃の活路を見出してきたが、この試合では前半11本、後半10本と、クロス自体が過去のケースと比べて圧倒的に少ない本数にとどまった。

 過去の例とは何が違っていたのか。

 オマーンが採用した4-3-1-2のデメリットは、両サイドにサイドバック(SB)しかいない点だ。中央を固めやすいが、中盤の両サイドにスペースが空くため、相手のSBの進入を許しやすく、サイドで数的不利の状況に陥りやすい。

 サイドに2人を配置する4-2-3-1を採用する日本としては、両サイドに幅をとればクロスを供給してゴールを狙えるうえ、相手の守備網を左右に広げて中央にスペースを作ることもできる。

 アジア2次予選で戦った相手には、日本はその方法で攻略できた。日本がボールを失っても、即時回収して相手を敵陣に封じ込めたまま攻撃を継続できるため、時間的にもカウンターを受けるリスク的にも、両SBが高い位置をとる余裕があったからだ。

 しかし、オマーンのカウンターは鋭かった。奪ったボールを素早くフィードし、それを収めるだけの2トップもいた。2トップがボールを収めると、次にプレーメーカーの20番(トップ下)が前向きでボールを受けるため、日本はカウンターの危険にさらされてしまう。実際、開始早々の前半13分に、そのかたちから11番にシュートまで持ち込まれた。

 しかもオマーンの布陣は、上下のみならず、左右のコンパクトさも保たれていたので、日本が攻撃の幅をとるためには誰かがオープンサイドにできる広大なスペースに立ち、孤立覚悟のポジションをとる必要があった。

 ただ、カウンターという武器を持つ相手に対し、SBがそのリスクを背負うにはハードルが高すぎる。リスク覚悟で強引に高い位置をとった時には、後述する守備の問題が発生している。

 おそらくそれが、4-3-1-2の相手に対して日本のサイド攻撃が機能しなかった理由であり、クロス本数を増やせなかった最大の要因だ。

 結果的に、この試合で日本が作った決定機はわずかに2度。吉田麻也のロングフィードを斜めに走ってDFの背後をとった伊東純也が放った前半28分のシュートシーンと、酒井宏樹のクロスに逆サイドから飛び込んだ長友佑都がヘッドで合わせた後半55分のシュートシーンのみ。

 シュート数も9本対12本でオマーンに上回られるなど、今年の6試合(U-24日本代表戦を除く)で積み重ねてきた攻撃のかたちは、オマーンにはほとんど通用しなかったことになる。

守備戦術崩壊はさらに深刻な症状

 守備に至っては、さらに問題は深刻だ。とりわけ日本がリスクを冒して前掛かりになった後半は、1失点で終わったのが奇跡的と言えるほどの破たんぶりだった。

 4-2-3-1を採用する森保ジャパンでは、相手ボール時には4-4-2の陣形で守備をするのが基本のかたちだ。そのうえで、前線からプレスをかけて、サイドに追い込んだところで囲い込み、できるだけ高い位置でボールを奪って速攻につなげたいというのが、大枠の守備コンセプトだったはず。

 ところがこの試合では、4-4-2で前からはめにいくこともなければ、相手に攻めるスペースを与えないようにブロックを作って構えるシーンもほとんどなかった。

 特にリスクをかけて攻めた後半は、ボールを奪われたあとの意識が希薄になってしまい、各選手の立ち位置がバラバラ。本来ゾーンで守るべきエリアでもマンマークで対応するなど、ボールに食いついては剥がされ、相手に前進するスペースを断続的に与えるという、混乱状態に陥った。

 そうなった要因のひとつは、攻撃の問題と密接に関係する。その典型が後半60分。日本がゴールを奪うべくフィールド10人全員が敵陣に入って右サイド攻撃を仕掛けた直後、伊東が出した遠藤へのパスが23番にインターセプトされ、逆襲を食らったシーンである。

 この時のオマーンのカウンターは決して速攻ではなかった。しかし、攻撃のための立ち位置をとっていた各選手が次々とボールに食いついては剥がされると、オマーンがドリブルとパスをつなぎながら前進し、最後は左サイド(日本の右サイド)に攻め上がった17番がフィニッシュ。

 幸い、シュートはGK権田とCB吉田の頭に続けて当たってコーナーキックとなったが、ボックス内では20番もフリーになっていたため、クロスから失点を喫していても不思議ではなかった。

 他にも守備崩壊と言えるようなシーンは多かった。たとえば、この試合でオマーンが記録したクロスは16本あったが、日本が幅をとることに自重気味だった前半に浴びたクロスが4本だったのに対し、後半は12本に急増している。

 そのなかには、60分のように敵陣でのボールロストによって受けたカウンターから浴びたクロス以外に、相手のスローインで始まった攻撃から供給されたクロスが4本もあった(47、51、74、85分)。そのうち1本は、長友のハンドがVARで取り消されたシーンにつながるものだった(後半51分)。

 カウンターを受けた時ならまだしも、セットした状態からクロスまで持ち込まれる(サイド攻撃を許す)のは大問題だ。

このような現象が起こった原因

 おそらくこのような現象が起こった最大の原因は、今年に入ってから戦った格下相手の試合にある。

 1試合で二桁ゴールを奪うなど、敵陣で一方的に攻撃する試合が続いたことで、日本は自陣で守るかたちを忘却。カウンターを浴びる心配もなく、敵陣で即時回収する感覚が染みついてしまい、その方法によってオマーンを攻略しようとした。

 しかし、相手のクオリティの違いに気づいたところで、時すでに遅し。試合中に軌道修正する術は持ち合わせていなかった、というのが実際のところだろう。

 仮に格下相手の試合でも、終了までゴールを目指し続けるのではなく、ボールを保持しながらコントロールすることで試合を終わらせるスタンスで戦っていたら、このような事態は避けられたかもしれない。

 試合をコントロールするには全員が正しいポジションをとる必要があるため、守備が乱れ始めた時、それは試合中に守備の原点に立ち返るための術となるからだ。

 いずれにせよ、これだけの混乱が起きてしまうとピッチ上の選手だけで解決するのは不可能だ。そういう意味で、守備崩壊を目の当たりにしながら、何も手を打てなかった指揮官の責任は重い。

 試合の流れに変化を与えられなかった選手交代、あるいは戦局を変えるためのプランB(3-4-2-1)やプランC(4-3-3)を封印したことなど、采配の問題は多々ある。

 しかしその中でも、とりわけ後半開始から破たんの兆しが見られた守備の修正は、最優先で実行する必要があったはず。良い守備なくして良い攻撃はできないのが、サッカーの原理原則だ。

 日本が左サイドを破られてクロスから失点を喫したのは、終了間際の88分。しかし、それまでの間に何度もサイドを攻略され、日本はゴールを脅かされていた。

 ある意味、1失点で済んだのは幸運だったととらえるべきだろう。

 果たして、ここまで破たんしてしまった守備を、森保監督は修正できるのか。今後のアジア最終予選の戦いは、そこがひとつの焦点になりそうだ。

(集英社 Web Sportiva 9月6日掲載・加筆訂正)