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大久保嘉人や阿部勇樹だけじゃない! 40歳を前に現在も現役で頑張り続ける「谷間の世代」に大注目。

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

黄金世代に続いた「谷間の世代」

 かつて日本サッカー界では、1981年・1982年生まれの選手たちを指して、「谷間の世代」と呼ぶ時代があった。主に2004年アテネ五輪に出場した世代の選手たちだ。

 ただし、彼らがそう呼ばれるようになった理由は、彼らだけにあったわけではない。

 そのひとつ前の世代、すなわち1999年のワールドユース選手権(現U−20W杯)で日本サッカー史上最高成績となる準優勝を果たした1979年・1980年生まれの選手たちが「黄金世代」と呼ばれていたため、その比較として「谷間の世代」と呼ばれるようになったのである。

 もちろん、黄金世代が刻んだ足跡と比べれば、谷間の世代が刻んだそれは、明らかな違いがあった。

 U−17世界選手権も経験していた黄金世代は、ワールドユース選手権での金字塔以外にも、2000年シドニー五輪では32年ぶりの決勝トーナメント進出に貢献。その世代には、18歳で1998年W杯に出場していた小野伸二を筆頭に、稲本潤一、高原直泰、中田浩二、本山雅志、小笠原満男、遠藤保仁など、のちに日本代表の中心として活躍した数多くのタレントたちがいた(小野、小笠原、遠藤はシドニー五輪不出場)。

 それに対して、U−17世界選手権出場を逃した谷間の世代は、2001年ワールドユース選手権でグループリーグ敗退。さらに、山本昌邦監督の下で挑んだアテネ五輪でも、オーバーエイジを加えながらグループリーグ敗退の屈辱を味わっている。

 しかし、彼らは2010年南アフリカW杯でベスト16入りに貢献し、風向きを変えることに成功。ようやく、晴れの舞台でスポットライトを浴びたのだった。

輝きを取り戻した阿部と大久保

 あれから10年以上の月日が流れ、そんな谷間の世代たちももうすぐ40歳を迎えようとしている。一般的な選手寿命からすれば、もう引退しているはずの年齢だ。

「僕たちは、あの人たち(黄金世代)には敵わないかもしれないけど、『俺たちもやれるんだ』っていう反骨心を持ち続けながら、ここまでやってきた気がします」

 そう語ったのは、谷間の世代のひとりで、現在ベトナムのサイゴンFCでプレーする松井大輔である。39歳にして異国の地で現役を続けること自体が驚きだが、しかしその松井以外にも、谷間の世代にはまだ現役として新シーズンに挑む選手たちがいる。

 1981年生まれの阿部勇樹、山瀬功治、駒野友一、茂庭照幸、そして1982年生まれの大久保嘉人、田中達也の6人。そのなかでJ1のピッチに立つのは、ともにアテネ五輪と南アフリカW杯を経験している浦和レッズの阿部と、セレッソ大阪の大久保だ。

 まず、2012年にイングランドのレスター・シティから浦和に復帰した阿部にとって、今シーズンは浦和で10年という節目の年にあたる。

 ここ2シーズンは負傷などもあって出場時間が減少していたが、今季はリカルド・ロドリゲス新監督の下で心機一転。キャプテンに任命されて強い意気込みで新シーズンに挑むと、ここまでリーグ戦全4試合に先発して2ゴールをマークするなど予想以上の活躍を見せる。

 一方、J1通算最多得点記録保持者でもある大久保は、今シーズンから古巣のC大阪に復帰。J2東京ヴェルディでプレーした昨季はキャリア初のノーゴールに終わったが、新天地ではレヴィー・クルピ監督の下で完全復活。5試合5得点と、圧巻のパフォーマンスを見せてファンに驚きを与えている。

 ここまでJ1で190ゴールを積み上げてきた大久保が、今季中に通算200ゴールを達成する可能性が高まってきた。

J1以外の舞台でも谷間の世代がプレー

 山瀬と田中のふたりは、今シーズンもJ2のピッチに立つ。

 愛媛FCで3シーズン目を迎える山瀬は、昨シーズン32試合に出場し、チームの主軸として活躍。しかも昨季は9月2日の町田ゼルビア戦で1ゴールを記録し、デビューを飾った2000年から21年連続でゴールを決めるという偉大な記録を更新した。

 山瀬はアテネ五輪の予選突破に貢献しながら本大会の舞台に立てず、南アフリカW杯の出場も叶わなかった。しかし、度々大きなケガに悩まされたことを考えれば、あらためて驚異的なキャリアといっていい。今季も2試合に出場する(うち1試合に先発)。

 2013年からアルビレックス新潟で現役を続ける田中も、過去に何度もケガに悩まされた。とりわけ浦和時代の2005年にはキャリアを左右するような大きな負傷を負った。

 だが、新天地を新潟に求めてからは完全復活。以降は主力としてプレーを続けてきた。昨季は出場が7試合に減少しただけに、今季にかける思いも強いはずだ。

 J3のピッチに立つのは、FC今治で3年目を迎える駒野である。加入初年度は当時JFLだったチームをJ3昇格に導き、昨季は2年ぶりにJリーグの舞台に立って24試合に出場。今季も第1節で先発出場を果たすなど、引き続きJ2昇格を目指す。

 日本代表78キャップは、谷間の世代では断トツのナンバーワン。同世代の牽引者として、今季も鉄人ぶりを発揮してくれるに違いない。

 その駒野とともに、2006年W杯に出場を果たした茂庭は、愛知県岡崎市のFCマルヤス岡崎の一員としてJFLに挑む。C大阪から岡崎に加入したのは2019年のこと。過去2シーズンはチーム成績も個人成績も満足のいくものではなかったかもしれないが、今年9月に40歳を迎える大ベテランの経験は、チームにとって大きな力となるはずだ(チーム内に新型コロナウイルスの陽性者が出たため、今季第1節は開催中止)。

 果たして、かつて谷間の世代と呼ばれた彼らたちの冒険は、どこまで続くのか。黄金世代の中心を担った小野、稲本、高原は、それぞれコンサドーレ札幌、SC相模原、沖縄SV(九州サッカーリーグ)で現役を続けている。それを考えれば、彼らがスパイクを脱ぐのはまだ早いだろう。

 松井の言う"反骨心"を胸に戦い続ける谷間の世代から、まだまだ目が離せそうにない。

(集英社 Web Sportiva 2月26日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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