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前半に得点できていれば本当に勝てたのか? 森保監督の采配と実際に起きていた現象【メキシコ戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

4バックでメキシコに挑んだ日本

 年内最後の試合となった、オーストリア・グラーツでのメキシコ戦。森保ジャパンは後半の63分と68分にゴールを許し、0-2で完敗を喫した。

 先月の2試合を含めた計4試合で奪ったゴールは、直接FKとPKから決めた2ゴールのみ。この試合でも、前半に流れのなかから作ったチャンスをものにできなかったうえ、ここまで3試合でクリーンシートをつづけた守備についても、メキシコ相手には通用しなかった。

 試合後、森保一監督は「負けて悔しい思いはいっぱいありますが、試合内容として、自分たちが勝って終われるだけのチャンスを作れた部分はある」としたうえで、次のように振り返った。

「試合全体を見た時、まだ足りない部分がありましたが、前半は我々も(メキシコと)同じような戦い方ができたと思っています。流れがつかめてない時に我慢して流れを引き寄せ、チャンスをつくるところまではできていましたが、ワンチャンスをものにする決定力、したたかさは、さらに身につけていかなければいけないと思います」

 確かに、前半は日本が一定の時間帯でペースを握り、決定機を作れていた。ただ、果たして本当にそのチャンスでゴールを奪えていれば、勝って終われたのか。

 それを確認するためにも、この試合を改めて掘り下げ、実際にピッチ上で起きていた現象を検証する必要があるだろう。

 まず、中3日でこの試合に臨んだ日本は、森保ジャパンのメインシステムの4-2-3-1を採用。パナマ戦で課題が浮き彫りになった3-4-2-1は、結局今回も修正を試みないまま、しばしお蔵入りとなった格好だ。まだ実戦で使えるレベルにないこのオプションは、いよいよ絵に描いた餅になりそうな気配が漂い始めている。

 スタメンは、キャプテン吉田麻也とボランチ柴崎岳の2人以外は大幅に入れ替わり、GKにシュミット・ダニエル、4バックは右から酒井宏樹、吉田、冨安健洋、中山雄太、ダブルボランチは柴崎と遠藤航、2列目は右から伊東純也、鎌田大地、原口元気、そして1トップには鈴木武蔵が配置された。

 その人選については、事前に指揮官が「(今回の2試合で)できるだけ多くの選手を使いたい」とコメントしていたので、大方の予想通り。来年以降は日程的に親善試合を組めないことを想定してか、4-2-3-1の採用を含め、このメキシコ戦を本番前の総仕上げとするようなスタメン編成になった。

 最大の注目は、左サイドバック(SB)に入った中山だ。ボランチやセンターバックなど複数ポジションをこなす中山にとっては、10月のコートジボワール戦につづいて2度目の挑戦。

 前回は、守備は及第点だったが、攻撃面ではほとんど効果的なプレーを見せられずに終わった。4バック時の本職左SBが長友佑都しかいない現在の森保ジャパンにとって、中山がその問題の解決策になるのかどうか。そのプレーぶりが注目された。

 一方、この試合を中2日で戦うメキシコは、ヘラルド・マルティーノ監督が「2年前に始めた戦い方を明日も継続したい」と前日に語ったとおり、通常の4-3-3を採用。3-2で逆転勝利を収めた11月14日の韓国戦からスタメン6人を入れ替えた。

日本ペースは約15分間で終了した

 そうしたなかで迎えた前半は、試合展開を見るうえで、おおよそ3つの時間帯に分けられる。キックオフから10分、10分から25分、25分から45分だ。

 開始から約10分間、ペースを握ったのはメキシコだった。前線から激しくプレスを仕掛け、日本の最終ラインがボールを保持した時は、右インサイドハーフの18番(オルベリン・ピネダ)が1トップの9番(ラウール・ヒメネス)と共に最前線で圧力をかけ、4-4-2に変形。日本のダブルボランチには、8番(カルロス・ロドリゲス)と24番(ルイス・ロモ)がそれぞれマークにつく、最近定番化している4-3-3システムの守備方法だ。

 とはいえ、メキシコはその時間帯で優勢に立ったものの、リスクをかけてまでゴールを目指したわけではない。どちらかといえば、開始から積極的に前に出て、日本のリズムを乱す狙いに見えた。中2日のハンデを考慮しても、開始直後に見せたこの手の威嚇は、あって然るべき作戦といえる。

 逆に、立ち上がりで受けに回った日本は安全第一に徹し、最終ラインからのロングキックで対抗。その間、吉田が2本、中山が2本と、ロングボールを蹴ってメキシコのプレッシャーを回避し、しかもその4本はいずれも味方につながるなど一定の効果を示している。

 次第にメキシコの威嚇が弱まり始めると、ワンプレーをきっかけに試合は日本ペースに移った。

 前半10分、中盤で遠藤が相手からボールを奪ったあとの展開から、左サイドで伊東、原口が絡み、最後は鎌田がドリブルで切り込んで中央にパス。惜しくもゴール前に詰めた鈴木には合わなかったが、これを機に、その後は日本がリズムをつかんだ。

 しかし、12分の原口の強烈なミドルシュートも、15分の鈴木の決定的チャンスも、そのこぼれを伊東が狙ったシュートも、GKギジェルモ・オチョアがファインセーブ。その後も16分と19分に伊東がミドルを放ったが、ゴールには至らなかった。

 おそらく、試合後に森保監督が「自分たちが勝って終われるだけのチャンスはつくれた」とコメントしたのは、この時間帯のシュートシーンを指しているのだろう。

 ちなみにこの間、開始10分は0本だった敵陣でのくさびの縦パスは、3本を記録。開始10分間で1本だったクロスボールも、10分から25分の間に5本を数えた。

 逆に、最終ラインから前線へのロングフィードは、開始10分間の4本が、2本に減少。これらの数字を見ても、この時間帯が日本ペースだったことがわかる。

 ところが、次第にメキシコも日本の攻撃に対応し、19分の伊東のシュートを最後に日本のチャンスが減少。前半25分を過ぎたあたりから再び流れが変わり始めた。

 とくに前半26分に鈴木がイエローカードをもらったあとは、メキシコが落ち着きを取り戻し始め、30分を過ぎると、メキシコがボールを握って試合をコントロールする展開に変化した。

 実際、30分から前半が終わるまでに日本が敵陣で記録したくさびの縦パスは1本のみ。クロスボールも1本に減少し、シュートは0本。最終ラインからのロングボールは再び5本に増加している。

 ただし、この時間帯のメキシコは、ミドルシュート1本とセットプレーからシュートを1本記録しただけで、リスクをかけて攻めたわけではない。立ち上がりのように前から激しくプレッシャーをかけるシーンは少なく、あくまでボールキープを優先し、取り戻したリズムを手放さないことにフォーカスしたサッカーを見せていた。

 その結果、日本ペースの時間帯は、前半10分から25分までの約15分間で終了。その後の20分は、メキシコがリズムを取り戻すための時間帯となった。

流れを変えられないベンチワーク

 後半、メキシコはふたりのメンバー交代を行ない、システムを4-2-3-1に修正した。

「通常では行なわないダブルボランチで守備を強化した。中盤で相手に負けていたので、そこのインテンシティを高めるために、ダブルボランチの前にピネダ(18番)を配置して戦った。それによりフィジカル面とプレー面で優位に試合を進められるようになった」

 試合後、マルティーノ監督はその狙いをそう振り返っている。とりわけ投入された4番(エドソン・アルバレス)を軸に1トップ下の鎌田をダブルボランチが監視し、両サイドバックのポジショニングを変化させたことが効果を示していた。

 もっとも、日本の後半の入りは悪くなかった。シュートには至らなかったが、後半開始5分間で4本のクロスを記録。相手ペナルティーエリア内に進入するシーンもあり、メキシコのシステム変更が即機能したわけではない。

 ただ、52分に中山がイエローカードを提示されたあたりから、流れは完全にメキシコに傾く。

 後半最初の日本のピンチは55分。左サイドを崩されてから24番のシュートを許すが、これは吉田がブロック。その直後、森保監督は南野拓実と橋本拳人を投入したが、その選手交代は戦況を変えるためのものではなく、2試合におけるプレータイムを考慮したうえでの予定された策だったと思われる。

 したがって、フレッシュなふたりが入ったところで試合の流れは変わらず、その後も58分、60分、そして62分には2度にわたってシュートを狙われるなど、日本が相手の猛攻を受けて耐えしのぐ時間がつづいた。

 相手がパナマであれば守備陣も我慢はできたかもしれないが、さすがにメキシコ相手では、ピッチ内の選手の判断だけで苦境から抜け出すことは難しい。そういう意味で、その後の2失点は、起こるべくして起こったと言える。

 63分、自陣ボックス内に釘付けにされた日本は、酒井のクリアが24番に渡ってからの流れでまず1失点。その5分後には、南野のボールロストからショートカウンターを受け、22番(イルビング・ロサーノ)に追加点を奪われた。以降も、79分に中山のミスからカウンターを受け、GKと1対1のシーンをつくられるなどメキシコの攻勢が続いた。

 対する日本は、72分に原口に代えて久保建英を、77分に鎌田に代えて浅野拓磨をピッチに送り込むも効果なし。85分の三好康児の投入は言わずもがな。結局オプションであるはずの3バックへのシステム変更も行われず、森保監督は悪い流れを変えられないまま、試合を終えることとなった。

このままではW杯予選は苦戦必至

 後半、日本が敵陣で入れたくさびの縦パスは、わずか1本。最終ラインからのロングフィードも1本で、唯一クロスボールだけが前半と同じ8本を数えたが、その内訳は後半開始5分間の4本以外、10分に1本と、試合終盤15分で記録した3本のみ。

 後半のシュートは、85分に直接FKから酒井がヘッドで狙った1本だけに終わっている。

 結局、90分を通して見ても、日本が自分たちのリズムでプレーできたのはわずかに前半の15分間のみ。全体の6分の5にあたる時間が相手ペースだったのだから、この試合結果は極めて論理的と言える。厳しい現実を突きつけられた格好だ。

 それだけに、「自分たちが勝って終われるだけのチャンスをつくれた」と言う森保監督の認識には疑問符をつけざるを得ない。少なくとも、相手の指揮官と違ってピッチの外から試合の流れを変えられなかったベンチワークは、この結果と試合内容を招いた要因のひとつであることは間違いなかった。

 最後に、この試合の注目ポイントだった左SBの中山のパフォーマンスである。

 前回の試合の反省点を踏まえ、中山の攻撃の意識は高かったように見えたが、実際に効果的なプレーは少なかった。前半は1本もクロスを供給できず、後半も50分の1本だけ。そのクロスも相手DFにクリアされた。また、守備面でもコートジボワール以上のレベルの相手に対し、不安定さを随所で露呈してしまった。

 これも含め、確かにこの試合で得た教訓は今後の糧にはなるだろう。しかし、ピッチ上の選手はもちろん、ベンチに座る指揮官の差も明らかになった現在、来年に再開するW杯アジア予選の行方が心配になるのは当然だ。

 現状、左SB問題も含めて森保ジャパンが抱える課題は山積する。W杯最終予選が終了するまで、親善試合を組み入れるカレンダーが残されていないなか、果たして実戦で使えるオプションさえも持っていない森保ジャパンは、本当に大丈夫なのか。

 相手はメキシコ級ではないとはいえ、このままではアジアのチームを相手にしても苦戦必至と見るべきだろう。

(集英社 Web Sportiva 11月20日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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