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エムバペに続きヴェラッティも! 負傷者続出で大ピンチのパリSGトゥヘル監督がCL制覇にアラート発動

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

エムバペの負傷離脱から状況が暗転

 シーズン打ち切り決定後に手にしたリーグアン優勝に加え、昨シーズンに失ったフランスカップとフランスリーグカップという国内のカップ戦2つを取り戻したパリ・サンジェルマン(パリ)。

 残るターゲットはチャンピオンズリーグ(CL)制覇に絞られたわけだが、しかしここにきて故障者が続出。当初は順風満帆に見えたチーム状況が一変し、悲願達成に黄色信号が灯っている。

 悲劇の始まりは、フランスカップ決勝戦の対サンテティエンヌ戦。先制した後の前半26分に攻撃のキーマン、キリアン・エムバペが激しいタックルを浴び、負傷交代を強いられたことだった。

 診断の結果、右足首を負傷したエムバペの復帰は約3週間後。これにより、8月12日に予定されるCL準々決勝のアタランタ戦は、「ミラクルが起こらない限り」(トーマス・トゥヘル監督)欠場濃厚となってしまった。

 6月下旬のトレーニング再開以降、3つの親善試合をこなして順調な仕上がりを見せていたパリにとっては思わぬ展開だった。トゥヘル監督も、それまでネイマール、エムバペ、アンヘル・ディ・マリア、マウロ・イカルディを同時起用する「ファンタスティック4」を軸とする4-4-2で調整を続けていたが、急きょ方針転換を迫られた。

4-4-2から4-3-3へシステム変更

 そこで指揮官は、1週間後に行われたリヨンとのフランスリーグカップ決勝戦で、4-4-2から4-3-3にシフトチェンジ。中盤はマルキーニョスをアンカーに、左右にマルコ・ヴェラッティとイドリサ・ゲイェ、前線は左にネイマール、右にディ・マリア、1トップにイカルディを、それぞれ配置した。

 もちろんこの戦術変更は、CLアタランタ戦を見据えての実験だった。6月30日で契約満了となったエディンソン・カバーニがすでに退団しており、アタランタ戦では累積警告によりディ・マリアが欠場するとなれば、「ファンタスティック4」ありきの攻撃的4-4-2を採用する効果は薄い。

 トゥヘル監督が、ディ・マリアの代わりにパブロ・サラビアを右サイドで起用するかたちで4-3-3を機能させ、何とかアタランタ戦を乗り切って、エムバペとディ・マリアの復帰が見込める準決勝以降の戦いに望みをつなげたいと考えたのも、納得がいく。

 実際、攻撃の機能性には課題が残されたものの、マルキーニョスを中心にした中盤のバランスは申し分なかった。特に際立っていたのがヴェラッティだ。自陣で相手の攻撃の芽を摘み、ボールを奪うだけでなく得意の展開力でチャンスの起点となり、トゥヘル監督も中盤の構成には手応えを感じたに違いない。

 ところが、である。今回で最後となったリーグカップのタイトルを獲得してから4日後のこと。8月4日の練習中に、ヴェラッティがエリック・マキシム・シュポ=モティングとの接触プレーで右足のふくらはぎを負傷するというアクシデントが起こったのである。

 正式な診断は改めて発表される予定だが、もはやCLアタランタ戦の出場は絶望視されているのが現状だ。

故障者が続出するパリの台所事情

「マルコ(ヴェラッティ)については医師の診断を待っているが、かなり、かなり心配な状況で、我々にとって大きな、大きな問題だ。それに、我々はともにCLを戦った3人(退団したカバーニ、ドルトムントに移籍したトマ・ムニエ、バイエルンに移籍したタンギ・クアシ)も、すでに失っているからね……」

 アタランタ戦前の最後の実戦の場となった8月5日のソショーとの親善試合を終え、トゥヘルは苦しい台所事情を吐露した。しかもパリでは、エムバペ、ヴェラッティ以外にも主力に故障者が続出しており、それがチーム内の不安に拍車をかける。

 まず、左SBのファン・ベルナトは、負傷によりトレーニング再開後から別メニューで調整を続け、ソショー戦で初めて実戦に復帰。まだトップフォームにはほど遠く、あと1週間でどこまでコンディションを上げられるか、という状態にある。

 同じ左SBではバックアッパーのレイヴァン・クルザワがリーグカップ決勝で右の太腿を痛めて約2週間の離脱が発表されているため、2つのカップ戦決勝でも上々のパフォーマンスを見せた20歳のオランダ人ミッチェル・バッカーが、ベルナトのバックアップとなる。

 右SBでは、すでに移籍したムニエの代わりにスタメン出場が予想されたティロ・ケーラーが、フランスカップ決勝でエムバペより早い時間帯に負傷交代。リーグカップ決勝では負傷したクルザワに代わって何とか出場したが、再びその試合で負傷してしまい、ソショー戦では「使える状態ではない」(トゥヘル監督)ということで、メンバー外となった。

 バックアッパーとしてはソショー戦で先発したコラン・ダグバがいるが、彼もフランスカップ決勝後に負傷し、リーグカップ決勝は欠場していたという状態。あと1週間でトップコンディションを取り戻すのは簡単ではない。

 その他、前線ではストライカーのイカルディもリーグカップ決勝で負傷交代を強いられ、現在はケーラーとともに別メニューの調整を続けている。トゥヘル監督の見通しでは、この2人については週末からチーム練習に合流できるようだが、いずれにしてもトップフォームでCLを迎えることは難しそうだ。

プランの再構築を迫られるトゥヘル

「我々が7日後に戦うのは親善試合ではなく、チャンピオンズリーグの準々決勝なんだ! 4ヵ月もの中断があって、練習再開後に2つの公式戦を戦ったが、その間に一体何人の負傷者が出た? 今我々は、とても難しい状況だ……。

 キリアン(エムバペ)はどうかって? 彼は24時間、懸命に復帰すべくすべてのことをやってくれている! 間に合うかって? それは分からない。でももし間に合ったとして、彼は良いパフォーマンスを見せられるのだろうか? それも分からない」

 エムバペ不在によって戦術変更を強いられ、それでもひとつの解決策を見つけ出したと思った矢先、今度はヴェラッティの離脱によって4-3-3の採用も不透明になってしまったトゥヘル監督。

 果たして指揮官は、12日のCLアタランタ戦で、どのようなメンバー編成で、どのような戦術を採用するのか? 選手のコンディションを見極めながら、ゲームプランをゼロから模索する苦悩の1週間が始まる。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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