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無観客開催!怪物ハーランドに追い詰められたパリSGのトゥヘル監督は大一番を乗り越えられるか?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

欧州で最も旬な注目のストライカー

 約2カ月のインターバルを経て再開したチャンピオンズリーグ(CL)はラウンド16が開幕し、すでに第1戦が終了。今週から運命の第2戦がスタートする。

 そのなかで注目カードのひとつとなっていた「ドルトムント対パリ・サンジェルマン(パリ)」の第1戦では、下馬評を見事に覆したドルトムントが2−1で先勝することに成功。第1戦を落としたパリにとってはいきなり崖っぷちに立たされたわけだが、その試合で2ゴールを挙げて勝利の立役者となったドルトムントの19歳の怪物ストライカー、アーリング・ブラウト・ハーランドの活躍ぶりは、改めて世界に多くの衝撃を与えた。

 身長194cmのノルウェー代表FWは、昨年5月にポーランドで開催されたU−20W杯のホンジュラス戦で9ゴールを記録し、その名をヨーロッパに広めたばかり。しかし、そのスバ抜けた得点力は当時所属のザルツブルクで南野拓実(現リバプール)とともに出場した今季のCLの舞台でも証明され、グループリーグ6試合で計8ゴールを量産した。

 その才能を見込んだドルトムントが争奪戦の末、冬の移籍マーケットで2200万ユーロ(約27億円)を支払って獲得に成功すると、初のブンデスリーガの舞台でも物怖じすることなく、目下6試合9ゴールという超ハイペースでゴールを量産。今、最も旬なストライカーと言っても過言ではないだろう。

 そのハーランドがこの大一番でパリ相手に決めたふたつのゴールも、その規格外ぶりを象徴するかのようなセンセーショナルなものだった。

パリを沈めた珠玉の2ゴール

 まず、試合の均衡を破った一発目は、それまで攻撃が手詰まり状態だったパリがアンヘル・ディ・マリア、キリアン・エムバペ、ネイマールの3人で作った、この試合初めてのチャンスを逃した直後の69分のこと。

 同じく冬に加入した新戦力エムレ・ジャンの縦パスを受けたハーランドは、ダイレクトで前を向くジェイドン・サンチョにボールを預けると、そのままゴール前へ進入。サンチョから右サイドのアクラフ・ハキミにボールが渡る間に、タイミングを計りながらニアサイドに走り込んでパリのマルキーニョスとチアゴ・シウバのふたりを引き連れることで、自分の背後にスペースを空けてハキミのマイナスのクロスを誘った。

 そこに走り込んだラファエル・ゲレイロが放ったシュートは、シュートブロックに入ったマルキーニョスの足に当たってボールがわずかに弾む。その瞬間、ハーランドが素早く反応して右足でゴールネットを揺らしたのである。

 ボールを受けてからの流れるような動きはもちろん、ルイス・スアレス(バルセロナ)さながらのボールに対する反応と身のこなしは、大型ストライカーの概念を覆すに十分。ゴール前のポジショニングも秀逸だった。

 圧巻は、1−1に追いつかれた直後に決めた77分の決勝ゴールである。

 マッツ・フンメルスのロングフィードを途中出場のジョバンニ・レイナが受けた瞬間、1トップのハーランドは対峙するチアゴ・シウバがポジションを下げたことで生まれたスペースでパスを受ける。そして、ドリブルで前進するかと思いきや、ナイフのような鋭い切れ味で左足のひざ下を振り抜いた。

 すると、ペナルティエリアの外から矢のように放たれたそのミドルシュートには、名手ケイロル・ナバスの反応及ばず。ボールはゴールネットを破るほどの勢いで突き刺さった。

 シュートを放つタイミングも、精度も、天下一品。初速を含めた抜群のスピードでDFの裏に抜けるテクニックも兼ね備えるハーランドには、底知れぬ才能が次々とあふれ出てくる。

 少なくとも、この2ゴールによって格上パリから金星をもぎ取ったという事実は、彼の市場価値をより高めたことだろう。

第2戦に臨むパリの戦い方と不安材料

 もっとも、新戦力ハーランドの実力と、ホームにおける相手チームの強さを一番恐れていたのは、かつて2シーズン(2015-16~2016-17)にわたってドルトムントの指揮を執ったパリの指揮官トーマス・トゥヘルだった。

 それを証明するかのように、トゥヘルは相手の布陣に合わせて最終ラインに3人のCB(プレスネル・キンペンベ、チアゴ・シウバ、マルキーニョス)を並べた3−4−2−1を選択。直前2試合のディジョン戦(フランスカップ)とアミアン戦(国内リーグ戦)で試していた布陣ゆえ、その伏線はあったわけだが、結果的にその選択がチーム全体に消極的な姿勢を生み出す引き金になってしまった。

 しかも、約2カ月間にわたってブラッシュアップさせた攻撃的な4−4−2を温存したばかりか、エディンソン・カバーニとマウロ・イカルディというワールドクラスのストライカーふたりをピッチに送り出さないまま試合を終えている。いくらリスクを冒しにくい試合展開だったとはいえ、批判を浴びるに値する保守的なベンチワークだったと言える。

 もちろん、個の力の差によって勝機を生み出すべく選んだミラーゲームは、守備面においてはある程度の効果を示した。しかし、故障明けのパフォーマンスが冴えなかったチアゴ・シウバをカバーするためにとったと思われる苦肉の策は、攻撃の機能不全という形でそのツケを払わされ、本来パリ最大の武器であるはずの攻撃サッカーを忘却させるかのような試合展開にしてしまった。

 とはいえ、敗戦後のトゥヘルが主張したように、アウェーゴールひとつを奪っているパリにはまだ十分に勝機が残されている。むしろ、第1戦で大勝したあとに不覚をとる悪癖からまだ脱出しきれていないパリにとっては、背水の陣で臨む第2戦を戦うほうが、ベストではないにしてもベターだと思われる。

 パルク・デ・プランスで予定される3月11日の第2戦は、MFマルコ・ヴェラッティと右SBトーマス・ムニエという重要なピースを出場停止で欠くなかでの戦いを強いられる。ただ、ドルトムント戦の週末に行われたボルドー戦で負傷したチアゴ・シウバが第2戦に間に合うまでに回復したため、おそらくヴェラッティ不在のボランチにはマルキーニョスが、ムニエのポジションにはティロ・ケーラーが起用されることになるだろう。

 また、パリがホームで強いことと、ドルトムントがアウェーを苦手としていることを考えても、パリの布陣はネイマール、エムバペ、カバーニ、ディ・マリアの4人が同時にピッチに立つ攻撃的な4-4-2が濃厚だ。あるいは、これまで温存してきたネイマールを1トップ下に配置する4-2-3-1という最後の切り札を切る可能性もある。

 パリにとっての不安は、喉の痛みを訴えて練習を休んでいるエムバペの出場が不透明なことと、直前のストラスブール戦が新型コロナウイルスの影響で延期になったことだ。これにより、戦術の最終チェックを行えなかったうえ、チアゴ・シウバやディ・マリアもぶっつけ本番で第2戦に挑まなければならない。

 しかも同じ週末、ボルシア・メンヘングラートバッハとの上位対決を戦ったドルトムントは、難しいアウェー戦にもかかわらず、インテンシティの高い試合を1-2で勝利して好調を持続させている。それを考えると、パリとしては緊張感を高めるためにも、休むより試合をしたかったというのが本音だろう。

 さらに、フランス国内で新型コロナウイルス感染者が急増していることにより、第2戦は無観客試合での開催が決定している。選手を鼓舞するゴール裏のウルトラスが不在のなか、試合開始からパリがハイインテンシティで戦えるかどうかも、この試合の行方を大きく左右するはずだ。

 いずれにしても、2021年夏までパリとの契約を残しているトゥヘルにとっては、敗退すれば今夏でパリを去ることが確実視されるだけに、進退をかけた一戦となることは確実。初戦に続き、ハーランド、サンチョら伸び盛りの若いタレントたちが番狂わせを起こすのか、それとも格上が格上らしく戦い、力で相手をねじ伏せるのか。注目の一戦は、3月11日(日本時間12日未明)に迫っている。

(集英社 Web Sportiva 2月21日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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