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U-23代表のグループ敗退劇で問われるべきは、異常な状態を放置し続けたJFAのバックアップ体制にあり

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

予測できたグループ敗退劇

 タイで行われているU-23アジア選手権で、森保監督率いるU-23日本代表がサウジアラビア戦とシリア戦で連敗を喫し、グループリーグ敗退が決定した。東京五輪本番を約半年後に控えているうえ、アジアの大会でグループリーグ敗退の屈辱を味わったことにより、チームに動揺が走るのも当然だろう。

 しかしながら、冷静にここまでの経緯を辿ってみれば、そこには敗退するだけのしっかりとした理由が存在する。そういう点で、起こるべくして起こった敗退劇と言える。

 まずこの2試合の敗因を探るとき、その大前提として頭に入れておかなければならないのは、森保監督がこれまで東京五輪世代の現場の指揮をほとんど執っていなかったという事実だ。

 A代表監督就任のオファーを受けることになった2018年7月、それまで東京五輪世代の監督を務めていた森保監督は、A代表との兼任監督となった。以降、森保監督はA代表監督の仕事にほぼ専念し、東京五輪世代代表の現場指導は横内コーチに任せざるを得ないという状況が続いていた。

 初めて森保兼任監督が東京五輪世代の現場の指揮を執ったのは、昨年11月のU-22コロンビア代表戦のこと。2度目の機会は年末に長崎で行われたU-22ジャマイカ代表戦で、今大会は合宿を含めて3度目の現場指揮だった。

 しかも、さまざまな事情があって、3度の機会で招集できたメンバーはバラバラ。たとえば今大会に登録された23人のうち、監督自身がメンバー発表会見で「現時点でのU-22のベストメンバーだと思っている」とコメントしたU-22コロンビア代表戦のメンバーは13人のみ。12月28日のU-22ジャマイカ代表戦のメンバーと比べても、大幅な変更を強いられるなかでの戦いだった。

 そんななかで、選手のテストやチーム戦術の浸透など、結果以外の目的も視野に入れながら五輪出場権をかけた真剣勝負の場に臨めば、結果という点において足をすくわれる事態も十分に予想できた。勝っていても不思議ではない内容だったにもかかわらず、結果を手にすることができなかった理由のいくつかはそこにある。

問われるべきJFAの問題

 もっとも、選手の不甲斐ないパフォーマンス以上に目立っていたのが、森保監督のベンチワークだったことも事実。これまでのA代表の指揮で見られたように、今大会でも自身の采配で勝負に出るような“攻め”のベンチワークは見られなかった。勝利を手にするための采配ではなく、選手のテストや戦術浸透を重視した“逃げ”の采配に終始した印象だ。

 的確な指示で試合の流れを変えることもできず、効果的な選手交代もできず、ただ試合を傍観しているかのように見えてしまうため、その手腕に疑問の声が上がるのも当然と言えるだろう。

 ただし、森保監督の手腕を正しく評価するならば、まだ3回目でしかない東京五輪世代の現場の仕事ぶりではなく、これまで専念してきたA代表の仕事ぶりであるべきだ。東京五輪世代の試合よりも、評価のためのサンプルは山のようにある。そうでなければ、森保監督の手腕に対する正当な評価にはならないはずだ。

 今大会の敗退劇を考えるとき、その点はしっかり整理しておく必要がある。

 結局、今大会の敗退劇の原因の多くは兼任監督にすべてを丸投げしてきたJFA(日本サッカー協会)のバックアップ体制にあると言っても過言ではない。

 活動スケジュールを含め、これまで2チームの強化計画を立てるにおいて、技術委員会を中心とするJFAは、残念ながら兼任監督という特殊事情を考慮した工夫を怠ってきた。そもそも横内コーチに東京五輪世代の現場の指揮を任せっきりにした状態で、兼任監督という森保監督の肩書はその時点で形骸化されたと言っていい。

 その異常な状態を放置した結果が、五輪本番を半年後に控えた時期になって一気に露呈した格好だ。

 昨年6月に参加したコパ・アメリカの時点で、技術委員会はこういう事態がおとずれることをまったく予測できなかったのだろうか。A代表の指揮でさえも四苦八苦している指揮官の姿を見て、誰もそれに警鐘を鳴らさなかったのだろうか。

 今回のグループリーグ敗退劇で問われるべきは、森保監督の手腕の評価云々よりも、それら根本的な問題だと思われる。

 2018年W杯本番直前にハリルホジッチ監督を解任した際、代表監督を評価する立場にある西野技術委員長を新監督に就任させた異常な手法を「会長の専権事項」のひと言で決定してしまった田嶋JFA会長は、今回の事態についてはなぜか「技術委員会の話し合い」の結果を待つとしている。

 これまで兼任監督の矛盾について何の疑問も持っていなかったと思われる関塚技術委員長を中心とする技術委員会が、果たしてこの段階で正しい評価を行い、正しい結論を導き出すことができるのか。

 普通に考えれば、とてもそうは思えない。悲しいかな、地元開催の五輪が迫りくるこの時期におけるJFAの危機管理体制は、そんな状況にある。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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