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冨安の右サイドバック起用に疑問。森保ジャパンに早くも停滞感の兆し【パラグアイ戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

不安は最終予選以降のマイナス曲線

 9月10日に始まるW杯アジア2次予選の前に予定される最後の親善試合として、森保ジャパンがパラグアイと戦い、2-0で勝利した。

 GKに権田、ボランチに橋本を入れた以外は、これまでの主力メンバーがスタメンに名を連ねたわけだが、これは招集メンバー発表の段階である程度予想されたこと。システムも、試合前に森保監督がコメントしていた通り、4-2-3-1だった。

 そんな代わり映えのしない戦いの中、唯一、森保監督がいつもと違った策に打って出たのが、CB冨安の右SB起用だった。

 酒井以外に今回の招集メンバーで右SBを務められるのは、両サイドでプレー可能な安西のみ。それは長友が先発した左SBも同じで、それを考えると、森保監督は当初から冨安の右SB起用を考えていたと見ていいだろう。

 酒井、長友、安西。今回招集された3人のSBは、いずれも左右両方でプレーできる。短期決戦のW杯本番では、こういった複数ポジションをこなす選手の存在が極めて有効になる。

 そこに、所属のボローニャで右サイドバックとしてプレーし始めた冨安が加われば、さらに選択肢は増す。となると、チーム作りにおいてプラスはあってもマイナスはない、と考えてしまいがちだ。

 しかし、短期決戦のW杯本番は2022年。3年後の話だ。これから戦うアジア2次予選は、日本と比べてかなりの格下と対戦する長期戦であることを考えると、緊急事態を想定したテストにその意義を見出すのは難しい。

 もし今後冨安を右SBで使い続けるつもりがないのであれば、この試合も含めたアジア2次予選ではCBとして固定させ、定期的にCBでのプレー感覚を取り戻させた方が有効であるはず。あるいは、植田を加えた3バックをテストした方が、アジア予選用の戦局打開策のひとつとしてチームの蓄積になるのではないか。

 しかも冨安がまだ20歳であることを考えると、あまり中途半端なプレー環境を与えるべきではないと思われる。複雑なプレー環境は、成長の妨げになりかねないからだ。少なくとも、右SBでのプレーは代表戦よりもハイレベルなセリエAの舞台で十分だろう。

 さらに言えば、招集の段階から左右それぞれの本職サイドバックをリストに加え、酒井、長友を脅かすスペシャリストをより多く発掘する方が、3年後のW杯本番に向けてより重要なことだと思われる。

 森保監督は、どこを見据えてチーム作りを行っているのか? もし3年後の視点を失ったまま目の前の2次予選を見ているとしたら、これまで日本が何度も経験してきた“最終予選以降のマイナス曲線”が繰り返されることになるだろう。

 今回の招集メンバーと、このパラグアイ戦の選手起用を見ていると、ほぼベストな陣容で可もなく不可もなく勝利した森保ジャパンの先行きが心配になる。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一=6.0点

前半36分に立て続けのシュートセーブ。大きなミスもなく無難に任務を遂行した。正GKの座を勝ち取るには所属クラブでの出場機会を増やすことが重要なポイントになる。

【右SB】酒井宏樹(HT途中交代)=6.5点

前半30分に見事なダイレクトのクロスで南野のゴールをアシスト。守備面でも問題はなかったが、W杯予選のミャンマー戦と冨安の右SBテストのためにハーフタイムで退いた。

【右CB】冨安健洋=6.0点

前半は安定したプレーを披露し、32分にはゴールには至らなかったものの南野に抜群のロングフィードを供給。後半は右SBでプレーしたが、CBほどの有効性は見せられなかった。

【左CB】吉田麻也=6.0点

代表ではアジアカップ以来のプレー。前半36分に危険地帯でかわされた場面もあったが、全体的には無難にプレー。ただ、ビルドアップせず簡単にクリアする場面が目についた。

【左SB】長友佑都(67分途中交代)=6.5点

相手DFをかすめたとはいえ、大迫の先制ゴールをアシストした。前半から積極的に攻撃参加して日本のサイド攻撃を活性化させ、守備面でも大きなミスもなく無難にプレーした。

【右ボランチ】柴崎岳(76分途中交代)=5.5点

最終ラインからボールを受けるシーンが少なかったため、攻撃面で目立った働きはできなかった。逆に守備では相手のプレーを読んだポジショニングとカバーリングが秀逸だった。

【左ボランチ】橋本拳人=5.5点

日本の2ゴールの起点となった。焦りからいくつかミスもあったが、守備面においても及第点のパフォーマンスを見せた。“違い”を見せられるようになれば、定位置確保もある。

【右ウイング】堂安律(HT途中交代)=5.5点

前半25分の決定機で決められなかったのは痛恨だったが、先制ゴールの場面では見事なダイレクトパスを長友につないだ。新天地でもうひと皮剥けないとスタメンを失う可能性も。

【左ウイング】中島翔哉(HT途中交代)=6.5点

前半からスペースと時間があったため自由奔放なプレーで攻撃の起点となって相手を混乱に陥れた。ドリブルやキックの質はいつもより低かったので、コンディション調整が必要。

【トップ下】南野拓実=6.5点

前半30分に追加点を決めた。いつものようにアグレッシブにプレーしたが、時間の経過とともにトーンダウンした。他にもゴールチャンスがあったので、1点だけでは物足りない。

【CF】大迫勇也(67分途中出場)=6.5点

ポストプレーから起点となるシーンはいつもより少なかったが、ゴール前のポジショニングは秀逸だった。前半17分のチャンスを逃しながら、直後に先制点を決めたのはさすが。

【DF】植田直通(HT途中出場)=5.5点

冨安が右SBに移動し、後半開始からCBでプレー。個人としての守備は無難にこなしたが、吉田との連携は課題を残した。これまでは出場機会に恵まれなかっただけに今後に注目。

【MF】原口元気(HT途中出場)=6.0点

中島に代わって後半開始から出場。中島と明確なキャラクターの違いを見せて、攻守両面にわたってハードワークした。スタメン奪取には攻撃面でもっと積極的なプレーが必要か。

【MF】久保建英(HT途中出場)=5.5点

出場直後からポテンシャルの高さを見せ、積極的にシュートを狙った。ただ、得点やアシストを意識しすぎてプレーに焦りが出てしまい、30分程度で息切れしてしまった印象。

【MF】安西幸輝(67分途中出場)=5.5点

長友に代わって左SBでプレー。この試合では目立ったプレーがほとんどなかったが、両サイドバックでプレーできることは大きな武器。今後は継続的に招集される可能性もある。

【FW】永井謙佑(67分途中出場)=5.5点

大迫に代わってCFでプレー。周囲との連携が少なく、かといってスピードで相手DFラインを脅かしたわけでもなかった。好調な今がチャンスだけに、継続して結果を残したい。

【MF】板倉滉(76分途中出場)=5.5点

柴崎に代わってボランチでプレー。コパ・アメリカを除くと実質的な代表デビュー戦となったが、緊張のためか慌てたプレーが目立った。機会があれば次戦での挽回が期待される。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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