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ネイマールの去就問題に揺れ、早くも黒星を喫したパリはリーグ3連覇とCL4強入りを果たせるか?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

王者パリの補強状況は?

 今シーズンのフランス・リーグアンは、いきなり第2節で王者パリ・サンジェルマン(パリ)がレンヌに土をつけられるという波乱含みの展開でスタートした。昨シーズンに前人未到の開幕14連勝を記録したパリとしては、まだ序盤の躓きにすぎないものの、序盤から暗雲が立ち込める格好となった。

 とはいえ、「リーグアン優勝予想」となれば話は変わる。今シーズンも、大本命は国内随一の圧倒的戦力を誇っているパリで間違いないだろう。目下リーグ2連覇中で、しかもここ7シーズンで4連覇を含む6度の優勝を果たしているのだから当然である。

 ただし、国内三冠が最低ノルマと言われた昨シーズンは、シーズン終盤戦にまさかの失速。国内ではケタ違いの予算を使いながら、5連覇中だったリーグカップに加え、4連覇中だったフランスカップまで失う大失態をおかしてしまっただけに、パーフェクトなシーズンを過ごしたとはいえなかった。

 そういう意味では、就任2年目を迎えるトーマス・トゥヘル監督にとって、今シーズンは背水の陣となる。たとえ2021年6月まで契約を延長したとはいえ、仮にシャンピョナ(国内リーグ)優勝とチャンピオンズリーグ(CL)4強以上の成績を残せなければ、おそらくこのクラブの指揮官として生き残ることはできないだろう。

 そんな極めて高いハードルに挑まなければならないことを考えると、開幕を目前に控えた現在のチームは、決して万全とは言えない状況にある。第一に、ここまで満足のいく補強ができていないのが誤算だ。

 たとえば、噂される大物GKの獲得については、いまだに状況は見えてこない。

 現状、ジャンルイジ・ブッフォンが古巣ユベントスに戻ったほか、レンタルバックしたケヴィン・トラップも開幕直前にフランクフルトに規定路線の完全移籍。チェルシーU-23から獲得した19歳マルシン・ブルカは将来を見据えた補強のため、アルフォンス・アレオラのみで開幕戦を迎えたのである。

 また、指揮官が昨シーズンから求めていた守備的MFの補強については、数々の噂が流れたなかで、最終的にエバートンから加入したイドリッサ・ゲイェに落ち着いた。

 ただ、セネガル代表の彼については計算できる即戦力ではあるものの、CLで4強を目指すには心もとないのも事実。ここまでの試合では4−3−3のアンカーをマルキーニョスが務めているが、このままでは本来はCBで使いたいはずのマルキーニョスを大一番の試合でボランチ起用するしか方法はない。

 その他の新戦力としては、前線にパブロ・サラビア(前セビージャ)、中盤にアンデル・エレーラ(前マンチェスター・ユナイテッド)、最終ラインにアブドゥ・ディアロ(前ドルトムント)など、各ラインに即戦力を補強。確かに選手層は増したが、レギュラー陣をサポートするバックアッパー的な色が強い。

ネイマールの去就問題

 そして、チームが万全ではない最大の原因となっているのが、ネイマールの去就問題である。

 本人が移籍を希望していることが周知の事実となり、確実に放出の可能性は高まっている。だが、ネイマール獲得に必要な莫大なマネーを用意できるクラブがあるかどうかが最大のネックだ。このまま残留する可能性も考えられるが、その場合、ネイマールはファンやメディアからの逆風にさらされながらプレーせざるを得なくなる。

 もっとも、これら不安要素があったとしても、PSGがリーグ3連覇を果たす可能性は高いだろう。あとは、6年ぶりに復帰したレオナルドSD(スポーツディレクター)が夏の移籍期限までにさまざまな案件をクリアできるかに注目が集まる。

 一方、打倒PSGの筆頭候補リヨンは、7連覇を果たした黄金期の中心選手ジュニーニョ・ペルナンブカーノが新SDに就任したことで、ひとつの転換期を迎えている。その象徴が、旧ユーゴのウラジミール・コバチェヴィッチ(1981〜1983年)以来、クラブ史上ふたり目の外国人監督となったブラジル人のシウヴィーニョ新監督の招聘だ。

 しかし、シウヴィーニョにはアシスタントコーチの経験しかなく、監督は初挑戦。新SDがU-23ブラジル代表コーチだった彼を引き抜いた格好だが、この大博打が吉と出るか凶と出るかが、今シーズンの行方を左右する最大のポイントになりそうだ。

 しかも今夏はFWナビル・フェキル(ベティス)、MFタンギ・エンドンベレ(トッテナム・ホットスパー)、左SBフェルランド・メンディ(レアル・マドリード)ら主力を大量放出した不安もある。

 逆に、それによって得た莫大な移籍金収入で、アンジェからMFジェフ・レーヌ=アデレード、リールからMFチアゴ・メンデスと左SBユスフ・コネ、サンプドリアからCBヨアキム・アンデルセンを獲得。現状、彼ら若い新戦力の成長次第というのが実情だ。

モナコのリベンジにも注目

 また、ポルトガル人アンドレ・ビラス・ボアスが新監督に就任したマルセイユに至っては、想像以上に寂しい夏を過ごしている。このままでは、今シーズンもCL出場権獲得は厳しいと言わざるを得ない。

 移籍金を投じた今夏の補強は、マリオ・バロテッリ(無所属)が去った代わりに獲得したアルゼンチン人FWダリオ・ベネデット(前ボカ・ジュニオルス)のみ。最大の補強ポイントだったCBには、ビジャレアルからアルバロ・ゴンサレスをローンで獲得するにとどまるなど、現在クラブが抱える財政問題がうかがえる。

 逆に期待できそうなのが、3シーズン前にミラクルを起こしたモナコだ。

 昨シーズンはケガ人続出とフロントの迷走によって混乱し、まさかの残留争い。さらにリベンジを誓って臨んだ新シーズンも、開幕2試合連続で前半に退場者を出したことが響いて連敗スタートとなったが、本来の実力からすればCL出場権争いに加わってしかるべき強豪のひとつ。昨シーズン途中に復帰したレオナルド・ジャルディムの手腕を持ってすれば、打倒PSGの最有力候補になれるかもしれない。

 今夏の移籍市場では過多だった人員の整理と、弱点を補うためのピンポイント補強を実行。冬の移籍でアトレティコ・マドリードからローン加入したFWジェルソン・マルティンスの買い取りに成功したほか、セビージャからストライカーのベン・イェデル、昨シーズンのモンペリエ躍進に貢献したGKバンジャマン・ルコントと右SBルベン・アギラール、エバートンからはFWヘンリー・オニェクル(昨シーズンはガラタサライでプレー)を獲得するなど、確実に戦力アップを果たした。

 移籍期限まではFWラダメル・ファルカオの去就に注目が集まるところだが、仮にファルカオが出ていけばそれに代わるストライカーを獲得する資金力もあるだけに、大きな問題にはならないだろう。いずれにしても、モナコの行方はジャルディム監督の戦術浸透が最大のキーポイントとなる。

 それ以外にも、昨シーズン2位のリール、ジュリアン・ステファン監督の手腕によって躍進中のリーグカップ王者レンヌ、そして就任2年目を迎えるパトリック・ヴィエラ監督の真価が問われるニースなど、上位争いに加わりそうな中堅チームの存在も注目に値する。

 移籍の噂もある酒井宏樹(マルセイユ)、負傷により出遅れている昌子源(トゥールーズ)、ストラスブールと契約延長を果たした川島永嗣といった日本人選手の活躍ぶりも含め、今シーズンのリーグアンも見どころの多いシーズンになりそうだ。

(集英社 Web Sportiva 8月8日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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