就任以来、森保監督が初めて試みた「試合中のシステム変更」の狙いとは?【エルサルバドル戦分析】

(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

チーム作りが新しいフェーズに突入

 森保ジャパンにとって、6月9日に行なわれたエルサルバドル戦は2022年W杯アジア2次予選前に予定される最後の強化試合だ。たしかに2次予選は格下相手の試合が多いものの、失敗が許されない本番であることに変わりはない。

 それだけに、このエルサルバドル戦は本番前の貴重な最後の強化試合と位置づけられる。

 そういう点では、永井謙佑(FC東京)の2ゴールによって2-0で勝利を収めたことは、消化不良だったトリニダード・トバゴ戦(0-0)のことを考えても、ポジティブな結果だったと言っていいだろう。

 ただし、そんななかでも重要視すべきは、試合内容だ。とりわけ、この試合では森保一監督が前の試合に続いて3-4-2-1を再テスト。さらに、代表監督に就任して以来、初めて試合中のシステム変更にもトライしている。

 ともすると永井の代表初ゴールや久保建英(FC東京)の代表デビューといった個人のトピックスばかりに目を奪われがちだが、このエルサルバドル戦で見逃してはいけない最大のポイントは、そこにある。

 これらは、今年3月のAマッチ2試合までは見られなかった采配であり、長い目で見た場合、今回のインターナショナルマッチウィークから、森保監督のチーム作りが新しいフェーズに突入したことを意味している。

 とくに3-4-2-1は、サンフレッチェ広島時代に愛用し、4年で3度のリーグ優勝を達成した森保監督が熟知するフォーメーション。前任者のやり方を踏襲した4-2-3-1よりも、使用方法や修正方法など、圧倒的なメソッドを持っているはずだ。

 そういう意味では、現在は”西野色”に染まっていたチームカラーが、少しずつ”森保色”に変化しようとしているタイミングとも言える。

 ただし、トリニダード・トバゴ戦後に「現段階ではA代表は4バック」とコメントしたように、現状、森保監督は3-4-2-1をひとつのオプションとして考えている様子で、当面は4-2-3-1がベースとなりそうだ。

 そこでクローズアップされるのが、今回のエルサルバドル戦でお披露目された2つ目のポイント、「試合中の戦術変更」である。

 いわゆるオプションとしてのプランBを、森保監督はどのような狙いを持って、どのように運用するつもりなのか。これは、アジア2次予選における森保ジャパンの大きなチェックポイントになる。

 つまり今回のエルサルバドル戦で見えたものが、今後の森保ジャパンを見ていくうえで極めて重要な要素になるはずだ。

異なるキャラクターの両ワイド

 まず、この試合で森保監督はトリニダード・トバゴ戦から6人を変更してスタメンを編成した。当然、その選手起用からは指揮官の頭の中に描かれる”絵”が見え隠れする。

 GKは、これがA代表3試合連続のスタメン出場となったシュミット・ダニエル(ベガルタ仙台)。日ごろから森保監督が「GKやDFからのビルドアップ」というフレーズをよく口にすることからしても、おそらく現在の正GK候補筆頭に昇格したと見て間違いないだろう。

 3バックは、トリニダード・トバゴ戦とまったく同じ。右から冨安健洋(シント・トロイデン)、昌子源(トゥールーズ)、畠中槙之輔(横浜F・マリノス)の3人だ。

 本来ならこの試合は槙野智章(浦和レッズ)が出場する予定だったと思われるが、首の張りを訴えて戦線離脱。代わりにコパ・アメリカ用メンバーに入っている中山雄太(ズヴォレ)がベンチメンバー入りを果たしている。

 一方、3-4-2-1の「4」は総入れ替え。ダブルボランチに橋本拳人(FC東京)と小林祐希(ヘーレンフェーン)、右ウイングバックに伊東純也(ヘンク)、左ウイングバックには原口元気(ハノーファー)がスタメンに名を連ねている。

 ポイントは、前の試合では4バック時にサイドバックを務める酒井宏樹(マルセイユ)と長友佑都(ガラタサライ)が出場していたのに対して、この試合では4バック時にウイング(サイドMF)でプレーする伊東と原口が起用された点だ。

 森保監督の選手起用傾向からすれば、2試合をAチームとBチームに分けて全員を使うのが常套手段のため、そこに深い意味はないように思われるが、しかしキャラクターの異なる選手を両ワイドに配置したことで、どのような変化が起こるかは要注目だ。

 そして前線は、右シャドーに堂安律(フローニンゲン)、左に南野拓実(ザルツブルク)、1トップは鈴木武蔵(コンサドーレ札幌)に代わって追加招集された永井謙佑がスタメンを飾った。

 また、香川真司(ベシクタシュ)が負傷によりメンバー外となったことで、中山と同じく、トリニダード・トバゴ戦はスタンド観戦となっていた久保がベンチ入りを果たした。

 ちなみに、この日もメンバー外となったベテランのGK川島永嗣(ストラスブール)とFW岡崎慎司(レスター)は、コパ・アメリカ用メンバーにも登録されている。コパ・アメリカは東京五輪用チームの強化試合と位置づけた森保監督としては、彼らをオーバーエイジ枠のイメージでメンバー入りさせたと見ていいだろう(所属チームの事情で今回参加できなかったDF植田直通/セルクル・ブルージュは、コパ・アメリカには参戦する予定)。

縦パスが増加し、クロスが減少

 果たして、スタメンの約半分がBチームで編成されたこの試合の日本は、Aチームで戦ったトリニダード・トバゴ戦とは明らかに違った傾向のサッカーを見せた。

 以下は、試合後に3バックでの攻撃の改善点を問われた森保監督のコメントである。

「(今日は)DFラインから前線にボールを運ぶときのポジショニングで、3バックでそのままビルドアップする形と、ボランチ1枚がDFラインに下りてビルドアップする形で、より幅を使って揺さぶりながら高い位置にボールを運び、そこからセンターバックが前線のスペースに進入していく形を、1試合目のビデオやトレーニングで確認して試合に臨んだ。選手たちは限られた時間のなかで、いいイメージを持ってトライしてくれたと思っている」

 満足そうに振り返った指揮官の評価を額面どおり受け止めるかどうかは別として、たしかにこの試合の日本の攻撃には変化があった。それが、前の試合と比べてサイドからのクロスボールが大きく減った点と、縦パスが増加した点だ。

 まず、この試合で日本が見せたクロスは、前半4本、後半5本の計9本のみ。しかも前半の4本は、最もクロスを入れやすいポジションとされるウイングバックの原口が1本で、それ以外の3本は1トップの永井(2本)とボランチの小林(1本)という内訳だった。

 これに対して、トリニダード・トバゴ戦では前半20分以降にクロス供給が増えて、最終的に24本を記録(前半11本、後半13本)。同じ前半の内訳を見ると、長友佑都が4本、酒井宏樹が2本と、ウイングバックからのクロスが半分以上を占めている。

 もちろん、トリニダード・トバゴとエルサルバドルの特徴や戦術が異なるため、100%日本の狙いによるものとは言えないが、それを前提にしたとしても、サイドからの攻撃回数は、1戦目よりも確実に減ったという事実に変わりはない。

 では、なぜサイドからのクロスボールが減ったのかと言えば、答えはシンプルだ。縦パスが増えたからである。

 前半から積極的に攻撃のスイッチを入れた日本は、前半だけで縦パス28本。途中でシステム変更を行なった後半は18本に減ったものの、トータル24本だったトリニダード・トバゴ戦よりも1試合で22本も増えたことになる。

 その最大の要因となったのが、1トップでプレーした永井のプレースタイルにあることは言うまでもないだろう。

 ポストプレーを武器とする大迫勇也と違い、永井の武器は縦へのスピードだ。それを証明するかのように、この日の日本はスペースを狙った縦パスを多用した。永井以外にも、左サイドの原口や南野が裏に飛び出すタイミングを狙ったものも多かったという点も、攻撃の特徴になっていた。

 しかしながら、縦パスがよく入ったからと言って、この試合の日本の攻撃が効果的だったかと言えば、必ずしもそうとは言えなかった。

 スペースを狙ったボールを縦に蹴る場合、狙った味方にピンポイントで合わせられなければ、相手ボールになってしまうからだ。しかも、足元へのくさびと比べて確実性が低いため、成功率も決して高くない。

 それは、2ゴールを決めるなどゲームを支配していた印象を受ける前半の日本のボール支配率が、50.8%にとどまったことと無関係ではない(最終的な日本のボール支配率は48.9%)。また、トリニダード・トバゴ戦と比べて、シュート数や決定機が少なかったことにも関係する。

試合中のシステム変更の成否

 59分のシステム変更前に、3-4-2-1で戦った日本が見せた連動性のある良い攻撃は、35分に橋本が入れた縦パスを南野がダイレクトで永井に預け、永井がボックス内でシュートを放ったシーン(GKのセーブでコーナーキックに)と、後半早々の50分、相手のクリアを小林がそのまま頭で堂安にパスし、堂安がダイレクトで南野につないでフィニッシュに持ち込んだシーンだけと言っていい。

「連動性のある攻撃」「厚みのある攻撃」とは、森保監督がよく口にするフレーズだが、この試合では3-4-2-1で戦うなかで、それ以外に縦パス後のダイレクトプレーでフィニッシュに持ち込んだシーンはなかった。先制ゴールに象徴されるように、ほとんどの攻撃が単発だったのだ。

 実際にネットを揺らしたのはエルサルバドル戦だけに、これをどう評価するかは意見が分かれるところだが、少なくとも、1トップのキャラクターが変わったことで攻撃パターンが大きく変化したことだけは明白だ。堂安の存在感が薄かった理由でもある。

 永井の負傷によって、大迫が緊急出場することになったタイミングで、森保監督は畠中に代えて山中亮輔、伊東に代えて室屋成を投入。「事前に伝えていた」という指揮官は、予定どおり、試合中にシステムを4-2-3-1に変更した。

 すると、その後に中島翔哉と久保が入ったことも加わり、日本の攻撃は明らかに活性化した。

 ボール支配率は、後半開始15分間の37.3%から、15分刻みで46.7%、56.1%と上昇。エルサルバドルが70分以降に4人の選手交代を行なったことも影響したと思われるが、後半の日本のシュート数7本のうち、5本がシステム変更後に記録したものだった。

 これだけを見ると、たしかに試合中のシステム変更も成功したように見えるが、しかしそれはシステム変更によって攻撃的にシフトチェンジするという狙いがあってこその話だ。そこが曖昧になっている以上、今回のシステム変更が成功したと評価するのは早計だろう。

「3バックをやるという部分ではパーフェクトではないし、まだ最初の一歩を踏み出したというところ」

 試合後にそう語った森保監督は、このあと6月14日に開幕するコパ・アメリカに挑む。チリと対峙する日本の初戦は6月18日午前8時(日本時間)だ。

「私が東京五輪世代の監督になったとき、まずは自分がこれまでやってきたことでベースを作り、オプションとして4バックを試した。最終的にどちらがベースになるかは、招集選手を見たうえで、どのようなストロング(ポイント)を持てるかというところで決めていきたい」

 トリニダード・トバゴ戦後の森保監督のコメントから推測すると、おそらくコパ・アメリカは3-4-2-1をベースに戦うことになるだろう。格上を相手にしたとき、果たして森保式3-4-2-1はどのような”顔”を見せるのか。

 A代表の今後の戦い方にも大きく影響するはずなので、その戦いぶりはいろいろな意味で要注目である。

(集英社 Web Sportiva 6月12日掲載・加筆訂正)