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降格圏に沈む名門モナコが迷走中! 悩めるアンリ新監督に打開策は見えず

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

パリのライバルが大不振に陥った理由

 パリ・サンジェルマン(PSG)の独走ぶりに注目が集まる今シーズンのリーグアンだが、もうひとつネガティブな意味で脚光を浴びているチームがある。シーズン途中の10月13日に自身初の経験となるトップチームの監督を引き受けた、元フランス代表ティエリ・アンリが率いるモナコである。

 現在のモナコの順位は、なんと降格圏内の19位(12月23日時点)。5シーズン連続出場中のチャンピオンズリーグでも1分5敗と、最終節を待たずして最下位が決定するなど、これ以上ないというほど大不振にあえいでいるのだ。

 2011年12月にロシア人ディミトリー・リボロフレフ現会長が筆頭株主となり、当時リーグドゥに低迷していたモナコの立て直しに成功して以来、順風満帆な時代を過ごしていたはずのモナコに、いったい何が起こっているのか?

 開幕前に、今シーズンもPSGの対抗馬として最有力と見られていたモナコがこのような状況に陥ると予想した人は誰もいなかった。2年前、PSGのリーグ5連覇を阻んで17シーズンぶりのリーグアン優勝を果たしたうえ、チャンピオンズリーグの舞台でPSGを上回るベスト4に進出して欧州を席巻した頃を遠い昔話のように感じているのは、おそらくモガネスク(モナコ人)だけではないはずだ。

 振り返れば、悲劇的とも言える負の連鎖は、シーズン開幕前から始まっていた。

 まず、昨シーズンまで重要な戦力だったキャプテンのMFファビーニョ(リバプール)をはじめ、MFトマ・レマル(アトレティコ・マドリード)、MFジョアン・モウティーニョ(ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ)、FWアダマ・ディアカビ(ハダースフィールド・タウン)、MFラシド・ゲザル(レスター・シティ)といった面々がチームを去ったことが挙げられるだろう。

 もちろん、主力の引き抜きに遭うことは、もはやモナコにとっては毎夏の恒例行事。実際、DFバンジャマン・メンディ(マンチェスター・シティ)、MFベルナルド・シウバ(マンチェスター・シティ)、MFティエムエ・バカヨコ(チェルシー/現ミラン)、FWヴァレール・ジェルマン(マルセイユ)、そしてキリアン・ムバッペ(PSG/初年度はレンタル移籍)を失った昨シーズンも、最終的には2位となってチャンピオンズリーグ出場権を確保することに成功している。

 しかし今シーズンの場合、当時の主力大量放出がボディブローとなっていたことに加えて、チームの絶対的バランサーであったファビーニョを引き抜かれてしまったことが決定打となった。近年の黄金期を築いたレオナルド・ジャルディム前監督のサッカーを知り尽くし、若手とベテランのつなぎ役としてチームを支えていた大黒柱が果たしていた役割は、それほど重要だったのだ。

 ただ、それでも「ジャルディムの手腕があれば必ずチームは再建される」と楽観視されていたのも事実だった。ところが、開幕前から故障者が続出。入れ替わり立ち替わりで主力が欠場する事態が続いたことが、名将ジャルディムを窮地に追い込んだ。

 10月7日の『レキップ』紙は「モナコは5大リーグでもっとも多くの選手がW杯に出場しているクラブ」という見出しで記事を掲載。クロアチアのW杯準優勝に貢献したGKダニエル・スバシッチをはじめ、DFジブリル・シディベ、FWステヴァン・ヨヴェティッチ、MFロニー・ロペス、MFアダマ・トラオレ、DFアンドレア・ラッジほか、新戦力のMFアレクサンドル・ゴロビン、FWピエトロ・ペッレグリといった主力選手の故障が相次ぎ、ジャルディムは1試合平均で6人の選手を使えない状態にあった。その結果、9試合で計27人もの選手を起用せざるを得なかったのだ。

 しかも、その状態は指揮官がアンリにバトンタッチして以降も続いており、第16節(12月4日)のアミアン戦でも計13選手が故障欠場するなかで戦うことを強いられている。こういった状況下では、どんな名監督でもチーム強化は図れない。

監督初経験のアンリに未だ打開策なし

 そして、その状況に追い打ちをかける格好となったのが、10月にフロントが下した「ジャルディム解任」という決断だった。

 ジャルディムが指揮を執った過去4年間の実績とその功績を考えれば、その決断は浅はかだったと言わざるを得ない。トップチームの選手はもちろん、フォルマション(育成部門)の選手も熟知している指揮官だからこそ、シーズンを戦いながら苦境から脱出する糸口を見出せたはず。実際、ジャルディムはその手腕によって黄金時代を作り上げていた。

 しかし、今夏にムバッペの完全買い取り金とされる推定1億8000万ユーロ(約230億円)を手にしていたフロントは、実績よりも知名度を重視したブランディング戦略により、監督未経験のアンリを招聘するという暴挙に出た。

 もちろんこの大胆人事は、フランス国内だけでなく世界的にも注目を浴びたため、モナコというクラブのブランド力を上げたことは間違いない。ただ、その代償は予想以上に大きく、チームがさらなる迷走状態に陥ったことは紛れもない事実である。

 結局、初采配となった第10節のストラスブール戦以降、アンリ新監督が公式戦で初勝利を手にするまでに約1カ月を要した。ケガ人が続出するなか、まだプロ契約もしていない多くの若手を起用せざるを得なかったとはいえ、試合ごとにシステムを変え、ますます選手を混乱させて自信も失わせてしまう采配を見ると、しばらくはモナコが迷宮から脱出することは難しいと思われる。

 試合中の表情やしぐさを見るかぎり、そもそもアンリ自身から指導者としての自信が失われている。このままでは、せっかくの現役時代の華々しいキャリアに大きな傷がついてしまうのではないかと心配になってしまうほどだ。

 この苦境から脱出するためにも、とにかく早い時期に主力選手が揃って故障から復帰し、まだ一度もお目見えしていない今シーズンのベストメンバーを組んで試合に臨む必要がある。

 さいわい、故障から復帰したエースのラダメル・ファルカオは7得点を記録するなど、調子は悪くない。センターバックのジェメルソンの絶不調は気になるものの、スバシッチ、ロニー・ロペス、シディベ、ヨヴェティッチらがピッチに戻り、MFナセル・シャドリやゴロビンといった新しい戦力と融合すれば、モナコがリーグ屈指の戦力を誇っていることが証明されるだろう。

 あとは、そのタレントたちを束ねる指揮官が、ベストな組み合わせとチーム戦術を見出せるかどうか。自身のプロキャリアをスタートさせた古巣で、監督としてのキャリアを踏み出したアンリにとっては、シーズン後半戦が正念場となりそうだ。

(集英社 Web Sportiva 12月10日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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