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フランス・リーグアンは今季もPSGが大本命。唯一の不安はネイマールと新監督トゥヘルの相性か

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

王者PSGを脅かす存在は酒井宏樹のマルセイユか

 20年ぶり通算2度目のワールドカップ優勝を飾り、国内のサッカー熱が近年稀に見るほどの盛り上がりを見せているフランス。その熱狂が冷めやらぬ8月10日、いよいよ国内トップリーグの「リーグアン」が開幕する。

 昨シーズンは本命パリ・サンジェルマン(PSG)の独走優勝で幕を閉じたが、今シーズンも圧倒的戦力を有するPSGを中心に優勝争いが展開されることはほぼ確実。そしてそれを追うのは、一昨シーズンの覇者モナコ、優秀な若手を揃えるリヨン、チャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得を至上命題とする酒井宏樹のマルセイユと、優勝争いは「1+3」という昨シーズン同様の図式になりそうだ。

 まず、リーグアン、フランスカップ、リーグカップの「国内三冠」を達成したPSGは、バルセロナから完全移籍で獲得したFWネイマールと、モナコから買い取りオプション付きのレンタルで補強したFWキリアン・ムバッペのふたりに総額約520億円という天文学的なビッグマネーを投じた昨夏とは打って変わり、今夏の移籍マーケットではそのムバッペの買い取りを実行した以外はほとんど投資を行なっていない。

 開幕前までの唯一の目玉といえる補強は、元イタリア代表GKジャンルイジ・ブッフォン(前ユベントス)をフリーで獲得したのみ。逆に、MFハビエル・パストーレをローマに、DFユーリ・ベルチチェをアスレティック・ビルバオに放出するなど、戦力はややダウンしているのが現状だ。

 もちろんCL制覇を目標とするクラブだけに、今夏の移籍期間中にこれ以上の新戦力を獲得しないということは考えられない。そんな状況もあってか、開幕前の段階でPSG最大の関心事になっているのは、指揮官がスペイン人ウナイ・エメリ(現アーセナル監督)からドイツ人トーマス・トゥヘル(前ドルトムント監督)にバトンタッチしたという点に絞られている。

 トゥヘルといえば、マインツ(2009年~2014年)時代やドルトムント(2015年~2017年)時代を見てもわかるとおり、同じメンバーとフォーメーションを続けて使わないほど多彩な戦術を操ることが特長の指導者だ。どちらかといえば、スター選手を揃えるビッグクラブを率いた経験のないエメリに近いタイプと言っていい。

 それだけに、監督が求める戦術に異を唱える選手たちが増えていき、結果的に選手がプレーしやすい戦術を採用するに至った前任者と同じ轍を踏むのではないか、という不安の声もあがっている。その意味では、PSGが連覇を達成できるかどうかは、トゥヘルがシーズン序盤戦をどのような戦術で戦い、同時に結果を残せるかどうかが極めて重要になる。

 それを理解してか、トゥヘルは就任が正式発表された5月に、さっそくチームの大黒柱にして最大のスター選手であるネイマールとの会談の場を設けたほどだ。そこで具体的にどのような話し合いが行なわれたのかは明らかになっていないが、少なくともネイマールと理解し合えるかどうかがトゥヘルの最初のハードルになることは間違いないだろう。

 ただ、希望の光となっているのは、エメリと違ってトゥヘルが攻撃的サッカーを標榜する監督である点だ。実際、若手中心で臨んだインターナショナルチャンピオンズカップ(プレシーズン大会)では、3-4-2-1と3-4-1-2を併用しながらPSGにとって新タイプの攻撃的サッカーにトライし、その成果も出始めている。さらに、8月4日に行なわれたモナコとのスーパーカップでは、4-3-3を採用して4-0と圧勝。まだスタメンの半分がレギュラー組ではなかったものの、開幕に向けて順調な仕上がりを見せている。

 そんなPSGの対抗馬と言われているのは、「若手主体のチーム作り」というクラブの方針を貫いて強化に成功している、モナコとリヨンの2チームだ。

 毎シーズン主力選手を引き抜かれているモナコは、今夏もMFファビーニョ(現リバプール)とMFトマ・レマル(現アトレティコ・マドリード)、MFジョアン・モウチーニョ(現ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ)、MFラシド・ゲザル(現レスター・シティ)、FWケイタ・バルデ(現インテル)といった主力を次々と放出。

 レオナルド・ジャルディム監督にとっては大きなダメージとなったが、逆に彼らの売却やレンタル料、そしてムバッペの買い取り金などを含めた約370億円という軍資金を元手に、ロシア代表MFアレクサンドル・ゴロビン(約39億円/前CSKAモスクワ)、リヨンの育成の至宝とされる16歳のFWウィレム・グベル(約26億円)など、将来有望な若手の引き抜きに成功している。

 確かに、現状ではPSGに対抗するには厳しい戦力ではあるものの、若手を育ててチームを強くすることに長けたジャルディム監督にとっては、チームの立て直しはお手のもの。昨シーズン台頭したMFロニー・ロペス、MFユーリ・ティーレマンスらのように「成長による補強」ができれば、シーズン後半戦に成績が浮上するパターンを再現できそうだ。

 一方、キャプテンのMFナビル・フェキルの引き抜きの噂が絶えないリヨンは、その行方次第ではあるものの、ほぼ現有戦力で新シーズンに臨む可能性が高まっている。

 とはいえ、このチームには昨シーズン大ブレイクを果たした20歳のMFフセム・アワール、21歳のMFタンギ・エンドンベレに加え、すっかりチームのヘソとなった21歳のMFリュカ・トゥサールなど、伸び盛りの若手が多い。しかも、毎年のように下から新しい若手が台頭する好循環が存在するだけに、あらためて大金を投じて補強をする必要はない。

 指揮を執るブルーノ・ジェネシオ監督も彼らを軸にチーム作りを行なっており、マリアーノ・ディアス、メンフィス・デパイ、ベルトラン・トラオレといったFW陣が昨シーズン同様の爆発力を継続できれば、国内で上位を狙うには十分な戦力と言える。問題があるとすれば、CLとリーグ戦を並行して戦うことで若い選手たちが集中を切らしてしまう可能性があるという点だろうか。そういう点では、ジェネシオ監督の手腕にかかる部分は大きい。

 そして今シーズン、この2チーム以上に大きな期待を集めているのがマルセイユだ。

 昨シーズンはヨーロッパリーグ決勝で涙を呑んだうえ、リーグ戦では最後の最後でCL出場権を逃し、泣くに泣けないかたちでシーズンを終えた。だが、新オーナーのフランク・マッコートの積極投資が実を結びつつあり、チームも右肩上がりの成長を続けている。

 今夏も最大の補強ポイントとされていたセンターバックに、ワールドカップ準優勝メンバーのクロアチア代表ドゥイェ・チャレタ=ツァル(前ザルツブルク)をピンポイント補強。さらにフロントは、FWマリオ・バロテッリ(現ニース)やFWオリビエ・ジルー(現チェルシー)といった大物ストライカーの獲得交渉に乗り出すなど、着実な戦力アップを図っている。ルディ・ガルシア監督が望むストライカーの獲得には至っていないが、CL出場権獲得を本気で狙っていることは間違いない。

 FWフロリアン・トヴァン、FWディミトリ・パイエ、MFルイス・グスタヴォ、DFジョルダン・アマヴィ、DF酒井宏樹など、昨シーズンまでの主力の残留もほぼ確定的となっているだけに、残るワンピースが1トップに収まれば、CL出場権獲得はもちろん、PSGを脅かす存在に化ける可能性は十分にある。ある意味、今シーズンもっともホットなチームと見ていいだろう。

 その他、ニースの新監督に元フランス代表MFパトリック・ヴィエラが就任したことや、今シーズンからVARが導入されることなど、注目のトピックスも多い今シーズンのリーグアン。ワールドカップ優勝の影響でスタジアムも大盛況となることは必至と見られ、例年以上に熱い戦いが展開されそうだ。

(集英社 Web Sportiva 8月8日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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