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攻撃的か、守備的か? 目指すサッカーが曖昧な西野新監督は早急に決断を下すべき

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

気持ちは攻撃的なサッカーにあっても、強豪国相手には……

 ヴァイッド・ハリルホジッチの解任が正式発表されてから3日後。日本代表を率いてロシアW杯に挑むことになった西野朗新監督の就任記者会見が4月12日に行なわれた。

 日本代表監督という大役を引き受けることを決意した西野新監督は、一体どのようなコンセプトの下、どのようなサッカーで本番に挑もうと考えているのか? そこがこの就任会見における最大の注目点だった。しかし、今回の会見で西野監督が発した言葉からそれを具体的にイメージすることはできなかった。耳障りこそ悪くはないが、そのほとんどが雲をつかむような話に終始した印象は否めず、目指すサッカーも曖昧なままだった。

 もちろん、今回の監督就任に至るプロセスが極めて異例だったことも少なからず影響しているだろう。西野監督の言う通り、本当に田嶋会長から打診を受けたのが「先月末」だとしたら、2週間弱の間に考えられることは限られてくる。それこそ、今回の人事が監督のコンセプトやフィロソフィに賛同した上で白羽の矢を立てるという通常の監督選びのプロセスを経ず、いわゆるサッカーの内容は後付けの“緊急登板”だったことを物語っている。

 とりわけ印象的だったのは、前任者のサッカーを継承するのか?という質問に対する次のような回答だった。

「この期間で継承していくスタイルもあるが、やはり選手たちにはもっと自分のプレーを求めたい。代表チームでは、自分のクラブでのプレー以上のものが出るはずで、それが代表チームだと思います。

 選手がストレートにプレーできるチームを作っていきたいと思います。チームのスタイルや編成については今日、コーチングスタッフを承認していただいたので彼らとも協力して考えていきたい」

 さらに、今後のチーム作りについてはこんなことも述べていた。

「今はまず、選手たちが求めるプレーを出させたいし、表現させたいという気持ちです。そういうスピリットのある選手たちを招集して、チームを編成したいと思います」

 要するに、スタッフをはじめ、選手たちの考えも聞きながらチーム作りを進めていくということになる。前任者と同じ轍を踏みたくないのはわからなくもないが、指揮官としてはあまりにも頼りない姿に映る。

 そもそもプロの選手が20人以上も集まれば、サッカーに対する考え方がバラバラであるのは当然のこと。選手のレベルが上がれば上がるほど彼らにも確固たる考え方、フィロソフィというものがある。当然ながら、W杯で攻撃的に戦ってチャレンジしたいと考える選手もいれば、守備的に戦って勝機を伺いたいと考える選手もいるはずだ。

 攻撃的か、守備的か――サッカーのスタイルを大きく分ければ、この2通りに分けられる。果たして、西野監督はどちらを選択するのか? 世間が最も関心を抱いているのは、その点に尽きるといっても過言ではない。

「ゲームというのはいろいろな状況があり、オフェンシブに戦える時間帯もあれば、総合的なチーム力によってはディフェンシブな戦い方を強いられる時間帯が多くなる。そういう中で、やはり勝機を常に求めていく。これはスタメンだけでなく、いろいろな戦術変更の中でも考えていきたい。

 攻撃的な志向で、得点を生んでいく展開にしたいと思いますが、やはりそれだけでなく、ウイークポイント、ストロングポイントがどこにあるのかをスカウティングして、それを全体的に統一した上で、できればオフェンシブな戦い方を求めていきたい」

 このコメントから判断すれば、“どちらもアリ”ということになる。気持ちは攻撃的なサッカーにあるものの、対戦相手を分析した結果、守備的にならざるを得ないこともある。こう解釈するのが妥当だろう。

 W杯で対戦するコロンビア、セネガル、ポーランドの実力と日本を天秤にかけた場合、おそらく守備的サッカーを選択する可能性は高くなる。その時、攻撃的サッカーを求める選手とどのような折り合いをつけるのか。そこが残された時間でのチーム作りのカギになりそうだ。

 西野監督といえば、その代名詞となっているのが「アトランタの奇跡」だ。1996年のアトランタ五輪。初戦で対戦したブラジルはオーバーエイジ枠をフルに使ったスター軍団だった。その優勝候補最右翼と見られていた相手に対して、オーバーエイジ枠を使わなかった西野監督率いる日本は守備的なサッカーを選択、それが奏功して1‐0で勝利した。日本サッカー史に残るジャイアントキリングである。

 その一方で、西野監督が率いた柏レイソル(1998~2001年)、ガンバ大阪(2002~2011年)、ヴィッセル神戸(2012年)、名古屋グランパス(2014~2015年)のサッカーを見ると、必ずしも守備的とはいえない。むしろ、ガンバ時代に象徴されるように攻撃的サッカーを志向した印象のほうが強い。攻撃的か守備的かの話でいえば、攻撃的なサッカーでチーム作りを進めていた指導者と見て間違いないだろう。

 ただし、それはJリーグのクラブでの話だ。国際試合と違って、チーム間の実力差がそれほど大きく開いていないJリーグでは、アトランタ五輪時のブラジル戦のように守備的に戦う必要はないからだ。その点を踏まえると、「できればオフェンシブな戦い方を求めていきたい」と理想を語った西野監督が、ロシアで対戦する強豪国に対してどのような判断を下すのかは、意外とはっきりしているのかもしれない。

 気になるのは、「アトランタの奇跡」の舞台裏で、攻撃的サッカーを求めた選手と衝突してしまったという有名な一件だ。仮にロシアで守備的サッカーを選択した場合、同じような衝突が生まれる可能性は高いと思われる。

 確かに前任者の失敗を繰り返さないためにも選手との折り合いは重要だ。しかしその一方で、どこかのタイミングで監督自身の最終判断を下さなければならない時が来る。

 攻撃的か、守備的か――残されている時間が少ない中、早期の決断が求められる。

(集英社 週プレNEWS 4月14日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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