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カリスマ不在で挑む初めてのW杯で、日本はハリルの選手起用に依存していいのか?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:田村翔/アフロスポーツ)

近年稀に見る苦戦を強いられた今回のアジア最終予選

 W杯アジア最終予選の最終戦となったアウェーでのサウジアラビア戦で日本は敗戦を喫した。しかしその結果について驚きはない。ある意味、予想通りだった。

 勝利すれば3大会ぶりの本大会出場が決まるサウジアラビアと、すでに予選突破を決めていた日本ではまずモチベーションの部分で大きな差があった。またサウジアラビアは前節UAEとのアウェー戦から中6日の試合であり、同じ中東エリアのUAEからの移動距離も短い。一方の日本にとってはホームでのオーストラリア戦から中4日の強行軍で長距離移動も強いられた。

 しかも、30度を超える気温と80%近いという高い湿度の中での試合。ハリルホジッチ監督も選手の疲労を考慮してメンバーを編成してみたが、それでも両チームの間には大きなコンディション差が存在していたことは明らかだった。

 これだけのマイナス材料があれば、日本がアウェーでサウジアラビアに負けるのも無理はない。そもそも両チームが同レベルのコンディションで戦ったとしても勝てる保証のない厳しいアウェー戦だったのだから、日本はオーストラリア戦で本大会出場を決めたことが何よりの幸運だったと見るべきだろう。

 実際、サウジアラビア戦における日本のパフォーマンスも乏しいものだった。前半は慎重に戦うサウジアラビアに合わせてしまい、アグレッシブさはゼロ。後半は開始からアクセルを踏み始めたサウジアラビアにかき回されてしまい、守備が破たんする場面がしばしば見られた。1-0というスコアは論理的な結果だ。

 注目された日本のスタメンも、特にオーストラリア戦はベンチだった本田圭佑と岡崎慎司はインパクトを残せないまま途中交代。2年ぶりに代表に復帰した柴崎岳はセットプレーのキッカーとしていくつかチャンスを作ったが、決定的な仕事はできずに終わっている。及第点を与えられるパフォーマンスだったのは、左サイドで守備に貢献した原口元気、運動量の落ちなかった井手口陽介、そしてGK川島永嗣くらいだろうか。それだけにチーム全体として低調に見えたことは否めない。

 いずれにしても、アジア最終予選グループBの全日程を終了し、最終的に日本はグループ首位通過を果たした事実は変わらない。ただし、2位サウジアラビアとの勝ち点差は1ポイント。また、得失点差で3位となったオーストラリアとも1ポイント差だった。オーストラリア戦後の選手からも多く聞かれたが、近年のW杯アジア予選の中では類を見ないほどの苦戦を強いられた印象は拭えなかった。

 たとえば前回、2014年大会のアジア最終予選では同じ首位通過でも2位オーストラリアとの間には勝ち点4ポイントの差があった。また首位オーストラリアに5ポイントの差をつけられて2位通過だった2010年大会の予選も3位バーレーンとの実力差は明らかで、2試合を残して本大会の切符を手にしている。さらに遡り、2006年大会の最終予選も首位通過を果たしたが、その時は日本と2位イランが2強のグループで、イランと3位バーレーンの間には9ポイントもの大差があった。

 それら過去と比較しても、今回の予選でどれだけ苦しんだかは想像に難くない。そして、その要因のひとつとして挙げられるのは、今回の予選を通して日本代表選手個々のレベル低下が露呈した点である。

 2010年ワールドカップ南アフリカ大会からブラジル大会までの4年間は、2010年大会での活躍をきっかけにその後、多くの選手がヨーロッパのクラブで活躍。その中で個々が成長を遂げていた上げ潮のチーム状態にあった。

 しかし、現在は本田、岡崎、香川真司といった当時成長していた選手たちがピークを過ぎ、右肩下がりのチーム状態になっている。残念ながら、ベテランとなった彼らを弾き出すような勢いのある戦力も台頭するには至っていない。ロンドン五輪世代、そしてオーストラリア戦でヒーローとなったリオ五輪組のふたり、浅野拓磨と井手口にしてもまだ安心してバトンタッチできるだけの実力は持ち合わせていない。

日本がカリスマ不在で迎える初めてのW杯

 さらに現在の日本代表にはカリスマ的選手も存在しない。これはプロ化してから日本サッカー界が初めて迎えた状況だ。

 初めてW杯の扉を開いた98年フランス大会では、それまで日本サッカーをけん引していたカズから中田英寿へのバトンタッチが話題となった。その後、中田の時代は彼が現役を引退した2006年大会まで続き、その後は中村俊輔がその地位に君臨。そして2010年大会から本田が日本サッカー界のカリスマとなった。

 現在、日本代表の選手はみな横一線。同じライン上に立って、来夏に開かれるロシア大会の切符を目指す状況を迎えている。

 昨年10月のアウェーでのオーストラリア戦まで、しきりに本田への信頼を口にしていたハリルホジッチもすっかり態度を変えた。その兆候は翌11月のサウジアラビア戦で本田をベンチに座らせたあたりから始まっていたと見ていいだろう。選手主体から監督主体の戦い方へ。カリスマ本田への信頼が低下したのと同時に、指揮官は自らの手腕に賭ける方針へと舵を切ったことは明らかだ。

 もちろん、これは本田のみならずチーム全体にも言えることだ。予選終盤にかけてメンバーが固定されなかったのは、逆に言えば、どんな状況でも監督が信頼して起用できるレベルの選手がいなくなったことの表れでもある。もし就任当初からハリルホジッチが同様の選手起用をしていたのなら疑問はないが、事実そうではなかったのだから指揮官の悩みも察しがつく。

 こうなると、本番までのカギは残された約8ヵ月で選手個々がどれだけ成長できるかになってくる。ハリルホジッチは前回大会でアルジェリアを率いた時の成功体験をそのまま来年も実行することは間違いないからだ。規律や連動性を植えつけてチーム作りを行なうのではなく、対戦相手を徹底的に分析した上で、調子の良い選手、その試合の戦い方に適した特長を持つ選手でメンバーを編成し、本番に挑むはずだ。

 ただ、前回大会のアルジェリアには、突出したスターはいないもののヨーロッパ主要リーグのクラブで活躍する選手がゴロゴロしていた。それと比べ、現在の日本の選手はどうなのか。おそらく、そこが今後の焦点となるはずだ。

(集英社 週プレNEWS 9月8日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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