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3-4-3より先に4-4-2を! ザックジャパンのオプションが永遠に機能しない最大の理由

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

ブルガリアとの親善試合で、約1年半ぶりに3-4-3システムをテストしたザックジャパン。

ご存知の通り、試合結果は0-2の完敗。しかも、注目された3-4-3も相変わらず機能せず、前半45分間だけの実験に終わった。

5日後に控えたオーストラリアとのワールドカップ予選を前に、ある意味、最悪なプレパレーションマッチとなってしまった。

本来3-4-3は攻撃的なオプション

今回が5回目の実戦チャレンジとなった3-4-3は、かねてからザッケローニが日本代表の戦い方のオプションとして公言するシステムだ。

ただ、そう公言するのは構わないが、実際には未だ機能したことがないし、機能しそうな兆候さえうかがえない。

そもそも、4-2-3-1で定着している現代表に3-4-3を取り入れたのは、2011年のアジアカップ優勝の後のことだ。

3月のチャリティーマッチで初お目見えしたそのシステムは、その後、キリンカップのペルー戦とチェコ戦で公式戦デビューしたわけだが、日本人には馴染みのないその戦術に選手たちも戸惑いを隠せず、結局、その時は機能しないまま2試合連続スコアレスに終わっている。

ここで再確認すべきは、当時ザッケローニが3-4-3を取り入れたいとした理由は、アジアカップでの経験がきっかけだったという点だ。

あの大会の準決勝、対韓国戦。1点をリードする日本ベンチは、延長戦終了間際に5バックにしてなりふり構わずの逃げ切りを図った。いわゆる、イタリア式の守備的選択だ。

結果として韓国に追いつかれ、最後はPK戦で決勝に駒を進めたわけだが、かつてイタリアで攻撃サッカーのシンボルとして注目を浴びたザッケローニは、その時、本心を疑いたくなるような守備的な選択したのである。

少なからず、その古典的な戦い方に対する批判の声も耳に入ったことだろう。

そこで、自身のキャリアを大きく変えた独自の戦術、いわゆる3-4-3という伝家の宝刀を日本代表にも取り入れることに踏み切ったわけである。

このままでは守備的な典型的イタリア人監督に成り下がってしまう、本来私は攻撃的サッカーを好む監督なのだ、と言わんばかりに。

最近、3-4-3は本田不在の時のオプションとして理解する人もいるようだが、2年前のペルー戦やチェコ戦で本田は3トップの右でプレーしているように、トップ下云々という理由ではない。

ザッケローニが考える3-4-3というオプションは、あくまでもサイド攻撃を重視した攻撃的オプション。リスク覚悟で攻撃的に出る時のための戦い方として捉えるべきだろう。

そして、この3-4-3をいかにして機能させるかというメソッドを知るには、このシステムが世に誕生したきっかけを知る必要がある。

それを知らずして、ザッケローニ式3-4-3の本質は見えてこない。

4-4-2が10人になったことで生まれたシステム

時は95-96シーズン。当時セリエAのウディネーゼの指揮を執っていたザッケローニは、強豪ユベントス戦でピンチに陥った。

その試合、4-4-2で戦っていたウディネーゼは、サイドバックの選手が退場となり、10人で戦うことを強いられたのだ。

通常、このケースで多くの監督は4-4-1にシステム変更してバランスを修正する。とりわけ強豪相手となれば、守備重視のバランスに修正するのはごく自然の選択だ。

ところが、この時のザッケローニは違った。1人減ったDFラインを補強せずに3人のラインで維持し、3-4-2の陣形で勝負を挑んだのである。

果たして、非常に攻撃的なバランスで真っ向勝負を挑んだザッケローニは、見事、ユベントスを3-0で完勝して見せたのだった。

以降、ザッケローニは3-4-3を基本システムにした。4-4-2の最終ラインの1枚を前線に移し、両サイドにアタッカーを置く3トップにしたのである。

当時イタリアではトップ下を置く3-4-1-2が主流。そんな中、ザッケローニはサイドを重視した超攻撃的スタイルで一世を風靡し、イタリアで最も攻撃的サッカーをする監督として脚光を浴びたのだ。

よって、ザッケローニ式3-4-3は、オランダ型とも言われる中盤をダイヤモンド型にした3-4-3とは似て非なるものと認識する必要がある。あくまでも、DF、MF、FWの3ラインは、4-4-2と同じコンセプトだ。

3-4-3という数字は同じでも、機能のさせ方、そのメカニズムがオランダ型とは違うのだ。

4-4-2でも攻撃的サッカーは実現できる

イタリアで生まれた4-4-2は、名将アリーゴ・サッキがこの世にゾーンディフェンスを誕生させた、いわゆるプレッシングスタイルだ。

もちろん違うコンセプトで4-4-2を使うイタリア人監督も存在するが、少なくとも、サッキを信奉するザッケローニはそのスタイルを踏襲している。

一方、現在日本国内でも4-4-2を採用するJのチームはあるが、数字は同じでもイタリア式のプレッシング文化は根付いていない。つまり、コンセプトそのものが異なっていて、どちらかと言えば、日本で見られる4-4-2は相手にスペースを与えないようしっかりとゾーンを守り、重心は後方に置いている。

しかし、イタリア式の4-4-2は、重心が前がかりのイメージだ。

ゾーンを守って相手のパスコースを消し、10人が連動しながら前進する。そうやって、相手に圧力をかけるイメージである。

そうすることで、前線からプレスがかかり相手は後方に引く。そして、相手がパスの出しどころがなくなってパスミスやコントロールミスを誘ったところで、高い位置でボールを奪って速攻を仕掛けるというコンセプトだ。

要するに、現在ザッケローニがトライしている3-4-3も、そのイメージとなる。

だからこそ、ブルガリア戦で弱気な横パスやバックパスをするたびに、ベンチのザッケローニは怒りを露にしたのである。

もちろん、言うは易しだ。これを機能させるのは容易なことではない。

逆に、なぜこれをイタリア人が出来るのかと言えば、10代の頃からこのプレッシングのトレーニングを肌で覚えさせられているからなのだ。

頭で考えるのではなく、身体が自然と反応できるかどうか。そこが問題なのだ。

しかも、4-4-2でプレッシングサッカーができなければ、より高度な3-4-3でのプレッシングは夢のまた夢という話とになる。

もっとも、この2年間でわずか5度しか試していないことからすると、ザッケローニがどこまで本気でこのオプションに取り組んでいるのか疑問は残る。

ブルガリア戦にしても、まったく自分のイメージとは違うサッカーになっていたことで、前半45分間で実験を中止してしまっている。そんなことが、断続的に続いている。

もちろん、5日後に控えたオーストラリアとの予選のために、これまで重用している4-2-3-1の再調整をしたかったという意図もあっただろう。

しかし、ザッケローニ式3-4-3は、極めて特殊なシステムであり、現在ヨーロッパでこれを採用しているチームは見当たらない、ある意味、絶滅種的な攻撃的システムでもあることを理解しておく必要がある。

毎日トレーニングを積めるクラブと違い、代表は一時的に集められるチームである以上、数日のトレーニングや数回の実戦テストでは永遠に機能しないだろう。

個人的には、強豪と真っ向勝負で攻め勝つ可能性のある3-4-3を基本システムにしてほしかったが、現状、もうそれは望めそうもない。

だとしたら、複雑なメカニズムの3-4-3で攻撃的オプションを見出すよりも、そのメカニズムの基本となる4-4-2でそれを見出す方が現実的だ。

そういう意味では、0-1でリードを許している状況で迎えた残り30分間を、本田と香川の2トップにして、長友を左MFに置いて攻めるような4-4-2の攻撃的オプションに取り組む方が有効だと思われる。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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