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【ファン・ウェルメスケルケン際】 オランダリーグで充実のシーズンを過ごす際 成長の軌跡

中田徹サッカーライター
ファン・ウェルメスケルケン際 【撮影:中田徹】

■ 推進力のあるドリブルが武器

 ファン・ウェルメスケルケン際(26歳。PECズウォーレ)が好調だ。右サイドバックを主戦場にする際は、チーム事情に応じて左サイドバックも務め、今季6節を終えた時点でフル出場を継続している。10月24日の対ウィーレム2戦(0対0)ではマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。

 ヴァンフォーレ甲府時代はウインガーだったこともあり、推進力が際の持ち味の一つ。ウィーレム2戦では2度、長駆ドリブルから見せ場を作り、そのうち一度は後ろから相手にシャツを引っ張られても、倒れること無くバイタルエリアに突き進んでいった。

「後ろから引っ張られても負けないで、そのまま推進力を生めるところを見せたかった。あそこで簡単に倒れてしまうと、見ている人に『ドリブルは速いけれど強くない』という心証を与えてしまう。だけど、あそこは良いシュートを打って終わりたかったですね」

■ 目標は『ゴールを奪えるサイドバック』

 際は今、『点の取れるサイドバック』になろうと取り組んでいる。試合前のアップ時にも、インステップやインサイドで念入りにシュートの感触を確かめる際の姿があった。今回のドリブルにも、ゴールに向かう意識が垣間見えた。

「今季は上がっていくだけでなく、“ゴール”を意識して攻撃参加してます。これまでスペースがあると、サイドラインに並行してドリブルすることが多かった。今回はゴールに直結しそうなドリブルができたので、そこは良かったと思います」

 10月の中断期間に行われたユトレヒトとの練習試合で、際は目の覚めるような強烈なシュートでゴールを決めている。

「実は、ユトレヒト戦で僕は2ゴール決めたんですが、不可解なオフサイドの判定で1点取り消されてしまったんです。両方ともほぼ同じ角度のボレーシュート。右サイドバックとしてユトレヒト相手に開始から35分という短い時間で2ゴール決めたのは良かった。やりたいことがちょっとずつ形になってきているので、公式戦でも貪欲にゴールを狙っていきます」

■ ドルトレヒトの寮生活で学んだこと

 オランダ1部リーグ2年目にして「このレベルに順応してきたと感じる」という際は、「これまでの移籍一つひとつに意味があった」と言う。

 18歳のときにオランダに渡った際にとって最初のクラブはドルトレヒトだった。リザーブチームのウインガーだった際は、味方の負傷によって急遽サイドバックにコンバートされた。それと同時に、際にプロへの道が拓けた。

 ドルトレヒトでの寮生活では、ウィリアム・トロースト=エコング(現ワトフォード)がナイジェリア代表としてデビューし、ワールドカップへ羽ばたいていく姿を間近に見た。

「トロースト=エコングだけでなく、他にもドルトレヒトにはオランダ1部リーグや他国のリーグに羽ばたいて行った選手が何人もいた。今から思うとドルトレヒトはプロの環境じゃなかった。しかし、『このレベルでもちゃんと上に行けるんだ』ということを再確認できたことは大きかったです。変におごりを持っている選手は伸びてない。やっぱり腐らずひたむきにやってる選手ほど上に行ってます」

■ サポーターを『友だち』と呼んでいた際

ドルトレヒト時代の際は、サポーターとの付き合い方が独特だった。試合後のインタビューを彼に頼むと「ちょっと、これから友だちと会ってくるんで、インタビューはそれからでもいいですか?」と言うことが何度もあった。この“友だち”とはドルトレヒトのサポーターのことを意味した。サポーターを“友だち”と呼ぶプロサッカー選手は際以外に聞いたことがない。

 レギュラーになってから2年目、際はチームの年間最優秀選手に選ばれた。「プレーのコンテンツだけでなく、僕のことをサポーターが好きでいたから選んでもらえた部分もあったと思います」と際は振り返る。当時のドルトレヒトは2部リーグで19位と低迷し、チームとサポーターの雰囲気は悪く、試合が終わると選手が一目散にピッチから引き上げる中、際だけはサポーターに挨拶して回っていた。

「チームのマスコットのように、僕のことを応援してくれました。ドルトレヒトは小さなクラブで、サポーターとの距離が近かった。仲が良すぎて友だちの家によく寝泊まりしてました(笑)。近いからこそ礼儀を忘れてはいけなかったので、おごらずに挨拶した結果、サポーターが僕のMVPの助けになってくれたと思います。クラブが大きくなればなるほど、ドルトレヒト時代のような距離感でサポーターと接することは難しいですが、その心を忘れてはいけません」

■ オランダ2部リーグのベスト11に

 続くカンブール(オランダ2部リーグ)は、フリースラント州都のレーワルデンにある人気クラブということもあり、「勝つためにプレーする『勝者のメンタリティー』や本当にたくさんのサポーターの前でプレーすることを学べました」という。

また、より攻撃的なチームに入ったことにより、右サイドバックの際には前への推進力が求められた。相手のプレスを受けても簡単にボールを下げること無く、マークを剥がして攻撃につながるプレーやドリブルを伸ばすことが出来た。この部分は、際にとってストロングポイントになっている。

 カンブール2年目の18/19シーズンにオランダ2部リーグベスト11に選ばれた際は、PECズウォーレに移籍してオランダ1部リーグを戦いの舞台に移した。

■ ライバルからのアドバイス

 PECズウォーレの右サイドバックはキャプテンのブラム・ファン・ポーレンというベテランがおり、際は「どうやって彼からレギュラーの座を奪おうか」と悩んだ部分もあった。しかし、ファン・ポーレンは際に「君にはドリブルという長所がある。このレベルでボールを奪われると失点につながるから考えてプレーしてないといけないけれど、僕には持ってないものがあるんだから、もっと自分を出してトライしていった方がいい」とアドバイスをくれた。そのファン・ポーレンは今季、センターバックにコンバートされ、際と共にPECズウォーレの最終ラインを支えている。

「さすがチームのキャプテンだけあって、彼は人格者でした。同じポジションの僕への対抗心を出さず、ヘルプをしたりケアをしたりしてくれることが多く、リスペクトも感じました。そういう選手とポジション争いができてよかったです」

 オランダに来て8シーズン目、まさに脂の乗り切った際は、今季の抱負をこう語る。

「怪我をせず、コロナにかかることもなければ、今季はカンブール時代のように全試合に絡めるシーズンになると思います。だから、しっかり自分のメンテナンスに気を使いたいですね」

 日本代表への思いを胸に秘め、際は充実のシーズンを過ごしている。

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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